これまで300社以上の中小企業の海外販路開拓を成功させてきた山本雅暁さん。とくに定評のあるWEB サイトの活用法と医療市場への参入についてお話を伺いました。

海外販路開拓を成功させるためには、「英語版WEBサイト」を効果的に活用した情報発信や広報宣伝が重要な柱となります。その手法は後ほど説明しますが、その前にまず考えていただきたい、もう1つの柱があります。
それは、「商品の力」です。「自社の商品には、海外に打って出るほどの新規性や、競合他社と差別化できるオリジナリティはあるのだろうか?」。厳しいようですが、これは絶対に必要な確認で、いくら英語版WEBサイトをうまくつくっても、商品の力がなければアウトなんです。商品に力があってはじめて海外販路開拓ができる。それは厳然たる事実です。
自社の商材に可能性があるかという見極めは、進出したい地域に競合商品がどれだけあるかをネット検索すればすぐわかります。すでに競合他社が渦巻いている中に後から参入しても、売上を上げるのは難しいですよね?
かといって価格を安くしたら、今度は収益がとれず、なんのために時間とお金をかけて販路開拓するのかわからなくなります。自社がその市場でlatecomer(後発企業)だとわかったら、海外展開は潔く諦めるか、きっちり差別化できる商品をつくってからトライすべきです。

潜在顧客に確実に見つけてもらうGoogle検索エンジン対策

商品がしっかりしていれば、英語版WEBサイトをきちんと運用することで間違いなく成果は上がります。その要となるのが「Google検索エンジン対策」です。
中小企業が海外に出るとき、業界を問わず直面する3つの問題があります。それは、「商品の知名度がない」「企業やブランドの知名度がない」「自前の販路を持っていない」という3つの「ない」です。それを克服するためにインターネットをフル活用するわけですが、ただ何も考えずにWEBサイトをつくって公開しても、ネットの片隅に埋もれてしまい、潜在顧客の目に触れることはほぼありません。
では、どうすれば自分たちの存在を伝えられるか。それは、適切なSEO対策、つまり、検索結果において自社のページをより高い順位に表示させるための対策を行うことで可能になるのです。
英語版サイトは、まず「商品アイテムで検索をしたときにトップ10に入っているかどうか」が1つの目安。どんなに低くてもトップ30には入るようにしてください。そうでなければ、販路開拓にあたって困難が多いと考えてください。
2016年に、Googleはアルファ碁で有名な人工知能企業・Google DeepMindが開発したディープラーニング(深層学習)の仕組みを検索エンジンに搭載し、劇的な変化を遂げました。Googleはその詳細を明らかにしていませんが、私自身がさまざまな実験を行い、その検証結果を支援先企業に活用したところ、多くの企業サイトをほぼ1~2ヵ月で検索上位に表示させることができました。そのノウハウをお伝えします。

〇中小企業が海外展開で直面する3つの「ない」

英語版WEBサイト対策 01

トップページは、テキスト(文章)が勝負

検索エンジン対策でもっとも重要なのは、「トップページのテキスト情報」です。写真やレイアウトをきれいに見せるといった“見栄え”は、ほぼ影響しません。以下を参考に、自社の商品・商材、その特徴や新規性、差別化の内容等をトップページにしっかり記載してください。

〇何度も問い直して、徹底的に日本語の原稿をつくり込む


英訳する前に、まず日本語で徹底的に原稿をつくり込みます。以下のプロセスで何度か手直しをしてください。

(1)会社の新規性や、差別化ポイントを箇条書きにする

(2)「客観性」を数字で示す
とくに抜けやすい観点が、「客観性」です。メーカー側が「うちの商品は優れています。世界No.1なんです!」といくら主張しても、根拠がなければ読む側は振り向きません。「どの指標でNo.1と言えるのか?」「競合商品と比較してどのくらいの差があるのか?」ということを“数字”で客観的に示してください。

(3)「ネイティブな英語」に翻訳する
日本語の原稿が完成したら、トップページだけでも“ネイティブな翻訳”ができる翻訳家に依頼してください。どんなに英語が得意な日本人でも母国語ではないので、洗練された英語への翻訳は難しいのです。サイトのトップページは会社の顔なので、翻訳にはお金をかけましょう。

