豊富な海外ネットワークを活用したグローバルマーケティングアドバイスに定評のある和田直子さん。「これからの海外市場は中小企業にこそチャンスがある」というその理由は?

これからの海外展開に必要な「価値主導」のマーケティング

経営学者フィリップ・コトラーが提唱する「マーケティング3.0」の概念をご存知ですか?
自社製品の存在や機能を知ってもらう「製品中心」のマーケティング1.0、顧客満足を目指す「消費者志向」のマーケティング2.0を経て、さまざまな社会問題が深刻化する現代では、企業やその製品が「どのように世界をより良い場所にするか」といったコンセプトが重要視されるというのが、「価値主導」のマーケティング3.0の考え方です。
実際、海外市場を見ていると、アジアではまだマーケティング2.0の発想でも売れなくはないのですが、欧米市場は確実にマーケティング3.0の時代に入っています。
とくにアッパー層を狙う場合は、価値主導のマーケティングをしていかなければむずかしい。欧米ではもはや、そうしたブランディングができていないものは良いお店には入れないからです。ですから、海外に出る前にまず日本で、しっかりコンセプトを持ってブランディングをしていく必要があります。

〇コトラーのマーケティング理論

インバウンドを活用してSNSで情報発信してもらう

そもそも、いまはいきなり海外に出るより、日本にいるほうがブランディングがしやすい。でも、そこに気づいていない中小企業の方が多いですね。
たとえば、外国人観光客がどんどん日本へ来ていて、SNSで世界中に情報発信しています。SNSで話題になれば、メディアが「日本で流行っているもの」「面白いもの」として取り上げてくれることが多い。まずは地元からしっかり情報発信することです。
これは「共同マーケティング」にもつながる話で、地域の企業同士で協力してブランディングをするのも効果的だし、お客様やファンがその企業や製品に愛着を持ってSNSでどんどん発信してくれるような絆づくりも大切です。こうした共同体の要素を取り入れながらマーケティングをしていくのが、いまの時代ですよね。
また、ブランディングの基本はやはりコンセプト、つまり「企業理念」や「伝えたい思い」です。お客様はそこに共感できたからこそ「拡散しよう」「応援したい」と思ってくれます。一昔前より消費者が成熟していますから、話題性や見た目のおしゃれさだけでは、すぐに見抜かれてしまいます。

「自分たちの思いとは何か」をまず社長が明確にすべき

なぜ「伝えたい思い」が大切かというと、それが「種」だからです。良い種がないと、企業も製品も大きく成長することはできません。とくに海外に出るとその企業が発している波動、つまり言葉よりももっと奥にある信念を感じ取られてしまうので、何の思いもなくつくったり売ったりしている企業はすぐ見破られるし、あっさり真似されて価格競争で負けてしまいます。
海外を目指すことをきっかけに、「自分たちの思いとは何か」という原点を見直してみてはいかがでしょうか。自社の事業としてなぜそれをつくり、何のために売っているのか。それを世界中の人たちに売っていくことで何がしたいのか。そうした「ビジョン」「志」「方向性」を、まずは社長が明確にすべきだと私は思っています。
やはり社長がブレない志を持っていて、それが社員みんなに伝わることで企業活動が行われていないとだめなんですよ。ところが、社長の思いがまず社員に伝わっていない企業がけっこうあるんです。たとえば、健康食品を扱う企業で、社長は健康的な生活を心がけているのに、社員はタバコを吸ったりジャンクフードを食べている人たちばかりだったら、「本当にちゃんとしたものを売っているの?」と疑ってしまうじゃないですか。そうしたところからボロが出ます。
まずは「思い」という種が明確であれば、どのように伝えるかは私たちのような外部アドバイザーがサポートできますが、肝心の「思い」が揺らいでいては、外からサポートはできないですよね。ブランディングのプロセスが進めば進むほど外部から関わる人たちが増え、その真髄が問われてきます。社員がみんな、会社の「思い」を答えられますか?
ブランディングって、ラジオの周波数と同じだと思うんです。発する周波数と同じ周波数の人たち(消費者)が反応してくれる。なので、まず自社の周波数をどこに設定するかが大事なんですね。周波数が合うと、その人たちは居心地がいいので、その商品やサービスを使い続けてくれる。ところが不調和があると響きません。だから商品やサービスのデザインだけでなく、サイトもカタログもすべて同じイメージに揃えないといけない。そしてずっとブレないことが大事なんです。それから受信者がわくわくすること、共感することを発信し続ける努力を惜しまないことも大切です。
大変なようですが、ブランディングって、ほんとは中小企業のほうがやりやすいんですよ。むしろ中小企業だからこそ、いくらでも成功できる。思いを大切にコツコツ続けていれば、「類は友を呼ぶ」で国境を越えてつながりができてきます。莫大な費用をかけたPR広告は必要ない。これも新しい時代のビジネスの姿です。

