スイス

EUの富裕層へ向けた日本製品進出可能性調査レポート(スイス編③-アーニャ・グラフ氏-)

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アーニャ氏の御用達~サラ・オブ・トーキョー(Sala of Tokyo)

店名:サラ・オブ・トーキョー(Sala of Tokyo)
業種:飲食業(日本食レストラン)
所在地:Schützengasse 5, CH-8001, Zürich
電話番号:+41 (0)44 271 5290
営業時間:レストラン 火~金11:30~14:00、火~土18:00~23:00
     バー 火~金11:30~23:00、土11:00~15:00(ブランチ)、18:00~23:00
定休日:日、月曜日
ウェブサイト:https://www.sala-of-tokyo.ch/(ドイツ語、英語)
取材対応者:オーナー、ロレンツ・ムスター(Lorenz Muster)さん
商品名(値札)等の言語:ドイツ語、英語

インプレッション(印象)

チューリッヒ中央駅前エリアの高級日本食レストラン

 ヨーロッパ主要都市へ鉄道が発着する、チューリッヒ中央駅。駅前からのびるバーンホフ通りは、買い物を楽しむ観光客やローカルでいつも賑わっています。「ヨージズ(Yooji’s)」というスイスの寿司チェーン店の角を曲がると、カフェやホテルが建ち並び、少し落ち着いた雰囲気に。韓国・日本食材店「ユミハナ(Yumi Hana)」の向かいに、「サラ・オブ・トーキョー」があります。
 入口には石灯籠、窓には「茶」「酒」の漢字と、日本らしさが感じられます。外のテラス席は、夏場、屋外で過ごすのが好きなスイス人にぴったり。店内は、日本酒のラインナップが豊富なバーと、木を基調とした明るい雰囲気のレストランに分かれています。所々に飾られた日本家具や書、浮世絵や着物なども重厚な印象。30~50代くらいのシックな装いの客たちが、ランチを楽しんでいました。

お店の概要

創業当初は、日本人駐在員の御用達店

 創業は1981年、スイスで最も古い日本食レストランだといわれている「サラ・オブ・トーキョー」。元々は日本人とスイス人の夫婦(福岡和子&エルンスト・ル-フ)が、市内の別の場所(リマト通り)にオープンしたのが始まりです。店名の「サラ」は沙羅双樹から命名し、和子さんの愛称でもあったとか。
 当時のチューリッヒには日本の銀行の支店が30ほどもあったため、顧客の95%は日本人だったのだそう。1985年には、フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ(Gault&Millau)」で、満点20点のうち16点を獲得し、日本人コミュニティ以外にもその名が知れ渡るようになりました。

スイス人の新オーナーと、一等地で再スタート

 2000年代に入ると、スイスでも健康志向が高まり、「ランチは寿司が定番」というビジネスマンも増加。そんな追い風の中、2013年、日本滞在経験のあるスイス人シェフ、ロレンツ・ムスター氏が店の新オーナーに就任。2017年には「夢らーめん」というカジュアルなラーメン店もオープンし、レストラン事業を拡大していきます。
 そして2018年夏、チューリッヒ1区の現在地に「サラ・オブ・トーキョー」を移転。テーブル40席、バー25席に加え、約20人収容の個室も完備と、スペースも拡大。内装は友人の日本人建築家に任せ、料理人もすべて日本人を採用するなど、「オーセンティックな日本らしさ」を大切にしています。

品揃え

ランチには、手早くリーズナブルな丼物を

 ランチタイムには、日替わりで2種類の丼物を用意。ある日のメニューは、「ビーフカレー丼」(27.5フラン、約3,000円)と「鮭の照り焼き丼」(32.5フラン、約3,500円)で、それぞれ味噌汁とサラダが付きます。ヴィーガンメニュー(グルテンフリー)の「おろしポン酢がけ野菜丼」(22フラン、約2,400円)も用意。手早く食べられる上、スイスのランチとしては妥当な価格であるため、多くの客が訪れるそう。
 ちょっと贅沢したい人向けには、刺身や焼き物などを詰めた弁当(42フラン、約4,600円)や、前菜か始まり、寿司や炉端焼きまで楽しめるビジネスランチ(75~165フラン、約8,200~1万8千円)もあります。

