スイス

EUの富裕層へ向けた日本製品進出可能性調査レポート(スイス編③-アーニャ・グラフ氏-)

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アーニャ氏の御用達~レストラン・エドマエ(Edomae)

店名:エドマエ(Edomae)
業種:飲食業(日本食レストラン)
所在地:Talstrasse 62, CH-8001, Zürich
電話番号:+41 (0)44 544 0033
営業時間:月~金10:00~20:00
定休日:土、日曜日
ウェブサイト:https://edomae.ch(英語)
取材対応者:オーナー、デニズ・アカヤ(Deniz Akkaya)
商品名(値札)等の言語:ドイツ語

インプレッション(印象)

ビジネス街にある、ニュートラルな店構えのレストラン

 チューリッヒの金融の中心地パラーデプラッツに近く、人も車も行き来が多いタール通り。リヒテンシュタインに本部を置く「VPバンク(VP Bank)」や、スイスで初めて仮想通貨を取り扱った「ファルコン・プライベートバンク(Falcon Private Bank Ltd)」等、様々な銀行がひしめくエリアに、「エドマエ」はあります。
 「Edomae」という看板がかけられ、窓ガラスに店名が書かれていますが、一見した限りでは日本食レストランと分からない店構え。天井からは様々な観葉植物が吊り下げられ、ガラス張りの明るい店内は、カフェのような雰囲気です。店内スペースは広々としており、内装は非常にシンプル。壁の鮮やかな配色のポスターが目をひきます。

お店の概要

きっかけは、日本人の友人との会話

 創業は2018年であり、チューリッヒで最も新しい日本食レストランの1つである「エドマエ」。オーナーは、スイス人とトルコ人の血をひくデニズさんです。元々は会計士であり、バーやクラブでも働いていたという彼が、なぜ日本食レストランを始めようと思ったのか。
 実は彼、黒澤明や北野武などの日本映画や和食の大ファン。20代の頃から休暇で度々日本を訪れており、2013年には6か月間滞在したことも。そんな彼がある日、スイスの寿司レストランで食当たりにあい、日本人の友人が「日本でも寿司はピンキリ。自分はカウンターでおまかせの寿司しか食べない」と発言したことから、「そういえば、おまかせはスイスにまだない。これはビジネスチャンスだ!」と感じたのだそう。

オープン直後から、ローカル注目のレストランに

 デニズさんは早速、店のコンセプトを作成。「伝統的な江戸前寿司」を提供するため、以前から知り合いであり、地元チューリッヒの高級デパート「イェルモリ(Jelmoli)」で12年間寿司を握っていた、日本人とスイス人の血をひくフンキさんに声をかけ、料理長として腕をふるってもらうことになりました。
 2018年4月にオープンするやいなや、またたく間に地元ビジネスマンの人気ランチスポットに。手軽でヘルシーな丼物や、スイスでは他に見かけない「手織り寿司」、そして毎晩2組限定の「おまかせ」コースが評判をよび、注目の和食レストランとして様々なメディアにも取り上げられました。

シンプルなインテリア、パーソナルな接客

 店の内装のテーマは、「限りなくミニマリスティック」。知り合いの日本人建築家がデザインした照明や、チューリッヒのデザイン美術館から借りた日本製の広告ポスター3点を飾るほかは、過剰なデコレーションを排除。昼と夜で飲食スペースを分けており、合わせて49席あります。
 従業員は、日本人や日本にルーツをもつ人を採用し、日本らしいきめ細やかなサービスを行っています。英語メニューはまだありませんが、口頭で対応可能。「紙で配られるよりも、もっとインティメート(親密)な感じがするでしょう?」とデニズさん。接客では、顧客とのパーソナルなやりとりを大事にしているそうです。

