海外バイヤー向けの商材紹介WEB マガジンを運営する松岡梨沙さん。海外バイヤーから取引サポートの依頼を受けることも多く、海外ビジネスにおける英語WEBサイトの重要性を実感しています。

弊社の調査では、展示会に足を運ぶ海外バイヤーのほぼ100%が「事前に訪問するブースを調べてから来場する」と回答しています。費用と時間をかけてやって来るのですから、当たり前ですね。

そして、ブースを調査する方法の第1位は「インターネット」です。海をまたいだ向こうの情報を調べるには、事実上、インターネット以外の方法がありません。

つまり、いまや海外出展は「出展前に勝負が決まる」という状況になっていて、インターネット上に存在しない企業は「ない」も同じです。

ところが現実には、十分な対策をとらずに出展してしまう企業さんがまだまだ多いですね。それではせっかく費用をかけても収穫がなく、意味のない出展になってしまいます。

海外出展するのであれば、英語でのWEBサイト開設は海外顧客への最低限の礼儀です。いま海外の非英語圏の国では、社員10人未満の企業であっても英語WEBサイトをつくるのが常識になっています。
稀にサイトを持たなくても許される企業がありますが、それはたとえば、イタリアで創業300年のテキスタイルメーカーと

いった誰もが知る企業であり、一般には展示会で出会った企業をあとから検索してサイトが出てこなければ、詐欺を疑われかねません。

「語学力」をフォローするオンラインの翻訳サービス

海外ビジネスには、上記の6つの段階があります。最初は低い段階からはじめてステップアップしていってもいいですし、リソースが十分にあるならいきなり高い段階からはじめてもかまいません。これから海外展示会に出るのであれば、1~3までは急いで進めたほうがよいですね。

英語での問い合わせに対応するには、できれば社内に語学堪能な人材がいたほうがよいですが、ただ、いまは便利なサービスもあるので、とりあえずの急場をしのぐことはできます。

たとえば、オンライン翻訳サービスはかなり使いやすくなりました。私の経験では、クラウドソーシングを利用した翻訳サービス「gengo」や「スピード翻訳 by GMO」は、わかりやすいインタフェースで対応も早く、翻訳の品質も高いので、一般的なメール対応であればほぼ問題ないはずです。

でも、長い目でみるとやはり自社の方針や商品のことを理解してもらえる、“決まった翻訳者”がいたほうが安心ですね。雇用がむずかしい場合は、「ランサーズ」や「LinkedIn」といったビジネスマッチングサイトで翻訳者を見つけて長期的な関係を築いていくのもありです。

1ページでもいいから英語サイトを開設する

英語サイトにかけるコストが捻出できなければ、最初は1ページでもかまいません。最低限、以下の情報を英語で掲載するところからはじめてください。

・連絡先メールアドレス
・所在地
・海外からの「よくある質問」と「回答」
・人気商品やお問い合せの多い商品(2~3点)に関する簡単な説明

最終的には、下記の「英語サイトに載せるべき情報」を網羅し、オンライン上の自社「カタログ」として機能させるのが理想的ですが、そうなると、「写真」がものすごく重要になってきます。

「サイトのわりに写真がショボい」はNG! プロにオーダーを

海外からでは実物を確認する機会がないので、サイトの写真だけでサンプル請求や発注を決めることになります。質の良い商品写真はダイレクトに注文率を高めます。

費用を惜しんで素人写真を使っていては、「サイトのわりに写真がショボい」となってしまうので、そこはプロに任せてください。弊社がサイト制作をアレンジする場合、約半分は写真代、つまりカメラマンにお渡しする費用なんですよ。精密機械や機械部品系の企業では、工場内や検品の様子といったイメージカットも撮影してもらいます。ファッション系であれば、布のテクスチャーなどの細部をくっきり見せることで品質を伝えることができます。

いいカメラマンに撮ってもらうと、純粋に美しい写真が撮れるだけではなく、さまざまな加工に耐えるので紙媒体のパンフレットやポスターにも流用できますし、メディアにも自信を持って写真提供ができます。写真には著作権があるので、二次使用したいときは前もってカメラマンに許可を得ておき、写真の元データをもらっておくとよいでしょう。

