海外アジアファッションビジネスコンサルタント、そしてバイヤー、ディストリビューターとして海外企業と密に関わる横堀良男さん。日本人が海外になじむコツは “キャラ変”?

うちはいま、海外企業とコンサルティング契約をして店舗仕入れのサポートをしています。この仕事を始めたきっかけは、香港人の女性バイヤーに「私の代わりに日本企業に仕入れ交渉してくれないか」と頼まれたからです。「欲しいものがあって、こっちで絶対に売れるのに、電話しても切られちゃうし、メールは返信してこない」と(笑)。

日本人って、英語で電話がかかってくると切っちゃうことが多いじゃないですか。彼女はそれがもどかしくて仕方がない。うちと取引すれば絶対に儲かるのに、条件だってめちゃくちゃいいのにって。これはたぶん、全世界が思ってますよ。中東の人も、「日本人、超面倒くさい!」ってみんな言いますもん。

どう面倒くさいかというと、まず英語がしゃべれない。アジアは基本的にトライリンガル(3ヵ国語を話せる)の人が多いので、英語がダメってありえないんです。あと、決裁に時間がかかるじゃないですか。展示会でも、海外バイヤーが「いっぱい買うよ!」と言っているのに、「じゃあ、ボスに確認します」となるので、「え、決定権もないのにここに来たの?」とイラッとするんです。日本企業あるあるですね(笑)。

商談に意味なく2~3人で来るのも評判が悪いですね。担当者1人でよくないですか? しかも、なかなか本題に入らない。もう「この会社、ダメだ」とレッテルを貼られますよね。わざわざ時間を割いて会っているのに、彼らは何をしに来たのかわからない。アジェンダ(議題)がないと感じてしまう。

つまり、商談のスタイルが日本と海外では逆なんです。海外はいきなり本題に入る。先に世間話や探り合いはしない。商談が終わってから雑談をすることは多々ありますけどね。

海外にうまくなじむために国境を越えたら「キャラ変」

日本人は国内と海外ではキャラチェンジしたほうがいいですね。僕はそれを「高校デビュー」と言ってますが、中学校までオタクキャラだった子が、高校からギャルになったりするじゃないですか。海外ではそのくらいガラッと感覚を変えて、日本で売れていても、プッシュするアイテムや特性を見直すべきなんです。

英語の言葉遣いも、相手によって変えなければうまくいかないですよ。たとえば、僕のシンガポールのクライアントはラグジュアリー系なのにパンク好きで、むちゃくちゃスラングが多いんです。そこでは僕もわざと英語のスラングを交えながら軽いノリで話します。

でも、インドネシアに行ったら一切スラングは出しません。インドネシアはステイタス社会なので、富裕層と付き合おうと思ったらそれなりの言葉遣いがあるんです。そうしたことも含めてキャラ設定をしていかないと淘汰されます。

現地で精度の高い情報を入手するちょっとしたコツ

海外でビジネスをするには、現地の情報って必要ですよね。アジアで使えるちょっとしたコツがあるんですけど、僕の場合、「カントリーマアム」というお菓子が武器です(笑)。日本でごっそり買って、現地で配りまくってます。

これ、本当に効果があるんですよ。ジャカルタのある会社では、僕がカントリーマアムを出すと、ちょっとした騒ぎになりますからね。万人に愛される味なのですが、メーカーが海外展開してなくて、現地では高価なので喜ばれるんです。僕は、「おいしいお菓子をバンバンくれるめっちゃいい人」として、誰とでもすぐ打ち解けられます。ショップの店員さんにも配ってますよ。たった数百円のコストで、「この会社にいくらで卸したらいいかな?」「この服、ほんとに20 代に売れてるの?」みたいなことも快く教えてくれますよ。僕はこれを最強のアンダーテーブル(わいろ)と呼んでます。

お菓子のほかにも、一緒に仕事をしていた日本企業が手がけた「お守り」をあげたことがありますが、「かわいい!」って喜ばれましたよ。宗教的な背景を気にする人もいるので「日本のラッキーチャームだよ」って言ってあげればいいんです。あと、日本の空港のお土産ショップのカウンターで無料でもらえる折り鶴があれば、見逃さず必ずもらいます(笑)。

自分なりに工夫して、現地のいろんなポジションの人と仲良くなってSNS でつながっておけば、メッセージ機能で気軽に質問できるし、情報の精度もすごく高い。リサーチの専門業者に依頼するよりずっと有益ですよ。僕は仕事の7 割はヒアリングだと思ってますから。