売りは「特別懐石」、ハイクオリティな和牛を使用

 「サラ・オブ・トーキョー」の本領が発揮されるのは、ディナーの時間帯。ビジネスマンに人気の特別懐石は、前菜、寿司や刺身、揚げ物、おまかせ、焼き物、デザートが順番に出され、季節に合わせた日本料理をゆっくり堪能できる。すき焼きやしゃぶしゃぶといった、鍋物も扱っています。
 どの場合も、使用する肉の質によって価格が異なります。最高級であるA5等級の日本産和牛を選んだ場合、特別懐石は200フラン(約2万2千円)、しゃぶしゃぶは280フラン(約3万円)。スイスでレストランでのディナーは通常70フラン以上かかりますが、なかでもハイクラスといえそうです。

寿司や刺身は、注文を受けてから調理

 アラカルトメニューは、自家製豆腐や枝豆などのおつまみから、海老や野菜の天ぷら、和牛や海鮮の炉端焼き、抹茶アイスや餅などのデザート類まで、豊富に用意。マグロやイクラなどの握り寿司は1個7フラン(約770円)から、アボガドサーモンやスパイシーツナなどの巻物は6個12フラン(約1,300円)から提供しています。
 寿司や刺身は、注文を受けてから作り始めるのが鉄則で、その旨をメニューにも記載。「できたての新鮮なものを味わっていただくのが一番大事」(ロレンツさん)という思いからなのだとか。店内はオープンキッチンスタイルになっており、ガラスケースには色鮮やかな魚介類が並んでいます。

クオリティの高い日本酒を厳選

 ドリンクも各種取り揃えています。ワインは、フランスやイタリア、スイスなどヨーロッパのものを。日本酒の産地は、北海道、仙台、群馬、愛知、三重、兵庫、伊丹、神戸、福井、鳥取、島根、山口、高知、福岡と多岐にわたります。バースペースには、軽井沢やニッカ、サントリーなどの日本のウィスキーの姿も。
 ラインナップの中でも、山口の「獺祭」は、ヨーロッパでもハイエンドな日本酒として有名なのだとか。こちらのレストランでは、「獺祭23」が245フラン(約2万7千円)、「獺祭50」が165フラン(約1万8千円)、「獺祭磨きその先へ」が980フラン(約10万円、いずれも720ml)で提供されています。

顧客

地元ビジネスマンから観光客まで様々

 チューリッヒで一番賑わうエリアにあるため、ビジネスマンや観光客、家族連れなど、様々な客が訪れます。以前は日本人が大半だった客層も、現在はスイス人が9割ほどと逆転。チューリッヒ周辺に住む常連も多く、ランチやディナーの時間帯は、常に混雑しています。
 近くに別の寿司レストラン(ヨージズ)があることについて、ロレンツさんは「ヨージズはファストフード的なお店。店のコンセプトが異なるので、特に影響はありません」と回答。1人ひとりの顧客に対しきめ細かいサービスを行い、クオリティの高い食事を提供する方針を貫いています。

常連は、ヘルシー志向な富裕層

 この店に通う常連の1人が、不動産会社「ヴィジョン・アパートメンツ(Vision Apartments)」を経営する、アーニャ・グラフさん。ヨーロッパの肉料理に付いているソースが脂っこくて重たすぎると感じていたところ、ここで炉端焼きに出会い、「シンプルでヘルシー」な点が気に入ったのだという。
 また、チューリッヒの高級メンズファッションショップ「ディーシースタイル(DeeCee style)」オーナーのマルクス・カドルヴィさんは、ここで刺身をよく食べるといいます。このように地元の富裕層も行きつけにしているレストランであり、評判は高いようです。