品揃え

ランチには、手早く食べられるちらしや麺類

 ランチタイムの売れ筋メニューは、「鮭ちらし」(24.80フラン、約2,700円)。鮭、卵、アボガドなどがのったちらし寿司に、味噌汁か胡麻サラダがつきます。ほかに、マグロや海老などが入った「ミックスちらし」(27.80フラン、約3,000円)や、「ベジちらし」(21.80フラン、約2,400円)もあります。
 麺類では、鴨うどん(26.80フラン、約2,900円)、海老うどん(24.80フラン)、野菜うどん(22.80フラン、約2,500円)を用意。夏には限定メニューとして、冷やし蕎麦も提供しています。

スイスで初めて「手織り寿司」も紹介

 また、京都のレストラン「あうーむ(AWOMB)」が編み出したという「手織り寿司」は、手巻きよりも小さいサイズの海苔に様々な具材を織り込んで食べる、新しいスタイルの寿司。「エドマエ」では、鮭(28.80フラン)、ミックス(32.80フラン)、野菜(26.80フラン)の3種類の手織り寿司を出しており、顧客からは「メキシコのタコスみたい」と評判も上々なのだとか。
 「ランチタイムの売り上げの約5割はちらし、2~3割は手織り寿司、残りの2割程度はうどんといった感じですね」とデニズさん。価格帯としては、安くはないけれど高すぎもしない、中級の部類に入るでしょうか。

夜は、「完全おまかせコース」のみ

 ディナーは、毎日2組限定の「おまかせ」コースのみとなっており、一律108.80フラン(約1万2千円)。1組最大7名までと少人数制で、時間も60~70分と決まっています。季節感を大切にしているため、メニューは4週間ごとに変えています。
 メニューは、握り寿司のコースに、懐石のエッセンスを加えたもので、全14品。例えば2019年1月のお品書きでは、ハマチや鱈、イクラやウニといった握り寿司の他に、「スズキのお吸い物(柚子入り)」や「きんぴらごぼうマグロ丼」、「親子納豆(豆腐と納豆のコンビ)」といった品々もあり、バリエーション豊富です。

スイス人向けに、味付けも一工夫

 スイス人の客が多いことから、梅干しや納豆、ウニといった、好き嫌いの分かれる食材については、味付けも工夫しています。例えば、梅干しにハチミツを添えて酸味を和らげたり、納豆には醤油と辛子だけでなく、みりんを加えてみたり。納豆とウニに関しては「気に入る人半分、苦手な人半分」といったところだとか。
 また、スイス人は塩辛い味付けに慣れているため、追加で醤油を頼んだり、自前で塩を持って来たリする人もいるのだそう。その場合、料理人の味付けを尊重してもらうため、やんわりとお断りするといいます。スイスのレストランでは通常支払われるチップも、夜のコースでは基本的に受け取らないなど、日本のスタイルにならっているそうです。

食べ物だけでなく、「食文化」も伝えたい

 おまかせコースでは、客がカウンター席についた後、料理長からの説明があります。一品一品、まずは視覚や嗅覚で料理を楽しんでもらい、「どうぞ」の声を合図に食べ始めてもらうのだとか。「食べ物だけでなく、日本の文化も一緒に体験してほしい」というデニズさんのねらいです。。
 飲み物代を入れるとおよそ130フラン(約1万4千円)となり、価格帯はハイクラスです。しかしながら、今までのスイスにはなかったスタイルは好評で、これまでに日本食を食べ慣れてきたスイス人にとっても、新鮮な体験になっているようです。

顧客

メインは、「クオリティ」を重視する銀行員

 最も混雑するのはランチタイムで、客の3~4割は既に常連で、近隣のパラーデプラッツにあるUBSやクレディ・スイスの銀行員がよく訪れる。特に、日本に行ったことがあったり、日本食が好きだったり、日本人と結婚していたりなど、何かしら日本とつながりのあるお客さんが多いといいます。
 店の向かいにはチェーン系レストランがありますが、デニズさんは「チェーン店とは競争にならない」と断言。「このエリアの銀行員は、クオリティを大事にします。マスプロダクションの質の低さに辟易した人たちが多いからです」と分析し、値段が多少高くても質の高さで勝負できると語ります。

