「戦略的知財活用海外展開補助金(正式名称:戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業費補助金)」は、高い技術力を保有し、知財を活用した海外展開に取り組む中小企業者に、出願費用を一部助成するとともに、海外ビジネスの専門家による海外展開サポートを行う事業です。
中小機構では、令和元年度に10 社を採択、以後3年間に渡って、支援を行ってきました。
この記事は事業最終年度である令和3年度に作成した事例集を再編集したものです。
また、戦略的知財活用海外展開補助金は令和3年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。

最先端の積層型三次元LSIの集積化技術の研究から製造まで

当社は、「全世界の人が最高の性能を意識せずに享受できるような電子デバイスを、30年先でも継続して創成するグローバルカンパニー」を目指して、2010年に創業した東北大発ベンチャーである。世界中の最先端の半導体研究者の課題に対し、当社の高度な三次元積層技術と製造ノウハウでソリューションを提供してきた。当社技術の応用範囲は広いため、権利保護を目的とした欧米等へのPCT出願、より多くの研究者へのアプローチ方法について課題があり、戦略的知財活用海外展開補助金に応募した。産業界の変化に伴いLSI(大規模集積回路)の高度なシステム化と集積化が進み、世界で当社の技術がより必要とされる環境となり、5Gの通信規格を扱う海外の大手通信メーカーとの共同研究も始まろうとしている。国策で半導体が問われる現在、当社の技術は世界でより注目を集めるだろう。

当社の技術の周知を図るため、国内外の展示会への出展を精力的に実施している。

三次元積層において唯一無二の技術力

当社は三次元積層の技術を多数持ち、顧客の課題に対し三次元積層技術でソリューションを提供し、国内外の企業、研究機関や大学と共同研究開発、試作を行っている。

一般的にLSIは、集積が進むと回路規模が大きくなり、面積が広がってデータ遅延や消費電力が増加する。この課題を解決できるのが、多層化して面積を抑える三次元積層である。三次元積層の受託は全世界でも、日、米、欧の3か国で各国1社程度であり、LSIチップレベルから12インチLSIウェハレベルまで試作対応できる機関は、世界でも当社以外ほとんどない。豊富な三次元積層技術と、国内でも少ない高度な製造設備と製造ノウハウを駆使して、顧客の要望に応じた共同研究・開発、試作と柔軟な対応が可能である。

三次元積層技術は、高解像度の高速画像処理が要求されるX線のセンサ/検知器、赤外線/遠赤外線のセンサに有効である。技術の需要は、研究者層が厚い欧米が圧倒的に多く、また応用製品についても国内より欧米が先行しており、規模も大きく、市場として期待できる。そのため、かねてより海外展開に積極的に取り組んできた。

X線フラットパネルディスプレイのセンサ/検知器開発に国内外から引き合いがあり、共同研究を行っている。また、海外の学会での発表や海外展示会への出展を行い、興味がある研究者からの引き合いを受けてきた。引き合いのあった研究者にコンタクトをするために米国に仲介者を配しているほか、米国、東アジアの研究機関やメーカーとの共同研究も行っている。
当社は技術先行であり規模もあまり大きくないため、知財面や営業面のアドバイス支援を期待して、本事業に応募、採択された。

TSV用無電解Niメッキ装置(手前) 両面i線(スキャナー)露光器及びレジスト塗布・現像装置(奥)

TSV用イオン化スパッタ装置

ビジネスフローをブラッシュアップも、新型コロナで頓挫

当社のビジネスは、課題を抱えた研究開発技術者が当社の技術力に興味を持ち、先方からアプローチするというフローで成立してきた。そこで、当社から研究開発技術者へアプローチするという真逆の方法について、米国で同様なミッションを行った経験のある米国のアドバイザーと共に検討した。その結果、当社が想定していた欧米の軍事産業や医療機器メーカー以外にも、5G以降の通信分野がターゲットとして期待できるとの助言を得た。ニーズがあるであろう研究開発者をピンポイントで探し出すことは難しいため、欧米の展示会への参加から現地商談へと繋げることを計画したが、コロナ禍で多く展示会が中止となり頓挫した。進行中の共同研究開発も欧州や東南アジアにも広がっていたため、コロナ禍では現実課題を優先し、知財戦略支援を知財専門家中心に行い、欧米など7か国への国内移行手続を行った。

海外の大手メーカーとの対等な契約を実現

二年目に5Gの通信規格を扱う海外の大手通信メーカーから、規模の大きな共同研究開発のオファーがあり、契約における知財面の保護範囲やビジネス上の留意点について知財やビジネスの専門家に弁護士を加え、精力的に支援を行った。その結果、当初は大変不利であった契約内容を、ほぼ対等に近いものへと改善することができた。当契約の成立により、前々から予定されていた一部のレンタル工場の多額な移転費用(移転の直近に起きた中規模震災の影響で、設備補修費も発生していた)を金融機関等からスムーズに調達することができた。直近では、世界の情勢や産業構造の変化で、当社の技術を必要とする分野が増えており、国内でも需要は高まりつつある。今回の契約締結を通して、今一度自社の強みに気づき、WEBなどによる情報発信によるアピール力の強化を行うことになり、WEB専門家と検討支援を行った。当社の技術を求める技術者へのアプローチ方法として、LinkedInなどSNSの有効性を認識できた。

一つ一つのプロジェクトを成功させ、 発展させていきたい

当社は技術開発を中心に運営してきたベンチャースタートアップ企業で、海外特許を取得することと共に、如何にこれを生かして会社を発展させるかが課題であった。本事業では、販路開拓や海外特許調査、特許を使った海外企業との契約のチェック、ベンチャースタートアップとして有効なPR方法等について手厚くサポートを受けることができ、非常に頼りになった。一年目から二年目にかけてコロナ禍で国内外の大きな展示会が中止になり、海外渡航もできないという状態であったが、5Gの通信規格を扱う海外の大手通信メーカー、海外の5Gの大手メーカーから共同研究の提案があり、さらに国内でも複数の研究機関・メーカーから試作という問い合わせ発注、海外の大学からの試作の注文があった。現在の担当者だけでは対応できないため、増員して強化することを考えている。この分野はニッチであり、一つ一つのプロジェクトを成功させることにより、成功例として全世界に伝わり、この技術を使った多くのプロダクトを社会に出していきたいと考えている。

また、2021年末には、NEDOの補助金の元、三次元構造を利用したサイクリック学習するエッジAIチップの原理確認用チップを開発した。アーキテクテャー・回路設計を当社と東北大、長崎総合科学大学が共同で行い、当社で3次元積層を実施した。画像認識のため、従来のCNNに代わりVision Transferを採用したほか、三次元ニューロチップエミュレータにより、三次元積層型ニューロチップに実装可能なカオスニューラルネットワークリザバー回路を採用した。三次元積層技術は目標となるデバイス・構造によって各種各様であるが、いまだに国内では将来のDX(Digital Transformation)の核となる3D-Logic製造技術が無い。半導体技術開発を続けるには、ターゲットとなるデバイスが必要であるが、本AI チップの事業化が進むことで、3D-Logic製造技術をドライブできることを期待している。

三次元積層型AIチップにおけるサイクリック動作(順方向伝播)