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海外営業・海外取引で発生する個人情報管理とは?

海外営業・海外取引で発生する個人情報管理とは?

はじめに

海外営業では、展示会でもらった名刺を営業リストへ登録したり、海外企業からの問い合わせ内容を社内で共有したり、代理店へ顧客情報を送ったりすることが日常的に行われています。また、英文メールはGeminiやClaudeなどの生成AIサービスを参考に作成し、Microsoft Teamsで商談し、DropboxやOneDriveで資料を共有する企業も増えています。

こうした業務は海外営業ではごく当たり前のことですが、個人情報の取り扱いを誤ると、取引先との信頼低下や営業停止、海外企業から情報管理体制を問われるきっかけになることもあります。本記事では、海外営業担当者によくある仕事の流れに沿って、「どんな場面で、どんなリスクがあり、どうすれば安心して海外営業を続けられるのか」を分かりやすく解説します。

海外展示会でもらった名刺、そのまま営業リストにしていませんか?

海外展示会が終わると、集めた名刺を営業リストへ登録し、お礼メールを送ったり、新製品情報や展示会の案内を配信したりする企業は少なくありません。海外営業ではごく当たり前の仕事であり、「名刺交換をしたのだから、その後も営業メールを送って問題ない」と考えている担当者も多いでしょう。

しかし、海外企業の担当者が名刺を渡した目的は、「今回の商談を進めるため」であることも少なくありません。その後も継続的に情報提供を受けたいとは限らず、本人が想定していなかった営業メールやメールマガジンが届くことで、「いつの間に配信リストへ登録されたのだろう」と不信感を持たれることもあります。また、展示会で集めた名刺を海外代理店やグループ会社へ共有した結果、面識のない企業から突然連絡が届き、戸惑わせてしまうケースも考えられます。

【実はNGな対応】
展示会終了後、名刺交換した相手全員へ定期的な営業メールやメールマガジンを配信する。さらに、営業活動を効率化するため、名刺情報を海外代理店やグループ会社へまとめて共有する。

【海外でも評価される対応】
まずは商談のお礼や約束した資料、見積書など、展示会で約束した内容を優先して連絡します。その後も継続して新製品情報やセミナー案内などを送りたい場合は、「今後もご案内をお送りしてもよろしいでしょうか」と一言確認したり、自社ホームページのお問い合わせフォームで「メール配信を希望する」といったチェック欄を設けたりする方法があります。また、配信メールには配信停止(解除)の方法を分かりやすく記載しておくことも、相手が安心して情報を受け取るための大切な配慮です。

海外営業では、一度配信停止や苦情になった相手へ再びアプローチすることは簡単ではありません。展示会で得たせっかくの出会いを一度のメール配信で失わないためにも、「どのような情報なら相手に歓迎されるか」を意識したフォローが、次の商談や受注につながります。

海外企業から預かった情報、どこまで社内で共有していますか?

海外企業から問い合わせが届くと、営業担当者だけで回答できることはほとんどありません。納期は製造部門、仕様は設計部門、品質は品質保証部門へ確認し、必要に応じて社長へ相談するなど、一つの案件でも多くの人が関わります。英文メールをGemini※1などで翻訳したり、Microsoft Teams※2で社内打ち合わせを行ったりしながら回答を作成することも、今では珍しくありません。
このように、問い合わせ内容を社内で共有すること自体は、海外営業ではごく自然な業務です。

しかし、その共有は会社として管理されているでしょうか。それとも営業担当者の判断だけに任されているでしょうか。

海外企業からの問い合わせには、担当者名やメールアドレスといった個人情報だけでなく、開発中の製品、導入計画、現在の課題、新しい取引先を探している理由など、まだ公表されていない情報が含まれていることがあります。

【実はNGな対応】
営業担当者が「仕事を進めやすいから」と問い合わせメールをそのまま社内へ転送し、印刷して回覧したり、必要かどうかを考えず複数部署へ共有したりする。
誰がどこまで見てよいのか、どこまで社外へ説明してよいのか、といったルールが決まっておらず、情報管理が担当者個人の経験や判断に委ねられている。

【海外でも評価される対応】
案件対応に必要な人だけへ情報を共有し、技術確認なら技術に必要な部分だけ、納期確認なら納期に必要な部分だけを伝えるなど、「必要な情報を必要な人へ」という考え方を社内で共有します。
また、海外企業との商談では、自社の営業秘密だけでなく、相手企業から預かった情報も同じように大切に扱うという意識を持っています。

海外企業を訪問すると、日本企業の担当者が良かれと思って「実は現在こんな開発も進めていまして」「○○社とも商談中です」とつい話してしまう場面があります。逆に、海外企業の中には、打ち合わせ前にNDA(秘密保持契約)への署名を求め、「この内容は社内でも必要な人だけで共有してください」と明確に伝える企業も少なくありません。

海外営業では、情報管理は営業担当者一人の気配りだけに任せるものではありません。会社として「誰が、何を、どこまで共有するのか」という考え方を持つ企業ほど、海外企業から安心して相談されるようになります。そして、その信頼が、新しい相談や共同開発、長期的な取引へとつながっていきます。

※1 Gemini:Google社が提供する生成AIサービス
※2 Microsoft Teams:Microsoft社が提供するビジネス向けコミュニケーションサービス

オンライン商談の録画・スクリーンショット、相手に確認していますか?