ヘルシー志向の社長や、家族連れの姿も

 そんな常連の1人が、スイス人の起業家アーニャ・グラフさん。自社オフィスが同じビル内にあることから、よくエドマエでランチをするのだそう。彼女のお気に入りは、ちらしや手織り寿司。「ヘルシーであるのがポイント」だと言います。
 場所柄、観光ルートからはやや外れているため、観光客はあまり来ませんが、最近ではバギーを押したファミリーも訪れるようになり、客層に広がりが見られるそうです。

宣伝方法

口コミや、個人客の発信が宣伝に

 広告は出していませんが、地元の生活情報サイト「ロノープ(Ron Orp)」など、掲載媒体は多数。また、「チューリッヒでお出かけ!(Zürich geht aus!)」というガイドブックでは、なんとオープンして1年たたずに「チューリッヒでNo.1のレストラン」としてノミネートされ、デニズさんも驚いたといいます。
 顧客の中には、個人でブログやインスタグラム、フェイスブックのアカウントを持っている人々も多く、彼らが発信してくれることによって、結果的に店の宣伝になっています。口コミの影響も大きいとのこと。ウェブサイトでは、昼・夜ともにメニューが公開されており、オンラインでも予約可能です。

日本産の品物

基本的には、スイスの卸を通じて購入

 取り扱っている食材については、すべてを日本産でまかなっているわけではありません。七味など、どうしても取り寄せなければならないものに関しては、アジア食材に強い「ジョージ・ワイス(George Weiss Lebensmittel AG)」や「フーデックス(Foodex)」などの卸会社から購入。酒や酢、米は、日本産にこだわっています。しかし、玉ねぎなどフレッシュなものに関しては、地元スイス産などを使用しています。
 基本的には卸が勧めたものから選んで発注しますが、レストランのクオリティに合わないと感じた場合には、返品することもあるそうです。

魚介類は、漁業問題にも配慮

 魚は「ブラッシュレ(Braschler’s Comestibles Import AG)」という、チューリッヒの卸から購入。「ビアンキ(G. Bianchi AG)」という大手よりも3割ほど値段は高いそうですが、品質も高く、場所が近いため、毎日配送してもらっています。
 魚も日本産にこだわらず、スコットランド産やセーシェル産も使用。中トロを提供する回数を減らすなど、漁業問題にも配慮しています。

日本文化や特記すべき自国・外国文化へのコメント

日本とスイスは、「ディテール」の国

 日本(おもに大阪)に滞在経験があり、友人も多いことから、日本とスイスの両方に精通しているデニズさん。両国に共通しているのは、「ディテールへのこだわり」だと言います。どちらかといえば、日本の方が、より細やかな気配りをしているとのこと。
 また、日本人についても、「謙虚で、フレンドリーな人たちが多く、攻撃的であったり、暴力的であったりすることが一切ない」と好意的なイメージを持っています。

違うのは、食事のスピード

 ただ、「食事のスピード感が違う」と言います。「日本人は、早く食べたい派。対照的に、スイス人は1時間でも足りないというくらい、のんびりしているんですよ」(デニズさん)。途中で写真を撮ったり、外でタバコ休憩したり。ただ食べるだけでなく、食事の「時間」を楽しみたいという気持ちが強いのだそう。
 学校の時間割に例えると、おまかせは「集中して臨む授業」なのに対し、食後のデザートは「休み時間」という位置づけ。バースペースでデザートを食べながら、今しがた食べた料理について、ゆっくり語り合う。そうした時間やスペースを提供できるレストランは、スイス人には響くと話していました。

日本にある「本物の味」を手に入れたい

 今後、新たに日本から仕入れたい品物は「ワサビ」だと言います。スイスでは手に入りにくく、しかも高いのだそう。日本産のワサビ1本(40~70g)が、50~70フラン(約5,500~7,700円)するのだとか。大阪の知人を通して試しに少しずつ購入しているそうですが、1本3~5フラン(約330~550円)程度と安いので驚いたと言います。
 ワサビに限らず、「外国にある日本風の味」ではなく、「本物の味」を顧客に味わってもらうのがデニズさんの夢。日本企業にも、ぜひヨーロッパへ向けて市場を広げてもらいたいと話していました。

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