東京とロサンゼルスに拠点を構えるコンサルティング・ファームを主宰し、国内外のブランドのグローバル展開をサポートしている福島祥介さん。海外向けブランディングにおけるプロデューサーの役割や信頼できる人材の探し方についてお伺いしました。

日本企業が驚く海外の値付けと価値観

海外展示会に出た日本のメーカーさんが戸惑うのは、海外のバイヤーには「上代」という感覚がないことです。日本では、メーカーが希望小売価格を示すことができますが、海外では「これをお店でいくらで売るか」はディストリビューターが決めること。メーカー側がコントロールすることはできません。ですから、希望小売価格を守りたいのであれば、逆に海外には出さないほうがいいですね。
とくにアメリカは、ドン・キホーテで500円で売っているものが、伊勢丹では1500円で売られているということがまったくおかしなことではない国です。つまり、売る場所も価値のひとつなのだとアメリカ人は理解していますし、不思議なことにドン・キホーテに行く人は伊勢丹には行かないんです。
Max field やFred Segalといったハリウッドセレブのスタイリストが行くようなショップでは、売上げのインセンティブが販売員に入るので、トップ販売員がランボルギーニで通勤しているといったことが起こります。他店で3000円のシャツであっても、プロフェッショナルによる接客アドバイスを受けて購入すれば、何倍もの価格になって当たり前。お客様も「選んでくれてありがとう」と喜んで支払うのです。こうした感覚を理解して商売をしないと、とくに上流には絶対に乗れません。海外に出るなら「ものの値段」に対する日本人の感覚を一度捨てなければうまくいかないんです。

ブランドの価値は、まずWEBサイトで判断される

海外から商談がきたのであればかまわないのですが、自ら海外に売り込みに行くのであれば、やはり先に「ブランド価値」を高めてからじゃないとむずかしいかと思います。ブランドの価値は、商品の魅力はもちろんですが、ブランドの顔となるWEBサイトの誂えも重要となります。取引をしようと思ったら、必ずチェックされるところです。
海外のWEBサイトって、日本に比べていますごく文字数が減っているんですよ。ビジュアルでどう伝えていくか、写真よりもムービー(動画)のほうが、さらに表現が広がるので重宝されています。
でも、少ないからこそ、文字はめちゃめちゃ大事なんです。絶対に日本語サイトの直訳ではダメ。どんなに素敵なブランドも二流ブランドに見えてしまいます。
ですから日本語同様、英語も感性を研ぎ澄まして削ぎ落した言葉で表現できるコピーライターにお願いするべき。WEBサイトの文章と写真は、プロにお願いして費用をかけるべきところです。そこがうまくできればカタログやECサイトに転用できますし、なによりその言葉で販売員がお客様に価値を伝えることができます。その初期投資ができない企業は、そもそも海外で「いいブランド」になることはむずかしいかと思います。

ブランディングのチームには現地のリアルを知る人が必要

海外向けのブランディングを外注する場合、ロゴ、WEBサイト、カタログ、写真撮影、動画の制作を含めて、最低でも200万円という金額がひとつの目安になるのではないでしょうか。
誰に依頼するかという人選がむずかしいと思いますが、まずその人が本当に海外が得意なのかどうかというところを見極めることが大事です。
ひとつの目安ですが、海外に強いプロデューサーは、現地に信頼できる仲間がいるものです。以前、僕はある企業のアメリカ進出のための商材の写真撮影を現地カメラマンにお願いしたのですが、出てきたものを見て最初はがっかりしてしまいました。商材はゴミ箱だったのですが、期待していた流行りのインダストリアル調ではなく、アメリカのお金持ちが住んでいそうなミッドセンチュリーの部屋を撮った、いかにも普通っぽい写真。モデルに日本人を起用していました。
僕は率直に不満を伝えました。
「せっかく海外での撮影なのに、なぜ日本人モデルを使ったのか。ゴミ箱のデザインもインダストリアル調のほうが合うと思うけれど」
すると現地のパートナーから、明快な回答が返ってきたのです。
「もし商材が日本の茶器だったら欧米人のモデルを使っていたよ。そこで日本人モデルを使うと、アメリカ人には取り扱いがむずかしいんじゃないかと誤解されてしまうからね。でもゴミ箱はよくあるものだし、日本人モデルを使ったほうが日本製であることが一瞬で伝わるんだ」
なるほど、と感じました。ミッドセンチュリーに関しても、「このゴミ箱は5000円もして、アメリカでは高価だ。最初はまず富裕層にアピールする正統派のカットをおさえて、次の機会に流行のシーンを撮影すればいい。普及後にターゲットの幅を広げることは可能だが、はじめから流行に左右される層を狙う必要もない」という回答。こうした現地の肌感覚こそ、海外進出に必要なものです。僕は納得してGOサインを出し、売上げをとることができました。
このように、プロデューサーといっても、僕はひとりでは何もできないのです。でも、メーカーの方から「何ができますか」と問われたら、「海外で良いブランドだと言われるものに間違いなくします」と答えることができる。それは仲間たちが信頼できるからなんですね。やはり現地のリアルな生活の中で、リアルなものを見ている人がチームにいないことには、海外向けブランディングの完璧なツールはできないと思います。

出会いは、ほぼ紹介
確信が持てるまで人柄を知る

プロデューサーの業務内容を説明するのはむずかしいのですが、一般的にはブランドのアイデンティティをつくるのが仕事です。デザイナーにもプロデューサー的な要素がありますが、さらに資金面のやりくりができ、商流まで面倒を見られるといったところが違いでしょうか。自分で販路まで持っている人もいます。
こうした人材にどこで出会うかというと、友人知人からの紹介がほとんどではないでしょうか。僕自身はこれまですべて紹介ですし、よく知らないうちは頼まれても絶対に即答はしません。
というのは、企業さんが何をどこまで求めているのかを知り、これなら一緒にやれると思えないと、かえって失礼になってしまうからなんです。偉そうなお話になっちゃうと恐縮なのですが、「あなただからやってほしい」と信頼して頼んでもらった仕事じゃないと、続けていくことがむずかしくなるんです。
ですから、中小企業の方たちも、「この人に頼みたい」と確信がもてるまでは頼まないほうがいいと思います。
プロデューサーは売上確約人ではありませんし、成果が出る前に資金が溶けてしまう可能性もゼロではありません。「200万円、任せられる」という肚を決められないのだったら、任せないほうがいいんです。
しかし、頼むと決めたら、最初に要望ははっきり伝え、まず事業計画書を作成してもらい、契約書に年間売上額の目標や、6ヵ月以内に貿易商社や代理店を3名見つけて面談を実現するといったプロセスを決めておくのをおすすめします。
海外に出るからには海外で儲けるのが目的なのですから、利益につながることを考えるのは当然。でも、いつまでも石橋を叩いているとチャンスを逃します。まずは挑戦して、失敗から学んでいく姿勢が成功を招くと思います。