「戦略的知財活用海外展開補助金(正式名称:戦略的知財活用型中小企業海外展開支援事業費補助金)」は、高い技術力を保有し、知財を活用した海外展開に取り組む中小企業者に、出願費用を一部助成するとともに、海外ビジネスの専門家による海外展開サポートを行う事業です。
中小機構では、令和元年度に10 社を採択、以後3年間に渡って、支援を行ってきました。
この記事は事業最終年度である令和3年度に作成した事例集を再編集したものです。
また、戦略的知財活用海外展開補助金は令和3年度で終了した事業ですが、中小機構では中小企業のみなさまの海外展開を支援 しています。詳しくはお近くの中小機構地域本部 までお問い合わせください。

「ごきげん」をキーワードに近視、ドライアイ、老眼に革新的なソリューションを開発

「VISIONary INNOVATIONで未来をごきげんにする」をミッションに掲げ、近視、ドライアイ、老眼等の眼科領域、脳領域での世界的な社会問題を画期的なイノベーションで解決しようとチャレンジする慶應義塾大学発の医薬品·医療機器開発ベンチャー。代表の坪田一男教授自身が上記眼科領域において世界をリードする研究者であり、大学の最先端の研究をコマーシャライゼーションすることでイノベーションを推進する。バイオレットライトを活用した円錐角膜への低侵襲性治療方法のグローバル市場への提案に本戦略的知財活用海外展開補助金を利用した。

坪田ラボの創業地である慶應義塾大学病院

低侵襲性のケラバイオを世界へ

当社が手掛けている、眼科医療領域での研究成果をパートナー企業とともに共同開発を行い、新しい価値を提供する製品を上市している。近視、老眼、ドライアイを世界の課題としてとらえ、アジア、アメリカ、欧州など、グローバル展開を目指す。今回の対象疾患である円錐角膜は、小児及び若年層で発症する角膜が急峻化・菲薄化する疾患である。進行性で不可逆性の疾患であるため、早期発見・早期治療介入が重要である。当社ではバイオレットライト照射眼鏡を開発し、2019年にPCT特許出願した。更に、円錐角膜に対するバイオレットライト照射眼鏡を用いた治療法をケラバイオ(登録商標: KeraVio)と定義した。円錐角膜の有病率は、日本よりもインド、中東、ブラジルなどで高く、人種差が影響しているとされており、今後は海外展開をする際に、ケラバイオの知財をカバーする必要がある。またケラバイオと競合する角膜クロスリンキング治療との差別化を明確にして、主に発症早期の小児の円錐角膜をターゲットとしたビジネス展開、特に現地企業とのアライアンスが重要となる。これらを促進するために本補助金に応募した。

小児・若年層をはじめとした多くの方々のために

円錐角膜治療において、従来の治療方法である角膜クロスリンキングと比較して、バイオレットライトの照射治療方法は低侵襲性と治療に要する費用が安価な点で、小児・若年層を含めた幅広い患者層に対し、治療機会をもたらすものである。一方で、海外市場でのビジネス起ち上げ経験、各国での医療機器認証制度の知識不足を補うために、本支援制度の活用を思い立った。

円錐角膜:角膜が前方突出して菲薄化している

ケラバイオ前後における角膜の形態学的変化:角膜クロスリンキング後に生じるデマルケーションラインがケラバイオ後にも確認された

バイオレットライト放射眼鏡:ケラバイオで用いる医療機器。眼鏡フレームにLEDが装着されている

自社の強みを生かした知財戦略へ

本支援申し込みの段階から、申請に求められたSWOT分析による内部環境面での自社の強み・弱み・市場環境面での機会・脅威に対する認識と、知的財産の海外での活用・保護方法の検討に基づくビジネス展開の仮説建てを行うことを通じて、海外展開に向けて当社が必要とする外部からの支援内容を可視化することができた。支援採択決定後は、対象製品のビジネス展開においてターゲットとする国・地域の選定、並びにビジネスモデル案の想定・検討面における助言を受け、対象国の絞り込み、優先順位の選定を進めることができた。知財面においては、候補市場における注意事項等専門家の助言を元に、大きな支障なくアメリカ、インド、ブラジルへの国内移行手続きを期限内に完了することができた。

中小機構の専門家とのミーティングの様子

コロナ禍でも立ち止まることなく海外に向かって前進

コロナ禍によって、国内での被験者の募集、試験実施機関の決定に影響が生じ、当初の計画から10-12か月程度の遅れが生じている。また、海外展開においても、現地機関における出社制限等により想定を上回る遅れが生じてはいるが、既にインドにおいてはバイオレットライト照射眼鏡を対象とした臨床研究の最終準備が整いつつある。ここでは機器の安全性の確認を主目的としつつ、機器の有効性についても確認を行う予定である。この臨床研究の結果と共に、インドでの事業開発が今後進むことを期待している。また、ブラジルにおいても試験機関との提携を進めていくことになっている。海外の事業パートナー探しも進めており、対面でのミーティングが叶わない中、積極的にオンラインイベントに参加をし、パートナー企業候補との交渉を続けている。