輸出管理(または安全保障貿易管理)とは、武器や軍事転用可能な製品・技術が、国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等に渡らないように行う輸出規制のことです。
その内容は国際的に定められた枠組み(国際レジーム)や、それに伴う「リスト規制」「キャッチオール規制」に基づき設計されています。ちなみに、国際レジームは国際社会が自発的に定めているもので、法的拘束力はありません。
日本の輸出管理も、国際レジームに基づいた外為法(外国為替及び外国貿易法)とそれに関連する政省令により実施されています。
ここでは、貿易を行う上で押さえておきたい4つの国際レジームと規制について説明します。
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重要な4つの国際レジーム
輸出管理を理解するうえで重要な国際レジームは以下の4つです。
これらを反映させて作られたのが「リスト規制」、さらに国際レジームの欠点を補完するために作られたものが「キャッチオール規制」です。
それぞれの概要を説明していきます。
原子力供給グループ(NSG)
原子力供給グループ(NSG)は、1974年にインドが行った核実験を契機に、原子力技術の兵器転用を防ぐため設立されました。
1978年に原子力関連資機材・技術の輸出に関する指針「NSGガイドライン」が制定され、法的拘束力はないものの、参加国はガイドラインに基づいた輸出管理を行うようになりました。内容は2部構成になっており、パート1は原子力専用品・技術の移転について、パート2は原子力関連汎用品・技術の移転について規定しています。また、パート2では輸出許可手続きに関しても定めています。
当初は核原料物質や専用設備の輸出のみを規制していましたが、1992年のイラクの核兵器開発問題を契機に、核兵器の製造等に使用される可能性がある、汎用品に対する輸出規制も追加されました。日本では、NSGガイドラインに沿った輸出管理を、外為法と関連政省令に基づき実施しています。
2020年10月現在、原子力供給グループの参加国は48ヶ国で、日本が実質的な事務局機能を引き受けています。NSGの規制品目は、後述のリスト規制で定められた「輸出貿易管理令 別表1の2の項」に反映されています。
オーストラリア・グループ(AG: Australia Group)
オーストラリア・グループ(AG: Australia Group)は、イラン・イラク戦争時にイラクが化学兵器を用いたことから、1985年に設立されました。オーストラリアが議長国を務めていることから名づけられ、化学兵器の原材料や製造設備、関連技術などの輸出規制を目的としています。
1990年には、生物兵器関連の貨物や技術品目が規制対象に追加され、現在は化学兵器・生物兵器関連の輸出管理レジームになっています。
2020年10月現在、日本を含め42ヶ国+EUがオーストラリア・グループに参加しています。参加国は、グループ内で合意された品目に対し輸出管理を実施します。
ミサイル技術管理レジーム(MTCR)
ミサイル技術管理レジーム(MTCR: Missile Technology Control Regime)は、1987年に先進7ヶ国(日、米、英、加、仏、独、伊)の間で成立しました。輸出管理の対象は、大量破壊兵器等の運搬手段となる、ミサイルなどの開発に関する貨物・技術です。
当初は「核兵器を運搬できるミサイル等」を対象にしていましたが、1992年には「生物・化学兵器を含む、大量破壊兵器を運搬可能なミサイル等」も規制対象に含めました。
参加国は「MTCRガイドライン」と「付属書」に沿って、国内法令に基づき規制を行います。ガイドラインではMTCRの目的や規則の指針を示し、付属書ではミサイル開発・生産に関連する資機材・技術を掲載しています。付属書の品目は機微度により2つのカテゴリーに区分され、軍用品だけでなく汎用品も含んでいます。
ミサイル技術管理レジームの参加国は、日本を含め35ヶ国です (2020年10月現在)。
日本では外為法と関連政省令に基づいた輸出管理を実施し、規制品目は後述の「輸出貿易管理令 別表4の項」に反映されています。
ワッセナー・アレンジメント(WA: Wassenaar Arrangement)
1996年に発足したワッセナー・アレンジメント(WA: Wassenaar Arrangement)の起源は、米ソ冷戦時代にさかのぼります。
共産主義諸国への軍事技術や戦略物資の輸出を規制するため、いわゆる「対共産圏輸出統制委員会」(Coordinating Committee for Multilateral Export Controls:通称COCOMココム)が設立されました。参加国は、アメリカや日本を含む資本主義諸国17ヵ国です。
冷戦終結に伴い、ココムは1994年に解散します。一方で、地域の安定を損なう恐れのある「通常兵器や関連汎用品・技術の過度の蓄積防止」という新たな課題が出てきました。そこで旧ココム参加国を中心にオランダのワッセナー市で協議が行われ、1996年にロシアも含めた国際レジーム、ワッセナー・アレンジメントが発足しました。2020年10月現在、参加国は日本を含む42ヶ国です。