< 支援例 > 海外営業をしなくても、海外に売ることはできます


私たちがブランディング支援をしている老舗茶舗の田頭茶店(http://yuicha.jp)さんは、海外に一切営業をしたことがないのですが、インバウンドを活用したことで、さまざまな国からFC 展開の引き合いがきています。
「健康は日々の食生活から」「お客様がお茶によって癒され、健康で幸せであって欲しい」というコンセプトでブランディングを行い、居心地の良いカフェやからだにやさしい商品を展開したことで、まずは国内、そして世界中からお客様が訪れ、SNSで情報発信してくれているのです。

ブランディングができていれば海外展示会に出る必要はない

じつは、しっかりブランディングができれば自然と売り先が決まるので、お金をかけてわざわざ海外展示会に出る必要もなくなってくるんですよ。
簡単に言うと、Aランクの商品であれば、フランスでもニューヨークでもAランクの店舗で売るものと決まっているので、そこにだけ売り込めばいいんです。ところが、展示会には、どのランクの商品を扱っているのかわからないさまざまな買い手が集まります。その見極めが非常にむずかしいうえに、うっかり現地でCランクの店に売ってしまうと、もうBやAの店では取り扱ってもらえません。
ヨーロッパでは、現地代理店(エージェント)がついていないと売れないという現実もあります。バイヤーは、税関の手続きまでしてくれるエージェントから買いたいんです。商品に興味を持っても、エージェントがついていないとわかると、8割方「エージェントがついたら連絡してね」とブースから出て行ってしまいます。メゾン・エ・オブジェ・パリなんて旅費を含めると200万円以上かかるのに、それが全部パーになってしまうんですね。
なので私は、ブランディングをしたうえで、ピンポイントで売り先を探すことを推奨しています。ヨーロッパであれば、まずパリ市内を回り、「ここの店が合いそうだな」という店に交渉して取引きするのがいいでしょう。
Aランクの店であれば商品を置いてもらうことで箔がつきますし、エージェント契約ができれば翌年の展示会ではその店のブースに商品を置いてもらえます。Aランクのブースはメイン通りに配置されますし、ディスプレーもすべて現地に合った感覚でつくられます。単独で出展するより、現地の良いお店にサポートしてもらうほうが、ずっと効果的なのです。

現地の文化背景や世界の流通の流れを知ろう

また、意外と知らない方が多いのですが、フランスのマーケットではギフト雑貨は売れません。フランス人にとってプレゼントといえば、チョコレートかワインかお花。すべて“消えもの”ですね。フランスには、人に雑貨をプレゼントするという文化がないんです。「それって自分が選んだものを使ってくださいというエゴの押し付けじゃない?」と彼らは考えるんですね。雑貨は本人が買うものなので、ギフト用のパッケージは必要ありません。
ギフト需要なら、やはりアメリカが一番でしょう。でもアメリカに行くには、ヨーロッパ経由がはやいんです。まずフランスのメディアに取り上げてもらうと、その後、世界中で売りやすい。最初にアメリカでワッと流通してしまったら、ヨーロッパではもう売れないと覚悟しておいてください。
じゃあ、なんとしてもまずフランスかというと、最近はそうでもないと私は思うんですね。みんなが目指すので埋もれてしまうし、社会情勢も不安定です。ではどこがいいかというと、いまなら全米でもっとも環境にやさしい都市であるポートランドですね。まさにマーケティング3.0の街ですし、ヨーロッパの人たちにも注目されているので、ポートランドで話題になれば世界中どこにでも行きやすいのではないかと思います。
現地の文化背景や世界の流通の流れを知り、より良い社会に貢献できるビジネスを目指してくださいね。

ギフト商品の海外展開戦略例


ギフト商品は、一般的にヨーロッパ、とくにフランスでまず話題になれば、その後、アメリカをはじめ世界中で売りやすくなるが、アメリカで流通したものはヨーロッパでは売れにくくなる。