ニューヨークで起業し、バイヤーを経て自ら輸入販売業を手がけ、全米一の国際見本市・NEW YORK INTERNATIONAL GIFT FAIR / ACCENT ON DESIGN では総合賞を受賞した松浦隆展さん。その多角的な経験に基づくアドバイスとは?

「海外で勝負をしたい」という熱い思いが苦労を吹き飛ばす

僕がニューヨークに渡り、米国法人を設立したのは1986年の春。いまからもう30年以上も前のことですね。資金もコネクションもなく、あるのは無謀ともいえるチャレンジ精神と、公私共にパートナーである現ワイフだけでした。

アメリカはとても拓けた市場で、意欲や実力があれば、人種が違ってもフェアに評価してくれます。しかし、言葉も通じず、文化も違うという市場で勝ち抜いていくには、それなりの覚悟が必要です。

日本でコンサルティングをしていると、「助成金が出たから海外展開する」という企業の話をよく聞きます。そして、商品が売れないと「デザイナーが悪い」「バイヤーが来ない」と文句を言う人がいるのですが、それはもう、はき違えているとしか言えませんね。 成果が出なければ、まずご自身が何をやっているのかを振り返るべきだし、そもそもそんなに簡単に海外のマーケットを開拓することができると思っているのなら、やめておいたほうが無難です。

僕の経験からいうと、やはり「なぜ海外展開が必要なのか」ということをオーナーがよく考え、「海外で勝負をしたい」「挑戦したい」という熱い思いがないと、あらゆる壁をとても乗り越えられないのですよ。 日本市場で事業がしっかりとまわっているのなら、自社の商品が海外市場で本当に受け入れられるのかをじっくり考えて行動を起こすことだと思います。

日本企業のブースが買い付けをしにくい理由

ただ、僕は逆に海外で事業をしてから日本に戻ってきて、日本ではすごく仕事がやりづらいと思っている部分もあるんです。日本人とビジネスの交渉をするのはとても厄介だし、欧米の会社と仕事をしたほうがよほどスピードがあると感じます。

たとえば、僕はバイヤーという仕事から事業をはじめたので、いまでも海外のクライアント向けに商品の輸出や商品開発をしていますが、日本企業のブースは総じて買い付けがしにくいですね。 ものを買う側と売る側とではまったくスタンスが違いますが、たぶんそこに気がついていない日本企業が多いんじゃないかな。展示会では、もっとバイヤー目線でアピールしたほうがいいですよ。 売る側が思う以上に、バイヤーはシビアな立場に立たされています。予算を預けられ、買い付けたものが売れたかどうかを毎回評価されるわけですから、すごいプレッシャーなんです。 そして会期中のバイヤーは、ものすごく忙しい。仮に4日間のうちに大きな予算で買い付けをしようとなると、経験上、朝から晩までびっしり動き回らないと間に合いません。予算内でどれだけ利益を上げる棚をつくるかを必死で計算しながら、足早に会場内を見て回っているわけです。 ですから、ブローシュア(小冊子)ひとつとっても、もっと簡潔に自分たちの魅力を伝える工夫をする必要があります。写真の撮り方、プライスのつけ方、ブースのディスプレイ、すべてにおいて「この商品をあなたの棚に置いたら、こんなふうに魅力的に見えますよ」「売れますよ」ということがパッと一目で伝わらなければなりません。 ところが、商品は置いてあってもカタログがない、プライスがついていない、納期を尋ねても要領を得ないのでは、「何をしに来たの?」となります。 多くの海外のバイヤーは、日本企業のこのような対応に戸惑うことが多いのです。

“本質的な価値” の追求がグローバル市場で勝ち抜く秘訣

価値観の違いも大きいですね。たとえば日本の伝統工芸は、多くのアメリカ人にとって「So what?(だからなに?)」というものです。漆製品には何百年もの歴史があり、熟練した職人が……と説明してもピンとこない。むしろ、「なんでこんなに高いの?」「なんで食洗機が使えないの?」という実利的な話になってしまいます。 ですから、展示会でどのように訴えても、「ああ、そうなの、すごいね。勉強になったわ。でも買いません」というバイヤーがほとんどです。買い付けるリスクが大きいのですね。日本の伝統・文化に根付いた商品は、国内でこそ価値が見出されるもので、無理に海外市場に持っていかないほうがよいのではないかと思います。

一方で、グローバルな価値を持った商品であれば、アメリカ、ヨーロッパ、中東、アジア、世界のどの市場でも通用します。

我々はいわゆるアップスケールなお客様(富裕層)をターゲットにしていますが、彼らは一律に“本質的な価値”を見抜く目を持っています。その商品にグローバルな価値を見出せば、製造国や規模、金額を問うことはありません。 一つひとつ本質的な価値を突き詰めてものづくりをしていけば、日本でも売れるはずだし、海外に持って行っても売れます。

中小企業の場合、マスマーケットに参入すると価格競争に対抗できないので、富裕層が満足するような価値を追求するビジネスのほうが向いているのではないかと思います。

海外展開が本格化したらショールーム開設の検討を

我々は、2001年からアメリカ市場でライフスタイル関連の日本製品の販売をスタートし、2003年にニューヨークにショールームを開設しました。

ショールームを持つ利点は2つあり、1つはやはり商品をきちんとセットアップしてバイヤーに見せることができること。もう1つは、ショールームが集積しているビルに入ることで、自分たちが持っていないチャネルのバイヤーが気軽に立ち寄ってくれる機会が増えることです。

インターネットの普及で時代背景が変わり、賃料が高すぎるニューヨークではショールームは下火ですが、シカゴやロサンゼルス、アトランタ、ラスベガスなど他の都市ではちゃんと機能しています。やはり家具やテキスタイルは実物を見ないとバイイングできませんからね。展示会で海外市場の感触をつかんだら、ぜひこうしたショールームもまわってみてください。

「地域一番店」に並べば各国のバイヤーの目に留まる

「地域一番店に入れる」のも効果的な戦略です。場所は日本でいう銀座や青山のような一等地。そこでもっとも洗練された人気店を目指すのです。 なぜなら、バイヤーはそうした店に必ずリサーチに行くからです。その国のバイヤーだけじゃなく、世界各国のバイヤーがやって来るため、その後の可能性が大きく広がります。 もともと買い手側はパワーバランスでは強いわけですから、なるべく対等に話ができるように考えて動いたほうがいいですね。

ひとつ言えるのは、やはり欧米のマーケットをわかって商品づくりをしなければ、買い手はつかないということです。よく、外部のデザイナーやクリエイティブディレクターを起用してデザインを変えましたという話がありますが、彼らは本当に欧米のマーケットをわかって商品づくりをしていますか? 悲しいことに、ほとんどわかっていないケースが多いと思います。 まずは企業オーナーや商品開発担当者が、もっと欧米マーケットの調査をしなければならないと思いますね。

海外展示会に出たら、僕は会場にいるよりも街を見たほうがいいと思う。街角でコーヒーを飲むのもいいじゃないですか。現地の人たちが何を食べて、どんな服を着て、どんな暮らしをしているのかというライフスタイルを知ることはすごく重要です。タクシーに乗るんじゃなくて、自分の足で歩いて、風を感じて。肌で感じた風土って、すごく吸収できるんです。 そして、パリだったらどこのショップに入れたいというように、ターゲットを絞り込んでいくといいですね。どういったものが一番いい棚に並び、どのくらいのプライスなのか。競合となるブランドはどこなのか。そこはどんな色展開やデザインをしていて、他にどういうリテーラーが扱っているのか。そういうことを、もっと好奇心を持って研究してみてはどうでしょうか。