宣伝方法

個人客のSNS発信が、店の宣伝に

 自ら積極的に広告は出していませんが、「ターゲスアンツァイガー(Tagesanzeiger)」や「NZZ」」などの地元新聞や、「グリュエツィ(Grüezi)」というスイス在住日本人向けのフリーペーパーに取り上げられることはあるといいます。
 最近は、店を訪れた客が自分のブログやインスタグラムに写真などを載せることも多く、「そうしたお客さんの行動が自然と店の宣伝になっています」とロレンツさんは話します。
 店のウェブサイトは、インターナショナルな客層を反映して、ドイツ語と英語の2カ国語表記。ランチやディナーメニュー、季節ごとのスペシャルメニュー、ワインや日本酒のリストなども公開。予約はオンラインでも受け付けており、フェイスブックとインスタグラムのアカウントもあります。

日本産の品物

日本食材は、欧州の卸を通して購入

 日本産の品物に関しては、スイスやヨーロッパの卸会社を通して購入しています。海鮮類は、スイスの「ビアンキ(G. Bianchi AG)」やオランダの「北海水産(Hokkai Suisan B.V.)」。日本酒は、ドイツ発祥でスイスに支店がある「ウエノグルメ(Ueno Gourmet AG)」や、チューリッヒにある「しずくストア(Shizuku Store)」、「イル・フォー(Île Four)」を利用しています。
 基本的にはこうした企業が、ロレンツさんの方へ新商品をアプローチしてくるのだとか。食器などは自ら日本で買ってくることもありますが、食材は質が命。リスク防止の観点から、すべて卸を通すことにしているそうです。

スイスは特に規制の厳しい国

 ただ、食材の輸入に関しては、ヨーロッパの中でもスイスは特に制約が多く、頭を抱えることも多いといいます。
 その一例が、アイスクリーム。スイスでは「スイス産の牛乳を使うように」という政府の方針があるために、日本から輸入できないのだそう。北海道産ウニも、「網ではなく手で捕獲しなければならない」という理由で、入手困難。食材一つひとつに対して細かい規制があり、一筋縄ではいかないのが実情のようです。

個別企業とのやりとりは、基本的にNG

 日本企業からの売り込みとしては、以前、日本の酒造ツアーがレストランを訪れたことがあるそうですが、「個別に直接やりとりするのは正直に言って難しい」というのがロレンツさんの本音です。
 その理由は、手続きの複雑さにあります。スイスはEU地域外にあるため、日本から輸入する場合、「日本→EU」「EU→スイス」と2段階の手続きが必要。前のオーナーはその事務手続きを自分たちでやっていましたが、実際に取り扱う量は少量であるにも関わらず、膨大な時間と手間をとられる作業のため、現在は卸を通すことにしているそうです。

日本文化や特記すべき自国・外国文化へのコメント

日本ともつながりが深いオーナー

 ロレンツさんは元々フレンチのシェフで、日本料理に魅力を感じ、休暇で日本を度々訪れていた。東京にも2年間滞在し、日本語学校に通いながら、夜は飲食店でアルバイトという生活を送った経験の持ち主。三つ星レストランからラーメン屋まで、飲食業界の様々な現場で働いた経験が今、役立っていると言います。
 現在は日本人のパートナーもおり、家族・仕事関係で東京を訪問することが多いロレンツさん。讃岐うどん発祥の地・四国に強い関心があり、いつか訪れたいと話していました。

スイスよりも日本の方がクオリティに厳しい

 これまでの日本との付き合いから感じるのは、「スイス人と日本人は、文化や規律の面で似ている」ということ。どちらも真面目で、時間にも正確。ただ、飲食業界では、日本の方がクオリティに厳しいと感じるという。「スイスは人口も少なく、飲食店の競争もそれほどありません。だから、みんな現状に満足しがち。一方で、日本は競争が激しく、皆ハングリー精神がありますよね。その結果、質の向上につながるのだと思います」

日本食材は、難しいけれど求められている分野

 「スイスの市場は小さいけれど、日本や日本製品への関心は強い」と話すロレンツさん。特に飲食業界では、より多様な食材を必要としているため、チャンスは大きい見込み。彼自身は、木の芽や京野菜など、日本でしか手に入らない野菜に関心があり、日本企業のさらなるヨーロッパ進出に期待を寄せている様子でした。

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