海外企業との商談では、Microsoft TeamsやGoogle Meet※3、Zoom※4などを使ったオンライン打ち合わせが一般的になりました。商談内容を後で確認するために録画したり、AI議事録サービスで文字起こしをしたり、共有画面をスマートフォンで撮影したりすることもあります。

便利な一方で、オンライン商談には相手の氏名、顔、音声、発言内容、画面に映った資料、背景など、多くの個人情報や企業情報が含まれています。特に海外企業との商談では、写真や録画の扱いに対する考え方が国や企業によって異なることもあります。国や地域によっては、宗教や文化的な理由から、顔写真や服装、執務環境などを外部へ公開することを好まない場合もあります。

【実はNGな対応】
「社内確認用だから」と録画やスクリーンショットを相手に確認せず保存する。打ち合わせ風景の写真を、相手の了解なく社内報、SNS、自社サイトの実績紹介などに使ってしまう。

【海外でも評価される対応】
録画やスクリーンショットを残す場合は、事前に「社内確認用に録画してもよろしいでしょうか」「この画面を記録として保存してもよろしいでしょうか」と確認します。外部へ掲載する可能性がある写真は、撮影時だけでなく、掲載前にも用途を明確にして確認します。

AI議事録や自動文字起こしを利用する場合は、すべての商談で自動的に録画・文字起こしを行うのではなく、必要な商談だけ利用する、録画する場合は相手へ一言伝える、といった運用ルールを決めておくと安心です。

海外営業では、「撮影してもよろしいですか」「社内確認用に録画してもよろしいですか」「ホームページで紹介してもよろしいですか」と一言確認するだけで防げるトラブルも少なくありません。個人情報管理は難しい制度を覚えることだけではなく、相手への小さな配慮を積み重ねることでもあります。

※3 Google Meet:Google社が提供するWeb会議サービス
※4 Zoom:Zoom Communications社が提供するWeb会議サービス

今日から安心して海外営業を進めるために

海外営業では、展示会で名刺を受け取り、海外企業から問い合わせを受け、オンライン商談を行うなど、日々さまざまな場面で個人情報や企業情報を預かっています。しかし、中小企業では海外営業担当者が一人で多くの業務を担当していることも多く、「これくらいなら大丈夫だろう」という個人の経験や判断に任せてしまいがちです。

一方で、海外企業は、自社の情報を安心して預けられる会社かどうかも見ています。価格や品質だけでなく、「相談した内容を適切に扱ってくれる」「写真や録画を勝手に使わない」「必要以上に情報を広げない」といった日頃の対応も、長期的な信頼関係を築く重要な要素です。

海外営業では、特別なシステムを導入する前に、まずは次のようなことから始めてみましょう。

  • 展示会後の情報提供は、相手が期待する内容を優先する
  • 海外企業から預かった情報は、必要な人だけで共有する
  • 録画や写真を利用する際は、一言確認する習慣をつける
  • 自社ではどのような場面で個人情報を扱っているか、一度書き出してみる

こうした小さな取り組みは、決して難しいことではありません。しかし、担当者一人の判断ではなく、会社として共通の考え方を持つことで、海外営業はより安心して進められるようになります。

実際のところ少し前までは、優れた製品や技術があれば選ばれる時代でした。しかし現在は、それに加えて「安心して仕事ができる会社かどうか」もシビアに評価されています。海外営業では、情報管理が悪かったことを理由に、海外企業から直接クレームを受けることは、それほど多くないかもしれません。しかし、その会社への相談が減る、本来紹介されるはずだった案件が別の企業へ流れるなど、目に見えない形で少しずつ差が生まれていくことがあります。気付いたときには、「最近、海外からの引き合いが減った」「以前なら相談してもらえた案件が来なくなった」と感じる企業もあるでしょう。

一方で、海外企業から継続して選ばれる企業は、「どうすれば相手に安心して相談してもらえるか」を常に考え、選ばれる配慮を積み重ねています。もちろん、情報管理だけで海外営業が成功するわけではありません。しかし、価格や品質だけでは差がつきにくい時代だからこそ、こうした日々の積み重ねが、「この会社とまた仕事がしたい」と思ってもらえる理由の一つになります。情報管理は事故を防ぐためだけではなく、海外企業から選ばれ続けるための営業力でもあるのです。

筆者紹介

小川 陽子 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

海外営業・海外販路開拓支援を専門とし、約20年にわたり中小企業の海外展示会、海外営業、海外Web活用を支援。海外販路の開拓と社内への海外営業ノウハウの定着を両立する支援を行う。自ら海外展開を目指す中小企業向けWebサイトを運営し、実践・検証を重ねながら現場で役立つ海外ビジネスの情報を日々発信している。

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