リーマンショックから十数年。長期化する新型コロナウィルス感染症も世界経済にも大きな影響を及ぼしています。大企業も苦戦するこの状況下ではありますが、中小企業が海外展開を進めていく方法は何もないのでしょうか?

今回は、中小機構の河原アドバイザーに、中小企業が大企業に立ち向かっていく方法を解説していただきます。

1.海外展開の黎明

2007年のリーマンショック以降、製造拠点集中によるリスク回避の為に声高に叫ばれた「China+1」。タイを筆頭にマレーシア、インドネシア、ベトナムなどのASEAN各国が新たな日系企業進出集約地点と成って10年以上が過ぎました。リーマンショック以前を中小企業の海外進出黎明期と捉えるのであれば、正しく2010年代は海外進出の成長期であったと言えるでしょう。そして2020年代に入って、このコロナ禍の長期化により、海外ビジネスは新たな局面を迎える事になったと思います。安価な労働力を求めて、ASEAN各国に進出した時代は過ぎ去り、進出現地のGDP成長に伴って労働賃金の優位性は失われつつあります。現実的に新たな生産拠点を求めて「次の拠点」を探し始めておられる企業がいらっしゃるのも事実です。

しかしながらいつまでこの様な事を繰り返すのでしょう?既に海外進出を果たされた企業様は周囲を見渡してみて下さい。海外進出が盛んであった2010年代にはまだ発効されていなかった「TPP」や「RCEP」等といった広域な経済連携もスタートしております。また外資系企業による直接投資(FDI)は現地GDPを急速に成長させましたが、製造業分野では現地技術力や製品の品質を向上させ、現地調達率の向上にも寄与して来ました。(表1)

原材料・部品の調達 (表1)

出典:JETRO「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査 (2011年度調査)」「2021年度 海外進出日系企業実態調査 アジア・オセアニア編」より抜粋・編集

この10年間で現地調達率の上昇に伴い、日本からの「原材料・部品の調達」は減少しましたが、ASEAN、中国域内からの調達率には大きな変化がないという点は注目すべき点であると思います。これは新たな販路開拓市場として注目されるべきではないのでしょうか。これまで製造業の海外展開といえば、日本を起点としたビジネススキーム(商流)の構築でしたが、進出現地側を取り巻くビジネス環境に変化が出て来た昨今、海外子会社を単純な製造下請け子会社として事業を継続するのではなく、現地を起点とした新たなビジネスモデルの構築を考えて行くべきではないかと思います。特に「人・物・金」といったリソース(資源)の部分で大企業に劣る中小企業は、今後縮小していく日本市場の中で持続的な発展を続け、生き残って行かなければ成りません。それには、ASEAN(6億人超)に中国、インドを含んだASIA(34億人超)の巨大市場への本格的な進出は必須であると考えます。(ヨーロッパのEU市場は加盟27ヶ国4億5千万人)

2.新たな市場開拓

そこでリソースの面で劣る中小企業が、新たな市場の開拓で大企業に立ち向かって行く為には、これまでと同じ方法論の繰り返しでは太刀打ち出来ない事は目に見えて明らかです。その為、これまでに無い新たな販路開拓計画の立案(アイデア)と、そこに落とし込む為の仕組みや仕掛けの構築が必須と成って来ます。
2019年後期からのコロナ禍の長期化により、日本国内での働き方にもインターネットを活用するなど、大きな変化が出て来た様に、海外販路開拓の現場にも変化は現れ始めています。(表2)

(表2)

出典:JETRO「2021年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」より、抜粋・編集

JETRO「2021年度 日本企業の海外展開事業展開に関するアンケート調査」では、今や「日本国内への販売」以上に「海外向け販売」に各業界で重点が移行しつつあるのが分かります。そしてその半数程の企業が既に「越境EC」を活用した輸出を行っているという処は、新たに誕生した販路として注目すべき点であると思います。そしてその「EC市場」はこれまでの様な「大企業」主導による市場拡大ではなく、これまで「中小企業」の活用による拡大であり、今後も引き続き「中小企業」が先導して市場の拡大が図られて行く事を分かって頂けると思います。(表3)

(表3)

出典:JETRO「2020年度、2021年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」より、抜粋・編集

※「EC利用」はコロナ禍以降、インターネットやWEBの活用により、「働き方改革」や「巣籠需要」などもあり、大幅な活用が進み、今後も更に中小企業の利用を中心に『EC市場』は拡大してくものと推察されます。

3.海外ビジネスのチャンス到来

これからの海外展開で重要と成って来るのは、進出国を取り巻くビジネス環境の再確認と現地子会社の自立です。外資系企業の直接投資によりASEAN諸国の現地市場は発展期を迎えています。海外で「ビジネスを立ち上げ」、「展開し」、「利益を上げる」。もう一度ビジネスの基本に立ち返って、「利益配当を親会社へ還元する」という処までビジネスの中身を見直す必要があります。その為に、リソースの部分で大企業に劣る中小企業の新たなビジネスモデルの一つとして、まだ大企業が手を出して来ていない分野である「越境EC」の活用は、今後のビジネス展開の中で重要視されるべきスキームであり、中小企業にとって新たなビジネスチャンスを生み出す方法論と成るのではないでしょうか。

中小機構近畿本部 中小企業アドバイザー 河原光伯

略歴:2008年にJICA事業で中東のヨルダン国に派遣、その後2011年より、ベトナム日系会計コンサルティングファームに参画。2012年より中小機構の海外現地登録アドバイザー、JETROホーチミン事務所中小企業海外展開現地支援プラットフォームコーディネーターに任命され、中小企業の海外進出支援、市場調査、ビジネスマッチング等を行う。2018年に、中小機構の中小企業アドバイザーに就任。

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