
はじめに
2026 年W 杯の日本の対戦国として注目を集め、近年は欧州で挑戦する日本人サッカー選手が、最初の海外挑戦の場として、エールディヴィジ(オランダのプロサッカー1 部リーグ)を足掛かりにする例があるように、日本の中小企業がEU 市場への進出を検討する際も、最初の拠点としてオランダを選ぶことには合理性があります。
オランダは国土・人口こそEU 主要国より小さいですが、欧州の物流・商流が集約する「入口」として機能しやすいです。小さく事業を回しながら、検証→改善→拡大の順で進め、売上成⾧に応じてEU 全体へ横展開する設計が構築しやすいです。なぜこれらのメリットがオランダにあるのかを解説していきたいと思います。
立ち上げやすいオランダ市場環境
オランダはEU 市場の中でも英語運用がしやすい国として知られています。EF Education First のEF English Proficiency Index(EF EPI)2025 では英語能力指数が世界1 位とされ、英語での商談や日々の業務運用のハードルが相対的に低いです。また「英語が堪能な人が人口の約9 割」といった推計もあり、立ち上げ期のパートナー探索を英語中心で進められる範囲が広いです。
国際商流に慣れた代理店やディストリビューターが多いため、意思決定も比較的迅速であり、海外ブランドへの心理的ハードルも低く、オランダ国内での販売にとどまらず、EU 域内等の周辺国展開を見据えたパートナー探しがしやすい環境にあります。
中小企業が生活雑貨・ホビーなどのBtoC 商材を扱う場合、まずはEC マーケットプレイスを活用し、需要、価格帯、レビュー傾向を把握するのが現実的なアプローチとなります。オランダ国内ではbol.com が強いプレゼンスを持ち、Amazon も投資を拡大しつつ市場を伸ばしているため、初期段階ではこれらを活用して検証を行うことが有効です。売れ筋商品や訴求軸が固まった段階で、現地在庫に移行し現地代理店や流通パートナーと組む事で、オペレーション負荷やリスクを抑えつつ売上規模を伸ばしていくことが可能となります。
BtoB 商材においては、オランダでは初期段階から現地代理店や流通パートナーを通じた販売網構築が有力な選択肢となります。現地代理店や流通パートナーと協力し、試作や評価販売から始め、受注とリピートを重ねながら需要を見極め、売れ筋商品を中心に在庫配置へと段階的に移行することで、大きな投資を抑えつつ市場開拓を進めることができるのです。

中小企業でも作れるEU 物流拠点としてのオランダ
オランダはEU 物流の要衝としても極めて高い優位性を持ち、EU 市場の在庫拠点として最適です。海上輸送ではロッテルダム港がEU 最大級のハブとして機能し、港湾外縁のマースフラクテ地区には大規模なDC(Distribution Center:物流センター) や倉庫が集積しています。ベトゥウェルート(Betuweroute)をはじめとする鉄道網やEU 各国へ伸びる幹線道路も整備されており、港近接のDC に貨物を集約し、ドイツ、フランス、ベルギーなどへ鉄道やトラックで大抵は半日以内に輸送できるため、EU 在庫の一元管理が可能となります。
EU 内で国別に小口在庫を持つと、欠品と滞留が同時に発生しやすいですが、オランダ集約型であれば需要変動に応じた柔軟な在庫配分ができ、立ち上げ期でも在庫回転率を維持しやすいです。さらにマースフラクテ周辺には、保税倉庫、通関、クロスドック(保管せずに即仕分け・即出荷する物流方式)、ラベル貼付や再梱包まで一体で提供する3PL(物流一括代行) が揃っており、指示一つで出荷し、在庫状況もオンラインで確認できる体制を備えており、中小企業でも「自社のEU 倉庫」を外部リソースで実現可能です。

オランダの制度を活かしたEU 進出設計
EU 向け輸出では課税対応が大きな課題となります。通常は到着後に輸入申告を行い、自由流通化した時点で関税と輸入VAT が確定し、納付または立替が必要となります。売れ行きが不透明な段階で全量を通関すると、税金の前払いが資金繰りを圧迫しかねないのですが(VAT: Value Added Tax付加価値税。EU では20%前後)、オランダの保税倉庫を利用すれば、貨物はEU 域内に物理的に存在していても課税が保留され、倉庫から出して流通する時点まで課税を先送りできます。これにより、必要数量のみを段階的に通関し、試験販売を行うことが可能となるのです。売れ残りは未課税のままUK 市場等EU 域外へ再輸出や回収も選択でき、キャッシュアウトを抑えながら市場拡大の判断を行える点は、中小企業にとって大きなメリットです。
加えて、オランダには輸入VAT について「Article 23」があり、許可のもとで輸入時にVAT を即納付せずVAT 申告で処理できる仕組みがあります。(ただし、外国事業者は自力でArticle 23 許可を申請できず、税務代理人を通じる必要がある)
なお、越境直送で市場テストをする場合、EU にはIOSS(Import One Stop Shop :150 ユーロ以下の輸入B2C のVAT 申告・納付を簡素化する仕組み)があり、条件に合えばスモールスタートに活用できます。

小さく始めて拡大できるEU市場への入り口
オランダは、港湾を核とした物流の強さに加え、保税やVAT といった制度を組み合わせることで、資金・在庫を最適化しやすい環境を備えています。また、EU 市場において中小企業が段階的に挑戦しやすい点も大きな特徴です。
EU 規制への理解を含め、最初から大きな賭けに出るのではなく、小さく始めて学びながら拡大していく—その前提で欧州展開を進めたい日本の中小企業にとって、オランダは最有力のスタート地点ではないでしょうか。

筆者紹介

植村 直樹 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)
ロッテルダム在住。中小企業診断士、国際マネジメントコンサルタント(CMC)。日本企業のEU 市場進出やオランダ企業のUK 市場向け事業開発において、販売網の構築に携わりながら、現地拠点、物流、制度対応まで一貫して支援。小さく始めて段階的に拡大する海外展開を、現場目線で総合的に伴走しています。
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