〇トップページには、とくに売り込みたい商品の情報を


海外の潜在顧客は、その企業のことやブランド力があるのかということは、さほど気にしません。それより、その商品がどのように優れているのか? 購入したときのメリットはどこにあるのか? ということを重視しています。
ですから、トップページにはまず、とくに売り込みたい商品、海外の潜在顧客に知ってもらいたい商品の特徴を具体的にどれだけ書けるかがポイントになります。

〇文字数は、英語で5000~6000文字が目安


検索エンジン対策上、トップページには6000文字あると理想的。最低でも3000文字は入れてください。かなりの文字量ですから、ページを開いた人がなるべく読みやすいように改行や段落分けを行い、小見出しをつけるなどの工夫をします。

〇潜在顧客につながりやすい「キーワード」を入れる


潜在顧客が検索したときに自社サイトがうまくヒットするように、商品・商材の特徴や新規性、差別化・差異化ポイントが伝わる「キーワード」を入れるようにします。

英語版WEBサイト対策 02

更新することで“生きているサイト”をアピール

英語版WEBサイトをインターネット上にアップロードしたら、週に1度は必ずテキスト情報を更新してください。 Googleの検索エンジンは、サイトが「生きてるか、死んでるか」を判断しています。その判断のポイントは、サイトがちゃんと更新されているかどうかです。
より更新しやすい「ブログ」を別につくり、サイトのニュースページにリンクを張っておくのがベター。ブログを更新すれば、Googleの検索エンジンに、「私の会社のサイトは死んでないよ。ちゃんとこうしてアップデートしてるからね」とアピールすることができます。ブログ更新を告知する専用ページを置くやり方も有効です。ブログの作成は、Googleが提供する無料ブログツール「Blogger」がおすすめです。

英語版WEBサイト対策 03

絶対に他サイトから「コピー&ペースト」しない

COLUMN

ディストリビューターも自社サイトで募集しよう

ディストリビューターを探したい場合、英語版WEBサイトのトップページにアイコンなどで大きく「Seeking Distributors」「Distributors Wanted」「Become a Distributor」などとアピールしてください。「販売店募集中」という意味です。そこにリンクを張ってコンタクト(問い合わせ)のページに飛ぶようにしておきます。こちらの意思をわかりやすく読み手に伝えることが大事なのです。
新潟のある企業は、Googleの検索エンジン対策をしっかり行い、1ヵ月で検索トップ10入りを実現。オーストラリア、シンガポール、香港、アメリカ、ヨーロッパの5ヵ国の販売会社から問い合わせが入りました。

〇ディストリビューターが見つかったら……

WEBサイトに「ディストリビューター」というページをつくってください。
WEBサイトは、「トップ」「プロダクト(商品紹介)」「ニュース」「カンパニー・プロファイル」「ブログ」「コンタクト」くらいが基本構成となりますが、「プロダクト」と「ニュース」の間に「ディストリビューター」のページを組み込み、ディストリビューターの公式サイトにリンクを張っておくのです。
商品を買いたい人は、そのページを見れば自国のディストリビューターがわかり、受注につながります。

欧米医療市場に参入する2つの方法とは

成長産業である医療ビジネスへの参入を目指す企業は非常に多いですね。私も会社員時代に、アメリカで医療ビジネス立ち上げのプロジェクトに参加したことがあります。その経験からいうと、欧米の医療ビジネスはかなり強固な岩盤市場であり、外資の企業が新規参入するのは非常に困難です。一般的な日本国内の販路開拓のやり方では、まったく歯が立ちません。
まず、欧米の医療ビジネスは、メーカーと病院の間に、ディストリビューターとGPO(Group Purchasing Organization)という2つの組織が入っています。GPOは、医療事業者が医薬品、医療機器、事務用品などを購入するにあたって、メーカーまたはディストリビューターとの価格交渉を有利に進めるために設立した共同購買組織です。
医療事業者は、病院や診療所を運営するのに必要な、包帯や注射針といったありとあらゆる資材をそれぞれに調達するに際して、GPOに価格交渉を委託して安く仕入れるのです。上図に示す既存流通経路は岩盤のように強固なものになっています。この流通経路にどのように入り込むかが鍵となります。そのために私は、メディカ(MEDICA)という展示会への出展とレップの活用をおすすめしています。

