元・技術者という経歴を生かし、ものづくりの現場からのアイデアを引き出しながら医療機器の開発、許認可、製造販売までトータルコーディネートを行っている石田欣光さん。医療機器の分野から海外展開のヒントについてお話を伺いました。

いま弊社では、異業種から医療機器市場へ参入する中小企業さまへのサポートが増えています。実際、医療機器は一般に思われているほど特殊ではなく、案外単純な構造のものが多いです。技術的には十分対応できる企業が多いと思います。
とくに自動車部品関連のメーカーさんは、小規模でも厳しい品質基準や価格競争のなかでものづくりをしてきているので、特殊な医療機器の要望にも十分応えることができます。

海外医療機器分野への参入には現地機関への登録が必要です

一般に医療機器は、その国や地域の法規制で管理されており、各国の規制への対応が必要となります。欧米はとくに厳しいと言われています。一種の参入障壁になっていますね。
製造業の方が海外で医療機器分野に参入するには、製造業者として現地機関に登録する必要があります。
製造工程や品質管理、過去の実績を文書化して提出します。現地機関から実地調査が入ることもあります。
独自で解決しながら進める方法もありますが、専門のコンサルタントに依頼をすれば効率的に手続きを進めることができると思います。
最終製品をつくるのは海外メーカーで、自社製品は中に使われる部品1 個だけといったような場合は、製造業者登録は必要ない国がほとんどです。このようなケースは参入しやすいと思います。

現地機関への登録に向けた文書は新規作成ではなく書き換えで対応

ISO9000シリーズを取得している企業でも医療機器の品質マネージメントシステム文書に従うことになります。弊社は文書を新規作成するのではなく、現在使われている文書を書き換えて対応するようにしています。
新規作成ではなく「書き換え」と言ったのは、私自身、工場勤務経験のある技術者なので、まったく新しい文書体系をあてがわれると現場が混乱することがよくわかるからです。そこで、すでに社内にある安全基準等のルールや品質管理の書類を生かして医療機器向けに書き換えています。そのほうがコストも抑えられて合理的だと思います。

いま商機のASEAN医療機器市場参入は慎重に検討を

医療機器の主要な取引先は欧米ですが、ASEANでも国民生活が向上し、健康や医療への関心が高まっています。そのため医療支出が増大傾向にあり、医療機器市場も拡大しています。また、ASEANは現在、医療機器登録システムの整合化を施行に向けて調整中です。日本製品に対する信頼度も高いので、新規参入を検討している企業が多いのではないでしょうか。
しかし、実際に参入するかどうかは慎重に考えてください。やってみて収益が見込めなければ撤退するという選択肢もありますが、撤退後もPL法(製造物責任法)によってアフターケアにかかわる問題が発生する怖さがあり、良い売り先を得て利益が見込めるのでなければ、無理に海外に出る必要はないと思います。

海外展示会はひとつのきっかけ
商社の人にも遠慮せず聞いてみる

展示会は、海外企業との大きな出会いのきっかけになります。海外のパートナーに販売を託す場合には、相手がどんな役割を担ってくれるのか、きちんと話し合う必要があるでしょう。たとえば、「輸入に加えて現地責任者もやってくれますか?」とか、「BtoB なのかBtoC なのか? 先生のフォローアップもしてもらえるのか?」など、自社が求める販売業務にどこまで対応してくれるか、しっかりと聞いてください。
海外展開に不慣れな場合は、信頼のおける人に紹介してもらうのもひとつの手です。取引のある金融機関に、海外展開している医療機器の会社を紹介してもらい、実情をヒアリングしてみるのもおすすめです。
これまでお付き合いのある商社でもいいと思います。いまは、ほとんどの商社が医療機器を取り扱っていますから、そこと取引のある海外企業を紹介してもらうという方法もあると思います。
紹介してもらわなくても、商社から情報をもらうつもりで、「どこかいい企業を知りませんか? 紹介してもらえますか?」などと質問するといいと思います。もし教えてもらえなくても諦めずに、ぜひいろいろとたくさんの商社に聞いてみてください。有益な情報を得られる可能性は広がります。
やはり、人の紹介は大切だと思います。信頼できる人とつながっている企業であれば、取引でいちばんの課題となるお金の問題も比較的クリアしやすいです。展示会で初対面の企業と取引をはじめるよりも、人の紹介で海外企業につながることができれば、そのほうが安心ですよね。

ファミリーディナーの場でもビジネスの交渉には冷静な対応を

海外にはホスピタリティが高い方が多いと、私は思います。トップ企業の会長でも、話が合えばその日の夜に自宅へ招かれてファミリーディナーということがあるかもしれません。親交を深める良い機会で、肩を組んでソファに座ってお酒を飲み、「また明日、仕事の話をしよう。僕は行けないけど、こういう人間をセッティングしておくから」と、迅速に進みます。相手が大企業であっても中小企業であってもそれは同じです。
私たちの感覚からすると「自宅に招いてくれるなんて、よほど気に入られたにちがいない」と舞い上がってしまうところですが、値引きなどの価格の話がでることもあります。海外ではビジネスの相手を自宅に招くことはよくあることですから、そこは冷静に判断してください。
日本人も海外ではもっとオープンでフレンドリーになったほうがいいと思います。海外に出て、空港に着いたとき、覆面レスラーが覆面をかぶる瞬間のように、引っ込み思案な日本人のキャラクターは捨てて、若干パフォーマンスするぐらいのつもりで世界のリングに上がってください。