ココムでは規制対象を旧共産圏に限定していたのに対し、ワッセナー・アレンジメントは国や地域を絞ることなく、全ての国家・地域・非国家主体(テロリスト等)を対象としています。
参加国は「通常兵器」と「関連汎用品に関するWAで合意された輸出管理対象品目リスト」に掲載された品目について、国内法で輸出管理を行います。リストは「基本リスト」「機微品目リスト(Sensitive List)」「特に機微な品目リスト(Very Sensitive List)」の3種類となっています。
基本リストは10のカテゴリーから成り、それぞれ規制品の種類が異なります。各カテゴリーと、後述の「輸出貿易管理令 別表」との対応は下記のとおりです。
カテゴリー1:先端材料(別表1の5の項)
カテゴリー2:材料加工(別表1の6の項)
カテゴリー3:エレクトロニクス(別表1の7の項)
カテゴリー4:コンピューター(別表1の8の項)
カテゴリー5:通信関連(別表1の9の項)
カテゴリー6:センサー・レーザー(別表1の10の項)
カテゴリー7:航法装置(別表1の11の項)
カテゴリー8:海洋関連(別表1の12の項)
カテゴリー9:推進装置(別表1の13の項)
カテゴリー10:軍需品リスト(別表1の14の項)
また「機微品目リスト(Sensitive List)」と「特に機微な品目リスト(Very Sensitive List)」は、それぞれ次にあたります。
機微品目リスト:告示貨物
特に機微な品目リスト:輸出貿易管理令 別表1の15の項
リスト規制(輸出貿易管理令)
以下の「輸出貿易管理令 別表1」の1の項~15の項に記載されている貨物(技術)を「リスト規制貨物(技術)」といいます。
日本のリスト規制は4つの国際レジームを基に作られており、該当する貨物(技術)を輸出する場合は、経済産業大臣の許可が必要となります。
キャッチオール規制
キャッチオール規制は、湾岸戦争(1990-1991年)を契機に導入されました。湾岸戦争後、IAEA(国際原子力機関)がイラクに対し査察を行ったところ、リスト規制に該当しない汎用品が大量破壊兵器の開発・製造に使用されていたことが発覚したためです。
リスト規制はスペックで判断するので、規制値よりも低いスペックの場合は許可が不要になります。その欠点を補完するためにキャッチオール規制が導入されました。これにより、リスト規制に該当しない低スペック製品であっても、兵器に使われるおそれがある場合、キャッチオール規制に基づいて輸出管理が行われます。
キャッチオール規制には、「大量破壊兵器キャッチオール規制」と「通常兵器キャッチオール規制」の2種類あります。日本ではまず、補完的輸出管理制度として、大量破壊兵器等のスペックダウン品のみ規制する形で1996年に導入されました。その後、2002年にほぼ全ての品目を対象とした「大量破壊兵器キャッチオール規制」が導入されています。
2003年には、ワッセナー・アレンジメントの総会において、参加国による「通常兵器キャッチオール規制」の合意が図られました。続く2004年、国連で大量破壊兵器の拡散抑止のための決議(国際連合安全保障理事会決議1540号)が採択され、より一層の法整備が求められるようになります。
2007年になると、キャッチオール規制の対象が、仮陸揚げ貨物や仲介貿易にまで拡大されました。日本では「大量破壊兵器キャッチオール規制」に続き、2008年に「通常兵器キャッチオール規制」が導入されています。
外部リンク
原子力供給グループ(NSG)に関して
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/nsg/index.html
https://www.nsg-online.org/en/
オーストラリア・グループ(AG: Australia Group)に関して
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/ag/gaiyo.html
https://www.dfat.gov.au/publications/minisite/theaustraliagroupnet/site/en/index.html
ミサイル技術管理レジーム(MTCR)に関して
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mtcr/mtcr.html
http://www.mtcr.info/
ワッセナー・アレンジメント(WA: Wassenaar Arrangement)に関して
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/wa/index.html
https://www.wassenaar.org/
おわりに
ここまで、輸出管理における規制について説明しました。
これらの知識があれば、海外の取引先にリスト規制を伝える際、国際レジームのオリジナルリスト(英語)を利用することもできます。また、リスト規制に新たな品目が追加された場合も、国際レジームのリストを確認することでいち早く情報が得られるでしょう。海外から原料を輸入する時に、その製品がリスト規制の対象かどうかも確認できます。
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