「戦略的知財活用海外展開補助金(正式名称:戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業費補助金)」は、高い技術力を保有し、知財を活用した海外展開に取り組む中小企業者に、出願費用を一部助成するとともに、海外ビジネスの専門家による海外展開サポートを行う事業です。
中小機構では、令和元年度に10 社を採択、以後3年間に渡って、支援を行ってきました。
この記事は事業最終年度である令和3年度に作成した事例集を再編集したものです。
また、戦略的知財活用海外展開補助金は令和3年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。

新たな価値創造により、人々の健康と笑顔を作る

代表の前田俊輔氏は、住宅業界出身の病院経営者。「住宅を病室にできないものだろうか?」という発想を得、病院看護師の観察現場をつぶさに観察。看護師が高齢者、認知症などの患者様を観察しながら体温・血圧等のバイタルの変化を記録し、一人ひとり異なる患者特有の傾向をつかむため、手作りでグラフを作成する奮闘ぶりを目の当たりにして、それをICTに置き換えられないか?と素人発想で開発したのが「安診ネット」の始まりである。医療・介護界のICT活用の気運の高まりも追い風となり、「遠隔医療」や「個別化医療」の課題に正面から取り組んでいる。

医療・介護現場の省力化に向けた「安診ネット」

当社グループが保有する病院、介護施設の省力化のために開発した、トリアージ(医療の優先度)を出すAI搭載の「安診ネット」の国内外への普及を目指している。国内では、介護施設に入居する高齢者の「状態悪化の早期発見及び重度化予防につながるAIシステムの開発」で、厚生労働省科学研究費補助金事業に採択されるなど、様々な産官学連携のもと開発を進めている。検知のアルゴリズムは特許として国内登録、及び、PCT出願済みで、海外特許取得と同時に海外市場への進出準備も進めている。高齢化が進み、医療・介護現場の省力化ニーズが高まる市場を選択し、海外の医療・介護市場での普及を目指している。

現場と意見を交換しながら作成したシステムなので、使いやすさも抜群です。

海外のウェアラブル端末メーカーとの連携も視野に海外調査

利用者がウェアラブル端末を装着することで、医療従事者による測定、記録の手間をなくし、より一層のモニター体制の強化と省力化を図るため、海外のウェアラブル端末メーカーとの連携も視野に入れ、ドイツの世界最大の医療機器展MEDICAの視察、出展者との商談に中小機構専門家が同行支援した。進出先に関しては、米国、中国等のニーズ、医療保険制度等の把握のための情報収集を進めた。 海外特許に関しては米国、中国、インド、マレーシアへの移行手続きを順次進めた。

簡単に測定できるバイタルデータで、高齢者の医療の優先度を提示。健康管理の共通言語とすることで、早期発見・重度化防止を可能にします。

海外市場への広がりも視野に入れながら、安診ネットの実績は日本国内の様々な方面で着実に確立されつつあります。

コロナ禍で「安診ネット」が注目され国内ビジネスが躍進

中国において、海外への個人情報の持ち出し規制が強化されたことなどから、米国を優先してビジネスチャンスを模索する方針に転換した。

一方でウェアラブル端末業界は、大手プラットフォーマーによるベンチャー企業の買収が進んでおり、特定の機器メーカーとの連携よりも、市場で使用されている幅広い機器へ対応する方針に転換した。

「安診ネット」は日本医療研究開発機構(AMED)、厚生労働科学研究費補助金事業でも検証され、多くの介護施設での運用に繋がった。新型コロナウイルス感染症は医療の世界に大きな影響をもたらしたが、感染者を遠隔でモニタリングするため、施設や自宅で「安診ネット」が活用される可能性が急浮上した。長野県・福岡県では宿泊療養、自宅療養の医療管理システムに活用されるなど、活用実績に繋がり、医療界の注目を集めることになった。

安診ネットは介護の現場だけでなく、医療機関や自治体においても医療者の情報共有ツールとして採用されています。

長野県や福岡県では新型コロナ対策として活用。医師には「病床にいるように情報が得られた」と高い評価を受けました。

介護施設にて使用されている「安診ネット」測定機器。

介護分野等で国内の主導的地位を確保し、海外市場を目指す

新たに介護保険制度に導入された「科学的介護」に関し、米国データ処理大手企業と日本の保険会社が合弁で参入するなど、俄かに活気づいている。介護施設や新型コロナウイルス感染症患者の宿泊療養・自宅療養における実績をもとに国内での主導的地位を確保し、同時に米国等海外市場でのビジネス展開のきっかけを掴むべく、関連業界でのネットワーク構築を進めていきたい。