海外向け販売を始める際、取扱説明書やユーザーズマニュアル、製品保証書や商品ラベルについて、翻訳すればそれで済むものなのか、相手国に準じたルールがあるものなのか、どのように対応するのが正解なのか、不安に思ったことはありませんか。今回は、海外向け取扱説明書の作り方についてQ&A方式で詳しく解説します。

【回答1】 

残念ながら、日本語の取扱説明書を英訳しただけでは、海外市場で通用しない可能性が高いでしょう。海外では取扱説明書も製品の一部とみなされます。製品を海外で販売する場合、各国の規制(法律)に基づいた取扱説明書を作成する必要があります。

もし、取扱説明書等の『製品の添付文書への記載要求事項』を遵守せずに販売した場合、罰則が課されることがあります。

また、国別にどの言語が要求されているかの確認も必要で、例えばEUでは最終的に使用する消費者が理解できる言語で取扱説明書を提供しなければなりませんので、複数言語での提供が必要となります。

【質問2】海外向けの取扱説明書を作るにはまず何から始めれば良いですか?

【回答2】 

まずは下記の3つから着手すると良いでしょう。

1)リスクアセスメントの実施

新市場で販売される製品には様々なリスク(危険性や有害性)が内包されています。海外各国と日本国内とで、同じ使われ方をするとは限りません。製造者もしくは販売者自身で予め製品リスクの特定や分析を行う必要があるでしょう。

リスクアセスメントの実施結果から警告注意文等を取扱説明書に反映することにより、製品を安全に使用する上で必要な情報を明確にすることができます。EUにおいてリスクアセスメントの実施は必須要求事項でもあります。

2)『取扱説明書』の国際規格の確認

取扱説明書等の使用情報の国際規格にはIEC 82079-1等があります。この規格を読むと具体的な取扱説明書の記載方法や内容を確認することができます。また、前述のリスクアセスメントの実施も本規格の要求に含まれています。

3)『製品』の各国法規制の確認

製品安全に関する法規制から環境規制、化学物質規制、消費者保護関連法等の確認をします。

具体的には、下記の様なサイトで確認することができます。

EUの各当局:
European Commission(欧州委員会):
https://ec.europa.eu/info/index_en

ECHA(欧州化学機関):
https://echa.europa.eu/

USの各当局:
消費者製品安全委員会(Consumer Product Safety Commission, CPSC):
https://www.cpsc.gov/Newsroom

FCC(Federal Communications Commission):
https://www.fcc.gov/news-events

EPA(Environmental Protection Agency):
https://www.epa.gov/

USの各法規制:
CPSA(Consumer Product Safety ACT):
https://www.cpsc.gov/Regulations-Laws–Standards/Statutes

47 CFR: Telecommunication PART 15 RADIO FREQUENCY DEVICES(FCC):
https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?SID=f32d11e90ec55597e962713fe79634fb&mc=true&node=pt47.1.15&rgn=div5

Chemicals under the Toxic Substances Control Act:
https://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim@title15/chapter53&edition=prelim

【質問3】具体的に何をすれば『リスクアセスメントをした』と言えますか?

【回答3】 

リスクアセスメントはISO12100-1等国際規格に従って実施することが要求されます。製品個別のリスクに対して、どういった情報を、なぜユーザーに伝えなければならないのか?、の根拠を明確にするために実施されます。

前提条件として、

  • 製品の主な仕様
  • 製品の使用目的
  • 使用対象者
  • その他、製品を安全に使用する上で必要な制限事項

を挙げます。

次に、製品のライフサイクル上のリスクを洗い出します。
具体的には、

  • 製品の輸送
  • 搬入
  • 設置
  • 試運転
  • 通常使用
  • 清掃
  • 保守
  • 不具合や修理
  • 分解
  • 廃棄時等

において想定されるあらゆるリスクを具体的に挙げます。
そして、それらを一つ一つ分析・評価します。

最後に、社会的に許容されるレベルまで対策を講じたことを文書化します。

製品仕様上どうしても残ってしまうリスク(残留リスク)については、取扱説明書等の使用情報として、ユーザーに警告注意文等として伝えることになります。

【質問4】国際規格に基づいた取扱説明書にはどのような項目が含まれていますか?

【回答4】

例えば一般的な電気製品の取扱説明書の目次構成は以下の通りです。

目次構成例:

  • 使用目的 及びあれば使用対象者
  • 安全上の注意
  • 各部の名称 及びあれば付属品
  • 使用するまでの方法(セッティング方法等)
  • 基本的な使用方法
  • 保守(保管や清掃方法等)
  • トラブルシューティング
  • 製品仕様
  • 保証関連
  • 廃棄について

取扱説明書の国際規格IEC82079-1は、WTO/TBT協定加盟国が遵守すべき国際規格として制定されており、これに準拠することで、加盟国に対して一般的な記載要求事項を遵守していることが表明できます。

なおIEC82079-1は、取扱説明書に限らず、製品上に記載される情報から包装、カタログまであらゆる製品のあらゆる使用情報についての要求事項が記載されているため、個別の製品については規格詳細も確認して下さい。

【質問5】海外向けの保証書や、商品ラベルについて、何か注意点はありますか?

【回答5】 

製品保証については、消費者保護関連法等にて規定されているため、日本の保証内容をそのまま海外向け保証書に記載すると、法規制違反になる場合もあり、十分に気を付ける必要があります。

保証内容についてはウイーン売買条約や各国の法律に基づき記載内容を考慮する必要があります。現地の弁護士や現地の販売店等にご相談されることを推奨します。

製品上に表示するラベルについては、各国の法規制に基づいた表示が必要になります。

例えば、

  • 製品名
  • 製品モデル
  • 製造者名および住所
  • 輸入事業者名および住所
  • 該当する場合は各国の法規制マーク
    *EU:CEマーク等、 USA:ULマーク・FCCマーク等、中国:CCCマーク等

が必要になり、記載方法の確認が必要です。

いかがでしたか。海外においても日本市場同様、『競争力のある製品』『わざわざ輸入してまで購入すべき製品』だと評価されるには、取扱説明書や保証書、製品ラベルも合わせて『海外仕様』にする必要があります。

『機能的デザイン、高品質製品も顧客の安全を守れてこそ』という企業の決意表明が、日本語のトリセツでは伝わるのに、海外向けのトリセツでは抜け落ちている、というのは、大変もったいないことです。この機会に是非見直してみませんか。

おわりに

中小機構では、

  • 海外向け取扱説明書について一度専門家に相談してみたい
  • 海外向け製品のリスクアセスメントを実施してみたい
  • ウイーン売買条約や各国の法律についてはよく分からないため相談したい
  • これから輸出を始めるがどのようなリスクが想定されるか、あらかじめ取扱説明書や保証書、商品ラベルに、必要なことを盛り込んでおきたい

 などのご相談に常時対応しています。

何が起こってもおかしくないニューノーマルな時代、気になる事や不安な点は早めに対処していくことが、未来のリスクを大きく減らすことにつながります。小さな疑問をそのままにせず、お気軽に中小機構の海外展開ハンズオン支援をご利用ください。

中小機構 中小企業アドバイザー(国際化・販路開拓)石井 康仁 

中小機構 中小企業アドバイザー(国際化・販路開拓) 小川 陽子

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中小機構の「海外展開ハンズオン支援」では、国内外あわせて300名以上のアドバイザー体制で、海外ビジネスに関するご相談を受け付けております。

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