海外進出ノウハウ

日本の仲裁機関と海外の仲裁機関 ~シリーズ「国際ビジネス紛争と仲裁・訴訟・調停」 第5回~

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このシリーズでは、ビジネスの紛争を解決する手段の一つである”仲裁”について、様々な角度から解説していきます。第5回は「日本の仲裁機関と海外の仲裁機関」と題し、仲裁機関の特徴と、日本および外国の仲裁機関の活用について論じます。※このシリーズは、2020年6月から9月にかけて、大商ニュース(大阪商工会議所より発刊)に掲載された記事です。(全6回)

 

 これまでの連載で何度も触れたように、仲裁は当事者間の合意に基づく手続である。手続の進め方も仲裁人の選任も、強行法規に違反しない限り、当事者の合意で自由に決めることができる。したがって、当事者がその気になれば、当事者と仲裁人だけで仲裁手続を進め、紛争を解決することも可能である(一般にアドホック仲裁と呼ばれる)。しかし、世の中には、個別の仲裁事件の管理等を業とする組織(一般に仲裁機関と呼ばれる)が多数存在する。たとえば、日本商事仲裁協会(JCAA)が一例である。しかも、現実の仲裁事件の大多数は、仲裁機関の管理の下(一般に機関仲裁と呼ばれる)に実施されている。なぜだろうか。

仲裁規則の提供

 仲裁法は仲裁手続の具体的な進め方について詳細な手続規則を規定しておらず、多くを当事者の合意に委ねている。しかし、現実問題として、契約当事者の間で手続規則を細かく交渉することは、交渉コスト等の点から現実的では無い(もっとも、UNCITRAL仲裁規則(アドホック仲裁のために制定されたモデル規則)を選択する方法もある)。また、交渉により合意された手続規則が、本当にフェアーであるか、実際にワークするかは、不透明でもある。仲裁機関は、それぞれ詳細な手続規則を定めており、取引契約の仲裁条項で機関仲裁を選択しておけば、当事者間で手続規則を細かく交渉する手間を省くことができる。

仲裁人・緊急仲裁人の選任

 仲裁機関を指定しておけば、紛争当事者間で誰を仲裁人に選任するか合意ができないときも、その仲裁機関が仲裁人を選任してくれる。また、仲裁人が選任されるまでの間に、現状維持などのための緊急措置が必要な場合に備えて、多くの仲裁機関が「緊急仲裁人」の制度を用意している。アドホック仲裁の場合は、管轄裁判所に仲裁人の選任を申し立てたり、保全処分を申立てるほかないことになる。

事務局の存在

 仲裁機関の事務局には、仲裁実務に通暁したスタッフが常駐している。彼らは個別の仲裁事件の進行管理等を行うほか、仲裁手続に関する一般的な問い合わせ等にも対応してくれる。仲裁手続に馴染みが薄い企業や弁護士等にとって頼もしい存在である。

日本の仲裁機関

 一般的なビジネス紛争について我が国を代表する仲裁機関は、JCAAである。70年近い歴史と実績を有し、現在は東京と大阪に事務所を置いている。事務局スタッフは企業からの問い合わせにも日本語で丁寧に応対してくれるし、また時差もないことから、日本企業にとっては身近な存在であるといえる。かつては(筆者が弁護士になった30年前)JCAAの手続は(当時の)裁判所の訴訟と同様、不合理で時間が掛かりすぎるという(主として外国弁護士からの)批判もあった。しかし、現在のJCAAの手続は十分に迅速かつ合理的であり、外国弁護士からも高く評価されている。最新のJCAAの仲裁規則(2019年版)は、緊急仲裁人や迅速仲裁手続の制度を取り入れた世界水準のものとなっている。取引契約の仲裁条項を置く場合、日本企業としては、まずはJCAAを選択した上で、日本を仲裁地とすることを検討すべきであろう。

外国の仲裁機関

 もっとも、日本企業が外国企業と契約交渉をする際、JCAAの機関仲裁を提案しても、日本の仲裁機関であることを理由に相手方から難色を示されることもある。そのような場合には、中立的な第三国に本拠地を置く仲裁機関(例えば国際商業会議所の国際仲裁裁判所(ICC)やシンガポール国際仲裁センター(SIAC)など)を選択した上で、仲裁地は東京や大阪を指定することも考えられる(連載第3回で触れたとおり、日本企業の実務的負担は、ホームの仲裁とアウェイの仲裁とで相当違う)。審問期日等を実施するための物理的施設については、日本国際紛争解決センターが大阪(2018年開業)と東京(2020年開業)に開設した施設を利用することが可能である。

アドホック仲裁

 もとより仲裁機関はボランティア団体ではなく、個別の仲裁事件の管理等を無料で引き受けてくれるわけではない。それぞれの仲裁機関は、一定の基準(ウェブサイト等で公表されている)に従って、当事者に対し管理料金等を請求するのが通例である。しかし、その金額は、各仲裁機関間の競争もあって、概ね合理的な水準であり、管理料金等の負担を避けるためにアドホック仲裁(仲裁機関の関与なしに、当事者と仲裁人だけで実施する仲裁)を選択することは決して賢明であるとは言えない。アドホック仲裁は、仲裁人の選任や仲裁手続の進行管理に困難を来たし、かえって紛争解決コストが嵩むことが少なくないからである。それでも敢えてアドホック仲裁を選択すべき場合は、案件の守秘性が極めて高く、仲裁機関にすら知られたくない場合等に限定すべきであろう。

 

日本商事仲裁協会(JCAA)とは

 日本商事仲裁協会(JCAA)とは、「商事紛争の処理及び未然防止等を図ることにより、円滑な商事取引を促進し、もって我が国経済の健全な発展に寄与」することを目的として設立された、日本で唯一の商事仲裁機関です。
仲裁・調停に関するご相談は一般社団法人日本商事仲裁協会へお問い合わせ下さい。

筆者紹介

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 古田 啓昌 氏 

 

 

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