予算の心配をするよりもアイデアと行動力で切り拓く

アジアでは、「アイデアを出して行動する人」が求められています。とくに行動力とアイデアのある人は、インベスター(投資家)が投資先として注目しています。インベスターはアイデアと行動力はないけれど、お金を使ってレバレッジ高く回収したい。だから、アイデアと行動力がある人にお金を出すんです。「お金はないけど、アイデアを出して何かやります」「がんばって集客します」と言うと、「それなら会場代をディスカウントするよ」などと現地でのコストを下げてもらえることも多いんですよ。

究極、海外展開の予算なんて、航空券とお土産のお菓子が買えればいいんです。

僕がいま推奨してるのは、情報収集を兼ねて、10ヵ月間、毎月海外でポップアップイベントを行うこと。すると必ず、「えー、毎月なんかできないっすよー」と言われるのですが、「できますよ。いま飛行機安いし。毎月できなかったら、僕もう御社とは仕事しませんから」と、はっきり言います。だって、そのくらいできなかったらスピード遅いですもん。年に1回じゃ10年かかるし、その頃に世の中がどうなっているかわかりませんから。

とにかく、すぐやる。毎月やる。なんでも一旦、「イエス」と返事をするんです。売れるか売れないかのポップアップイベントではなくて、ネタとコンテンツを工夫して、人を集めるためのアイデアを出す。そうやって行動すればゴールは見つかるし、現地のことがわかってきます。

それは実際、僕自身が経験したことなんです。僕はかつて、なんのアポイントもなく20回海外営業に行き、1着もオーダーが取れなかったことがあります。まわり中に「バカじゃないの」と笑われましたが、攻め続けたんです。そうしたら21回目に、香港のバイヤーが「きみ、すごいね」と声をかけてくれたおかげで、セラーからバイヤーに転向し、大きな取引を始めることができました。

「10回やって1回うまくいけばいいや」くらいに考えて突き進むことですね。最初は失敗します。でもだいたいは10回目くらいでなんとかなります。20回も失敗したのは僕くらいですよ(笑)。「Sサイズが売れると思ったのにMしか売れない。なぜだろう」と考えたり、目の前のお客さんに「どうしてMがいいの?」「これ、どこが好き?」と聞きまくるんです。そこから商売のヒントが見えてくるし、その行動力にお金を出す人が現れます。

グロースハックしながら柔軟にいろんな可能性を探る

たとえば「ここの帽子を売ろう」と思ってサイトをつくるじゃないですか。切り口はいろいろありますけど、まずはちょっとふざけたテイストのショップサイトをつくる。でも、全然みんな見てくれなくて反応が悪ければ、そのサイトはすぐ閉める。今度は、同じ見え方だけどデザインをちょっと変えて、「パンダの帽子屋」というサイトをつくってみる。
これはグロースハックといって、IT系の会社がやる手法です。1回進んで行き止まりだったら次の路地に入っていく。当たるまで片っ端から試してみる。

みんな「商品を売る」ことだけを目標にしがちなんですが、でも、たとえば、インドネシアは国内産業を守るために関税が高かったりするので、輸入は厳しい。中国は増値税がありますよね。国によって障壁は違います。そうしたときに、生地や染色などの会社であれば、売ることだけを考えるのではなく、生地をつくるための技術顧問をしてもいいわけです。「商品を売る」ことだけに固執しないで、どんどんリフレーミングしながら可能性を広げたほうがいいと思います。

英語は専門用語がわかればOK
基本の現地語と土地勘も大事です

それから、海外では歩いてみて、街の位置関係や距離感くらいは最低限覚えておいたほうがいい。当たり前ですけど、土地勘がないと商売に影響が出ますよ。たとえば渋谷のお店と取引をしているのに、原宿の社長から連絡が来て、「やりましょう!渋谷とは駅が違うから平気」って言われて、渋谷のお店に確認も取らずに商売を始めたら怒られることもありますよね。そういうことがわからなければダメですから。

これを言うと驚かれるのですが、僕、英語を一度もまともに勉強していないんです。しかも、32歳で初海外でした。いまでもじつは8 割くらいしか相手の英語が聞き取れていません。ただし、「発注書」「輸出証明書」「納期」といったビジネス用語や、業界の専門用語は全部わかります。それだけ覚えれば勝ちなんですよ。通訳もほぼ使いません。

それよりも、最低限、「ありがとう」「すみません」だけは、現地語で暗記していくようにとスタッフに言っています。それから「おいしい」も。それは現地の人たちとごはんを食べに行くときの最低限のマナーなんです。日本でも外国人を食事に連れて行って、帰りに「オイシカッタデス」と言われたら、この人絶対いいやつだ!と思うじゃないですか。

つたない英語でも礼儀正しくフレンドリーに振る舞い、相手を喜ばせることができれば、情報も集まってくるし、こいつから買おうと思ってもらえて、結果的に事業になっていくんです。