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ビジネス紛争の仲裁と調停 ~シリーズ「国際ビジネス紛争と仲裁・訴訟・調停」 第6回~

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このシリーズでは、ビジネスの紛争を解決する手段の一つである”仲裁”について、様々な角度から解説していきます。最終回となる第6回は「ビジネス紛争の仲裁と調停」と題し、ビジネス紛争の解決方法の一つである調停について論じます。※このシリーズは、2020年6月から9月にかけて、大商ニュース(大阪商工会議所より発刊)に掲載された記事です。(全6回)

 

 これまでの連載で論じてきた「仲裁」は、日常用語で言う仲裁(争いの間に入って取りなし、両方を仲直りさせること)ではなく、法律用語としての仲裁(どちらの言い分が正しいか最終的な判断を行い、当事者は仲裁人の判断に従わなければならない)であった。では、日常用語で言う仲裁は、法律用語では何と言うのか。それが「調停」である。

裁判所の民事調停

 日本で「調停」というとき、最もポピュラーなのは裁判所の民事調停である。全国438カ所の簡易裁判所が原則的な管轄権を有しており、口頭での申立てもできるなど、市民間紛争の解決には大きな役割を果たしている。しかし、裁判所での手続きであるため、調停期日が開かれるのは平日の日中のみであり、使用言語も日本語のみである。事件を担当する調停委員は企業法務経験のない方々が多数であり、国際的なビジネス紛争の解決に向いているとは言えない。当事者間で管轄合意をして、東京地方裁判所などの大規模庁に民事調停を申し立てれば、相対的にビジネス紛争の処理経験を有する裁判官が事件を担当してくれる可能性はあるが、それでも調停期日は1カ月~2カ月おきに五月雨式に指定されるため、解決までには一定の時間を要することになる。

裁判所外の民間調停

 これに対し、民間で調停を実施する場合は、事案の性質に応じて、紛争分野のビジネスに造詣の深い方を調停人に選任することができ、また当事者及び調停人が合意すれば、休日や夜間に調停期日を開催したり、日本語以外の言語で手続を進めることも可能である。具体的な手続の進め方は当事者の合意で自由に決められるが、国際的なビジネス紛争の場合には、当事者双方が各自の言い分を記載した書面(ポジション・ペーパー)を調停人に予め提出した上で、調停期日が連日開催されることが多い。
 たとえば、二日間の調停期日を予定した場合には、初日は調停人が当事者双方から、ときには同席で、ときには個別に、口頭で言い分を聞き、さらには合意可能な和解案の方向性について議論を重ね、それを踏まえて二日目に調停人から当事者双方に和解案が提示されることになる。これを当事者双方が受諾すれば和解合意書を作成して調停は終了し、どちらかが拒絶すれば調停は不調に終わることになる。調停手続の開始から終了に至る具体的な日程設定は当事者の合意次第であるが、通常、2カ月~3カ月程度で終了することが多い。

機関調停とアドホック

 世界の定評ある仲裁機関の多くは、仲裁事件の管理業務だけではなく、調停事件の管理業務も提供している。たとえば、日本商事仲裁協会(JCAA)は、調停人の選任・忌避・解任や調停手続の進行を規律する商事調停規則(2020年版)を定めており、国際的なビジネス紛争も取り扱っている。また、筆者が常務理事を務める日本仲裁人協会は、2018年、日本初の国際調停専門センターである京都国際調停センターを設立し、調停手続の開催場所として同志社大学今出川キャンパスと高台寺を確保している。 
 また、調停人の選任について当事者間で合意ができるのであれば、調停機関ないし仲裁機関の関与なしに、当事者と調停人だけで調停を実施することも可能である(アドホック調停と言われる)。調停は、法的な勝ち負けを決することを目的とした手続ではなく、和解による紛争解決を目的とした手続である。和解達成という共通目的がある限り、アドホック調停であっても手続が滞るおそれは少ない。

調停の勧め

 ビジネス紛争を訴訟(特に外国での訴訟)で解決すること(法的な勝ち負けを決すること)が日本企業にとって相当な負担となること、仲裁(特に日本での仲裁)を選択することによって、その負担を大きく軽減できることは、前回までの連載で述べたとおりである。しかし、それでも仲裁には一定の時間が掛かる。たとえばJCAAの平均手続期間(仲裁申立てから仲裁判断まで)は17カ月弱である。自己の主張を法的に基礎づけるため、大部の主張書面、証拠書類、陳述書、専門家意見書等の提出や証人尋問に要する費用も相応の額に達する。
 これに対し、調停では、過去の紛争に関する法的な勝ち負けを越えて、将来のビジネスを考慮した前向きの解決(デイーリング)が指向される。そこでは、法的な要件事実や証拠だけではなく、当事者の様々の事情や感情も十分に斟酌される。そのため、調停手続で提出されるポジション・ペーパーは、仲裁手続で提出される主張書面に比べれば、相当に簡略なものである。調停で和解が成立すれば、訴訟や仲裁を最後まで追行するよりも、早期かつ安価に紛争を解決することができる。ビジネス紛争につき当事者間での話合いが決裂したときは、訴訟や仲裁の申立てに先立って、JCAAや京都国際調停センターへの調停申立ても一考に値する。

 

日本商事仲裁協会(JCAA)とは

 日本商事仲裁協会(JCAA)とは、「商事紛争の処理及び未然防止等を図ることにより、円滑な商事取引を促進し、もって我が国経済の健全な発展に寄与」することを目的として設立された、日本で唯一の商事仲裁機関です。
仲裁・調停に関するご相談は一般社団法人日本商事仲裁協会へお問い合わせ下さい。

筆者紹介

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 古田 啓昌 氏 

 

 

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