「戦略的知財活用海外展開補助金(正式名称:戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業費補助金)」は、高い技術力を保有し、知財を活用した海外展開に取り組む中小企業者に、出願費用を一部助成するとともに、海外ビジネスの専門家による海外展開サポートを行う事業です。
中小機構では、令和元年度に10 社を採択、以後3年間に渡って、支援を行ってきました。
この記事は事業最終年度である令和3年度に作成した事例集を再編集したものです。
また、戦略的知財活用海外展開補助金は令和3年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。

高次元のものづくりで、お客様が望む理想の「未来」を創る

当社は、精密機器メーカーの子会社として、1968年に設立。以来、光学機器やOA機器部品製造を通じて、加工技術を蓄積すると共に、市場ニーズに柔軟に対応し、あらゆる素材・形状に対応する製品を世に送り出してきた。1996年よりは医療分野へ進出し、その一環で2013年より公立法人奈良県立医科大学と連携で医療機器開発に取り組んでいる。本支援事業の対象である移植腱採取器は、手指腱再建手術や母指CM関節症治療において、患者並びに医師の負担を最小限に抑えることを目的に開発したもので、国内での活用はもとより、海外での普及を目指すことを目的としている。

奈良県桜井市にある奈良精工の全景

技術力の向上により医療機器まで発展

創業時は光学機器を中心に部品製造を行っていたが、徐々に技術力が向上し、医療分野に進出してからは自社設計にて製品化できるようになった。特に医療機器に於いては、第一種医療機器製造販売業許可を得ており、医療機器の売上高は40%超を占めるまでに事業を拡大している。2015年に公立法人奈良県立医科大学の整形外科と共同開発した手の外科用の手術器械は、医療現場の手術時間削減や患者の術後の回復期間短縮を目指した低侵襲で安全な手術である。この腱鞘切開器は、2016年に中小機構のF/S支援事業を活用して米国市場調査を実施しているが、今回の特許補助金事業は、移植腱採取器に対するPCT出願による米国への国内特許移行手続きと、販路市場開拓の支援を受けることを対象に応募することにした。

当社で製造している医療機器等

低侵襲で安全な医療機器の提供を目指して

手の外科用・移植腱採取器

手術手順

既存の移植腱採取の手術に於いては、腱を特定してから何か所かの切開を行い、腱を確認しながら腱を採取する必要があり、切開部の縫合箇所が多くなる。しかし、今回開発した移植腱採取器の特徴は、超音波診断装置のガイド下にて摘出する腱を特定し、皮膚面にマーキングした部位のみ切開して腱を採取できることにある。このため、医療現場の手術時間削減や患者の術後の回復期間短縮を目指した、低侵襲で安全な手術である。この製品の特許を侵害する特許権、実用新案権及び意匠権は発見されなかったことから、日本国内の特許権を取得し、より多くの医療施設にて使用して頂くことを考え、海外特許取得のために米国・EU市場へのPCT出願国内移行をすることにした。

腱採取に於ける現状と開発製品の比較

海外における特許取得を目指し

海外特許を取得するにはそれなりの費用が必要であり、中小企業にとっては財政面でかなりの負担となる。そのため、米国・EUへの国内移行手続きで本支援を受けることにした。ビジネス面では、特許申請国での薬事承認及び継続手続きの費用もかなりの負担となる。このため、相手国の医療機器販売メーカーへOEM供給を計画している。新規の医療機器を如何に広めていくかについては、移植腱を必要とする米国のスポーツ医学科の関連病院の調査支援を、JETROにお願いした。この調査資料を基に渡米先候補を選択し、訪問先の大学病院等と事前に調整を行って、直接対面による製品紹介を考えている。製品の紹介については、言葉で説明することが難しいと考え、施術方法を説明するアニメーション等の製作を進めている。また、WEBサイトへの掲載準備も進めており、ホームページの更新も進めている。

製造部の全景

特許補助金事業の継続に期待

今回の戦略的知財活用海外展開補助金に於いては、コロナ禍の影響もあって思うような事業展開ができなかった。あと一年延長できるならば、かなりの進展が見込まれたはずである。PCT出願による国内特許移行審査については海外の対応が非常に遅く、三年では事業達成をするには非常に難しいことが分かった。このことを踏まえて、中小機構には特許取得までの期間事業支援を継続頂けるような特許補助金事業として確立頂けることを切望する。今後のビジネス展開の方向性としては、製品のアニメーションの作成とホームページ更新後には、米国の数か所への訪問を考えており、JETROの資料を基に渡米の候補先を検討している。このような特許補助金事業が新たに創設されるならば、改めて継続事業として申請を考えている。