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日本での訴訟と日本での仲裁 ~シリーズ「国際ビジネス紛争と仲裁・訴訟・調停」 第4回~

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このシリーズでは、ビジネスの紛争を解決する手段の一つである”仲裁”について、様々な角度から解説していきます。第4回は「日本での訴訟と日本での仲裁」と題し、日本国内においての訴訟と仲裁の違いと、仲裁を選ぶメリットについて論じます。※このシリーズは、2020年6月から9月にかけて、大商ニュース(大阪商工会議所より発刊)に掲載された記事です。(全6回)

 

 「思い出の 事件を裁く 最高裁」とは、2002年に小泉純一郎首相(当時)が披露した川柳である。裁判に時間が掛かりすぎ、国民の期待に応えていない実情を皮肉ったものである。それから約20年。日本での民事訴訟の現状は、どうなっているだろうか。

民事訴訟の現状

 筆者が弁護士になったころ(1991年)の民事訴訟は、「3分間弁論」「五月雨証拠調べ」という言葉に象徴されるような非効率的なものであった。訴訟の序盤では当事者がお互いに言い分を小出しにして、毎回3分程度の短時間の弁論期日が1~2カ月おきに何度も繰り返され、その後で証人尋問が五月雨式に行われる(証人一人につき主尋問1回、反対尋問1回の証拠調べ期日が約2カ月おきに何度も繰り返される)。その結果、多少複雑な事件だと第一審の判決が出るまでに3年~5年を要することは珍しくなく、高裁、最高裁まで争われた場合には事件の完結まで10年~20年を要することもあった(まさに「思い出の事件」である)。
 しかし、1998年に新しい民事訴訟法が施行され、さらに2003年には裁判迅速化法が制定されて、主張立証の後出しは原則として許されず、また第一審の判決は原則として2年以内に言い渡すこととされた。最近の司法統計によれば、第一審の審理期間が2年を超えた事件は民事訴訟全体の約7%に止まっている。平均審理期間も、第一審で約9カ月、高裁で約6カ月、最高裁で約3カ月となっており、最高裁で終結した事件の総審理期間の平均は約36カ月である。筆者の経験でも、ビジネス紛争が訴訟に発展した場合、多少複雑な事件であっても概ね2年程度で第一審判決に至ることが多く、その後、高裁、最高裁に上訴されたとしても、全体で概ね3年程度で決着することが多い。解決までに2年から3年を要するというのは、ビジネスの現場感覚から見るとまだまだ遅すぎるのであろうが、かつての実情と比較すると、大いに改善されている。

それでも仲裁が選ばれるのは、なぜか

 というわけで、海外での訴訟(その困難性は、連載第2回で触れた)に比べれば、日本での訴訟は、ビジネス紛争の解決手段として決して悪いものではない。実際、日本の裁判官の優秀さや中立公平性は、世界的に見ても群を抜いている。にもかかわらず、取引契約のドラフティングに際して、日本での訴訟ではなく、日本での仲裁を選択する(すなわち日本を仲裁地とする仲裁条項を置く)ことは珍しくない。例えば次のような場合である。

手続の非公開

 日本国憲法上、裁判は公開が原則であり、誰でも民事訴訟の弁論期日・証拠調べ期日を傍聴し、訴訟記録を閲覧することができる。ビジネス紛争が訴訟になった場合には、情報が広く報道・拡散されるリスクが生じることになる。これに対し、仲裁手続は非公開であり、当事者間が相互に守秘義務合意をすれば、情報拡散リスクを回避した上で、紛争解決を図ることができる。

早期の紛争解決

 ビジネス紛争を民事訴訟で解決する場合、以前よりは迅速化されたとはいえ、なお第一審判決まで2年程度、最高裁まで争うと3年程度の期間を要する。これに対し、たとえばJCAAの平均手続期間(仲裁申立てから仲裁判断まで)は17カ月弱である(仲裁には上訴がないので、仲裁判断によって手続は終結する。)。当事者が迅速仲裁手続を選択した場合には、JCAAの規則上、仲裁廷は成立の日から3カ月以内に仲裁判断をするよう努めることとされている。

事件の専門性

 民事訴訟の担当裁判官は、訴状の受付順に機械的に配点されるのが原則である。東京地裁や大阪地裁などの大規模庁には、知的財産、労働、建築、医療過誤など分野別に専門部が置かれていることもあるが、多くの裁判所では、どんなに専門性の高い事件であっても、通常の民事裁判官がオールラウンダーとして審理判断することになる。これに対し、仲裁であれば、当事者の合意で当該分野(たとえば、海外建築プロジェクトとか、金融工学とか)に深い知見を有する専門家を仲裁人に選任することができる。

翻訳費用の節約

 日本の裁判所では、現状、日本語が手続言語として法定されている。外国語の書類を証拠提出する際には、和訳文を添付しなければならない。大量の外国語書類を和訳するコストは決して無視できない。これに対し、仲裁では、当事者の合意で訳文の添付を省略することが可能である。

相手が外国企業の場合

 日本企業にとって外国での訴訟が困難であるのと同様、外国企業にとって日本での訴訟には様々な困難が伴う。そのため、取引契約の交渉に際して、日本企業側が日本の裁判所の管轄条項を提案しても、外国企業側から強く抵抗されることが少なくない。これに対し、仲裁の場合には、仲裁地は日本とした上で(仲裁のホームとアウェイについては、連載第3回で触れた)、先方の懸念に応じて、手続言語を日本語以外の言語にするとか、仲裁人は日本国籍を有しない者にするとか、ある程度の証拠開示(ディスカバリ)を認めるなどの柔軟な対応が可能である。

 

日本商事仲裁協会(JCAA)とは

 日本商事仲裁協会(JCAA)とは、「商事紛争の処理及び未然防止等を図ることにより、円滑な商事取引を促進し、もって我が国経済の健全な発展に寄与」することを目的として設立された、日本で唯一の商事仲裁機関です。
仲裁・調停に関するご相談は一般社団法人日本商事仲裁協会へお問い合わせ下さい。

筆者紹介

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 古田 啓昌 氏 

 

 

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