中小機構・海外展開ハンズオン支援の窓口にも、「現地子会社の財務状況を日本本社が把握できない」、「現地子会社から報告される財務数値(現金残高など)が、日本本社の予測値・見込値と乖離している」、「現地子会社から月次の財務報告が遅れてくることが多く、子会社の状況に疑問を持っている」などの相談が寄せられます。このような状況は、海外子会社の内部管理体制が適切に整備されていないことが原因で発生します。

今回は、海外子会社の内部管理について、その必要性や適切に実施するための方法を見ていきましょう。

海外子会社の適切な内部管理の必要性

そもそも、海外に子会社を設立した目的は、新たな市場開拓(サービス販路の拡大等)や製造・生産コストの削減あるいは税務面の負担軽減など、会社の売上高や利益を拡大することだったと思います。その目的までの進捗度・達成度合い(現在の売上高や利益の額等)を正確に評価し、今後の方針を立案するためにも、その子会社の財務状況を適切に把握することができる内部管理の整備が必要となります。

ところが、新たな販売先への訪問や低価格の調達先の開拓など、営業や生産業務に注力するあまり、経理や財務等のいわゆるバックオフィス業務がおろそかになっている企業がしばしば見受けられます。そのような会社では、子会社の財務状況を正確に把握できていないため、その子会社の事業計画における現在の立ち位置を適切に把握する、または、今後の必要な方策を効果的に立案することができず、なんとなく子会社を運営しているような状況になっていることが少なくありません。

海外子会社の内部管理が上手くいっていない会社の特徴

まずは、下記の項目について、自社の状況と照らし合わせてみましょう。

  • 日本人駐在員が管理者として赴任していない。
  • 赴任している場合でも、管理系の人員ではない。または、言語を理解できないため(特にアジア・東南アジアなどの非英語圏)、日本人駐在員が自ら業務をチェックしにくい。
  • 現地ローカル社員への依存度が高い。場合によっては、1人のローカル社員に依存しており、ローカル社員間の相互けん制も働かない。
  • 規定類が文書化されておらず、業務が属人化(ブラックボックス化)されている。
  • 日本本社のモニタリング機能が弱い。現地子会社からの報告を求める頻度が低い、または、求める報告の内容が薄い。あるいは、現地子会社から適切に報告されていても、日本本社で適切な確認が実施されていない。
  • 現地子会社の日本本社による内部監査が実施されていない、あるいは、実施していても、言語の問題などで、書類の理解が難しく効果が低い。
  • 現地で適切な専門家(会計事務所、法律事務所など)を利用していない。
  • 現地で会計監査を受けていない。特に現地の法令で外部監査人による会計監査を受ける義務がある場合でも受けていない。

上記の項目で、該当する項目が多いほど、内部管理を適切に実施できていない可能性があります。その場合は、以下の対応を検討しましょう。

海外子会社の内部管理を適切に実施するための対応策

海外子会社の内部管理の改善方法として、理想的には、専門人材の配置やシステム導入あるいは外部コンサルタントとの契約などが考えられます。しかし、資源(ヒト・モノ・カネ)に制約がある中堅・中小企業においては、以下のうち、実施可能な項目からが取り組むのが現実的な対応になります。

  • 諸規定を整備(文書化)する:会社として守るべきルールを明確にするとともに、現地社員がどこまでの意思決定、どこまでの業務が実施可能かなどの権限範囲についても明確にしましょう。また、業務規定の整備は、業務の属人化を防ぎ、現地社員の退職時も引継ぎが容易になります。
  • 日本人駐在員を支援する:現地法人に財務管理系の日本人駐在員を配置できない場合は、現地の会計税務制度セミナーに参加させるなど、日本人駐在員の基礎知識習得を支援しましょう。また、言語対応可能な現地スタッフを配置することも、日本人駐在員が業務を有効にチェックできる環境づくりにつながります。
  • 密なコミュニケーションをとる:日本本社と海外子会社で定期的なミーティング(Web等)を実施しましょう。現状の課題認識を共有することにより、グループとして一体感を高めることができます。また、海外子会社の社員に日本本社で就業も含めて研修してもらう等により人的交流を図ることも有効です。
  • 効果的な内部監査を実施する:日本本社の内部監査人は、現地に渡航前に入念に準備を行いましょう。現地の業務状況、体制等は可能な限り事前に把握し、ヒアリング対象者や確認する書類の指定、その実施日時も調整する必要があります。また現地で会計事務所等と意見交換することも検討しましょう。

おわりに

海外子会社の内部管理を改善し、その財務状況を適切に把握することにより、自社の現状把握や今後の戦略立案をより適切に実施することが可能になります。
多大な労力と資金を投入して、海外への拠点設立までこぎつけられたと思いますので、設立後の拠点運営においても、営業、生産業務だけではなく、内部管理業務にも資源を投入しましょう。
そして、最終的には海外進出の目的である会社の売上高や利益の拡大を達成することを願っています。

筆者紹介

城戸 澄仁 中小機構 中小企業アドバイザー(国際化・販路開拓)

大手監査法人で16年間勤務し、多種多様な企業の海外展開に関与しました。2016年より4年半をメンバーファームのベトナム事務所に駐在し、日系企業の現地ビジネスを支援しました。2021年より独立開業し、日本企業のベトナム進出支援を実施中です。

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