また、消費財でよく見られますが、バイヤー向けの資料写真が、なぜか小売店の店頭POPになっているということがあります。そこにクオリティの低い写真が使われては困ってしまいますよね。使用を禁止しても国外では管理しきれないところがありますから、最初から一般のお客様の目に触れる可能性も考えて、クオリティの高い写真をWEB 上に出しておいたほうが安心なのです。

「モバイルファースト」でシンプルなサイトデザインを

どういうサイトデザインが好まれるかは国や文化圏によって違います。日本企業のサイトはギミックに凝ったデコラティブなものが多いのですが、海外向けサイトは、よほどの理由がない限り、シンプルでわかりやすいデザインがおすすめです。画像は必要なものだけを使い、装飾のための画像は控えてください。伝えたいメッセージを的確に伝えられない可能性があります。

たとえば、漫画形式でわかりやすく解説したつもりのサイトが、海外では「意味がわからない」と不評だったケースがありました。コマを読む順序が文化圏によって違うため、かえって混乱させてしまったのです。

どんな環境でサイトが閲覧されるかもわかりません。通信事情がよくない国かもしれないし、PCではなくタブレットやスマートフォンで見るかもしれません。でも、必要最小限の機能とデザインに絞り込んだミニマルなサイトにすれば環境を選ばずスムーズに閲覧でき、トーン&マナーも整えやすくなります。

また、これからはスマートフォンでもストレスなくサイトを利用できることを前提にした「モバイルファースト」なレイアウトデザインが主流になってきます。これまではPC 用につくられたサイトをモバイルでも見やすいように変更したものが多かったのですが、PCサイトではなくスマートフォンサイトを基準にしてサイト構築をしたほうが、検索エンジンの覚えもめでたくなります。モバイルでインターネットを利用する人が多くなったため、Google がそのようにガイドラインを変更したのですね。

とくに展示会では、スマホでサイトチェックしながら会場を歩くバイヤーさんが多いので、スマホ対応は必須です。

FacebookなどのSNS活用は「公式サイト」があってこそ

最近、自社のWEBサイトをつくらないで、Facebookページだけにする企業が増えていますが、これは絶対におすすめできないですね。Facebookは検索エンジンに引っかかりにくいですし、自社で管理コントロールできる部分が少ないため、望ましくない情報拡散が起こったりするのです。SNSを活用するのは、自社の公式サイトがあってこその話です。
自社サイトは、必ず独自ドメインを取得して運営してください。費用は年額で数百円から数千円ほどです。ドメインやSNSアカウントは基本的に早いもの勝ちの世界なので、なるべく早めにとっておくことが“なりすまし”などの騙り防止につながります。

そして、サイトは「つくって満足」ではなく、定期的に情報をアップして「運用」してください。きちんと運用されている期間が長いドメインほど検索上位にくる傾向があるため、海外のお客様に見つけてもらいやすくなります。

日本人は本当に引っ込み思案な人が多いです。最初に申し上げたように、いまは展示会でお客様を見つけるのではなく、出る前にいくつもアポをとってブースに来てもらわなければ成果を出すことがむずかしいのですが、遠慮して受け身になりがちなのです。その点、他のアジア圏の企業は、売り込みが半端ないですよ。バイヤーがSNSに「この展示会に行きます」と書き込むと、「ぜひ、うちにどうぞ!」と突撃していきます。そのくらいの貪欲さが必要ですね。

展示会よりも、キーマンとのつながりが有効なケースも

ターゲットがはっきりしている機械部品などの生産財であれば、海外展示会に出展することで、よい出会いや成果を得ることができますが、どの業界でも展示会が有効とはかぎりません。

たとえば、ファッションや美術品など、デザイン性や感性を要求されるものがそうです。以前、ハイファッションブランドを目指しているアパレルメーカーからご相談いただいたときには、展示会出展やWEBサイトの構築ではなく、まずはネットワークをつくりましょうとアドバイスをしました。このようなケースでは、ハイファッションにふさわしい写真をInstagramに投稿したり、業界でキーマンとなる人といかにつながることができるかが重要になります。そして、自分たちがこれまでどういうことをしてきて、どういう成果を残したのかというポートフォリオをきちんと記録して見せていくことが大切です。

とはいえ、海外展開を目指しているけれど、なにをすべきかわからないという状態なのであれば、展示会への出展は有意義なステップになり得ます。自社の状況にあわせて、大切なリソースを有効に活用してください。