〇GPOを介した欧米医療市場の流れ

欧米医療市場に参入する方法 01

メディカ(MEDICA)に出展してディストリビューターを見つける

欧米医療市場への参入は、まずディストリビューターかGPOにコンタクトしてルートに入り込むのが基本形です。そのためには、まず自社の英語版サイトをつくり、販売店募集をかけたうえで、有力な海外の展示会に出る必要があります。まず出なければならないのは、ドイツ・デュッセルドルフで毎年開催される、世界最大の医療機器展示会「メディカ(MEDICA)」です。出展の目的は、自社商品のPRではありません。商材を求めてやって来るディストリビューターやGPOと、ピンポイントで商談をするのが目的になります。

〇事前にサイト経由でアポイントメントをとっておく


広大な展示会場なので、買い手側はインターネットで事前に検索してからブースを訪れます。つまり、展示会前にサイトがすでに活用されていなければならない。検索上位に上がるのに2~3ヵ月かかるとして、展示会に出展する半年前にはサイトができていないと遅いということになります。サイトをつくったら、自分たちから有力なディストリビューターに働きかけて、なるべく多くの事前アポイントメントをとってください。

〇最先端の商材情報を出してはいけない


メディカでは、欧米企業も日本企業も、最先端の商材は基本的に出しません。なぜなら、技術を盗まれてしまうからです。ではどうするのかというと、サイトで、「次世代バージョンを開発中です」「試作品ができました」というように新製品があることを匂わせる情報を出し、興味を持ったディストリビューターとだけ個別に、必要に応じて機密保持契約を結んで開示するのが1つのやり方です。先方も競争力のある商材を探していますから、敏感に察して連絡をしてきます。
展示会期間中に会場近くのホテルを借り、その部屋で商談相手に商品を見せる企業もあります。そのくらい最先端の商材の公開には気をつけてください。

欧米医療市場に参入する方法 02

レップ(Representative:代理店)を活用する

欧米の医療市場は、京都の“一見さんお断り”と似たところがあります。日本国内で有名なメーカーがアプローチしても、最初はまったく相手にしない販売会社が多いのです。そこに食い込んでいくやり方が、レップを活用する方法。とくに医療ビジネスは、最初は製造レップを活用して入っていくのがベターです。

〇成約率の高い販売会社を紹介してくれる「製造レップ」


製造者代理人(Manufacturer’s Representative)といいます。
たとえば、私がアメリカで自社の医療機器を販売しようと営業活動をしても、実績がないため見向きもされません。しかし、すでに実績のある製造レップと代理店契約を結べば、彼らが代わりに営業を行ってくれます。製造レップは販売店契約が成立しないとコミッションが入らない仕組みのため、確実にその製品に興味のありそうな販売会社を見つけてきます。そのため契約が成立する確率が高く、コミッションを支払っても元がとれるのです。

〇エンドユーザーを紹介してくれる「販売レップ」


販売代行人(Sales Representative)といいます。
自社に輸出部門があれば、販売レップと契約する方法もあります。彼らは、エンドユーザーを探してくれる人です。医療市場では、メーカーがエンドユーザーである病院とアクセスするのは困難ですが、商材によっては可能なケースもあります。自社で海外に直販できれば、現地のレップを営業マンとしてやりとりができるのです。
メディカに出るときは、販売会社と同時に「製造レップ」「販売レップ」も探すとよいでしょう。

〇レップはマッチングサイトでも探せるが…


展示会に出なくても、レップを探すことはできます。Google検索で、「representative matching」と検索すると、レップと企業をマッチングする有料サイトがたくさん出てきます。ただし、私はやはりメディカのような場で出会ってアライアンスを組む方法を推奨しています。それが正攻法ですし、展示会に出て自らの目で市場を見極めることが大事だと思うからです。国内で売れないからとお尻に火がついた状態で海外を目指してもうまくいきません。長期的な戦略を立て、辛抱強く投資をして、リスクを取ってやっていく。そんな腰の据わった企業がやはり成功しています。