みなさんは「富裕層」と聞いて、どのような方が思い浮かぶでしょうか。近年、「当社の製品を海外の富裕層に売りたい!」という中小企業の方々からのご相談が増えてきています。このレポートでは、中小企業の方々が富裕層に向けた海外展開を計画するうえで、そのターゲット像の具体化に資するべく、富裕層と呼ばれる方々のお気に入りのものやライフスタイル、お勧めのショップなどをインタビュー調査し、まとめたものです。みなさんの商品開発やマーケティングのお役に立てれば幸いです。
なお、このレポートは2018年に執筆されたものであり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

プロフィール

氏名:ピーター・コンラッド(Peter Conrad)
年齢:50歳
職業:金融コンサルタント
家族構成:独身
自宅エリア:サメーダン
職場エリア:ルガーノ、ミラノなど。
住居の間取り:賃貸マンション、2LDK
車所有台数:2台、ボルボ(Volvo)とメルセデス(Mercedes)
使用する言語:イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語、日本語

長年に渡り、世界の UBS で活躍

出身は、スイスドイツ語圏のゾロトゥン州です。ミラノの経済大学を卒業後、UBSに勤務。長らく、海外を渡り歩いてきました。ミラノ(2003~05年)ではマネージング・ディレクター、香港(2006~08年)ではアジア太平洋のセールス部門トップ。モナコ(2008~11年)では、支店のCEOを務めました。
その後、UBSのウェルス・マネジメントの中でも、金融資産50億円以上の超富裕層の顧客を担当するUHNW(Ultra High Net Worth)部門の責任者として、東京にやってきました。代官山を拠点に、5年間滞在。そこで日本と恋に落ちたんです。多くの友人に恵まれ、かけがえのない時間を過ごしました。今でも、日本を思い出さない日はないくらいですよ。

欧州の富裕層へ、資産管理をアドバイス

2015年に、スイスへ帰国。子どものころに家族の別荘があったサメーダンにちょうどいい部屋が見つかったので、ここに落ち着くことにしたんです。山に囲まれた自然豊かな場所で、趣味であるスキーや山登り、マウンテンバイクなどの野外スポーツを楽しんでいます。
現在は、「ウェルスメットリスク(WealthmetRisk SA)」と「ツヴァイ・ウェルス・エキスパーツ・イタリア(ZWEI Wealth Experts Italia)」の両企業のCEOとして、スイスイタリア語圏のルガーノや、イタリアのミラノを中心に活動しています。金融コンサルタントとして働く中で得たプライベートバンキングの知識を存分に生かしながら、ヨーロッパの富裕層ファミリーに総合的なフィナンシャルアドバイスを行っています。

生活スタイル

週の半分はホテル暮らし、半分は自宅

私のライフスタイルのテーマは、「フレキシビリティ」。常に動いているのがモットーです。持ち物もできるだけ少なく。スーツケース1個に収めるくらいの量が理想的ですね。
週の前半(月~水曜日)は、ミラノやチューリッヒ、ルガーノ間を車で移動し、ホテルに滞在しています。週の後半(木~日曜日)は、サメ-ダンの自宅が拠点。移動の多い生活ですので、自宅の掃除や洗濯はハウスキーパーに頼んでいます。
スイスでは、残業はほとんどありません。夕方からは皆、プライベートの時間をしっかり確保します。それでも、多くの人が成功しているわけですから、スイス人のワークライフバランスは優れていると感じます。

ヘルシーライフにこだわり、運動は欠かさず

趣味は、ヘルシーであること。健康オタクといえるかな(笑)。父親の影響もあるかもしれませんね。運動はどの年代の人にとっても大事ですが、特に40代からはマストだと思います。年齢を重ねても仕事を続けていくためには、フィジカル面での充実が不可欠。「人生において健康ほど大事なものはない」というのが私の持論です。
そのため、スポーツと食事、睡眠にはこだわっています。自宅にいるときはジョギングを欠かさず、ジムにも行きます。水泳やマウンテンバイク、山登りもしますよ。ホテルにいるときでも、何かしら運動をするように心がけています。

野菜中心の食事、睡眠もしっかり確保

食事面では、炭水化物を減らし、野菜を多く摂るようにしています。イタリアンを作るのは好きですが、パスタの量は減らしています。外食でも、ファストフードのチェーン店にはまず行かないですね。
1日の献立のイメージとしては、朝は、フレッシュジュースやスムージーと野菜。昼は軽めに、サラダやサンドイッチ。パンは、ダークブレッドを選びます。夜は、魚や肉といったプロテインを多く含む食材と野菜、といった感じです。もちろん、いつもストイックなわけではなく、ワインと共においしい食事を楽しむこともありますよ。ただ、時には制限も必要だということです。
睡眠時間は、常に6~7.5時間をキープしています。日本では睡眠時間を削って働く人も多いですが、睡眠を甘く見てはいけません。1日の気分や活力に大きく影響するからです。

週末は自宅でゆっくり、交友関係は幅広く

週末は、サメ-ダンの自宅にいることが多いですね。このあたりは皆がホリデーに来るような場所ですから、改めてどこかに出かけようとはあまり思わないんです。スポーツやウェルネス、スパなどが主な過ごし方。もし出かけるとしたら、ロンドンなど、ここと正反対の都会を選ぶでしょうね。
交友関係は、金融の仕事関係で得た同世代のつながりや、中学校時代の友人などで、インターナショナルです。若者との交流も大事にしています。最近の人が考えていることは、私には想像もつかないことが多く、宇宙人みたいだと感じることも(笑)。でも、いい刺激になっていますよ。

住居の印象

富裕層の多いエリアで、絶景ポイントに住む

サメ-ダンは、世界的に有名な観光地サンモリッツの近くにあり、富裕層も多いエリアです。イタリアやドイツ、フランスやロシアの富豪が、プライベートジェットでやってくる飛行場(エンガディン空港)もあります。
自宅マンションは、川に面し、対岸に美しい山並みが広がる絶好のロケーションにあります。リビングは全面ガラス張りで、自然のパノラマを堪能できます。脇の小さいスペースには、ベッドも設置。ここで朝目覚めたときに、目に入ってくる景色が最高なんです。そのほかには、ダイニングとキッチン、ベッドルーム、バスルームがあります。

思い出の品々を飾った、温かみのあるインテリア

ダイニングの壁には、雪がちらつく冬の皇居のモノクロ写真を飾っています。東京に滞在していたときに、自分のデジタルカメラ(Canon EOS 6D)で撮りました。なかなか趣があるでしょう?これを見ていると、日本が懐かしくなりますね。
テーブルの上には、様々な球を吊るしたモビールを。クリスマス関係のものが多いですが、実は通年で飾っているんです。友人の子どもが手作りした魚クラフトも一緒にね。自然素材のデコレーションが好きで、テラスや部屋のあちこちに置いたり。玄関の脇には、ヴェネツィアのゴンドラで使われていたアンティークの椅子もありますよ。

持ち物を拝見

物質よりも、精神性に惹かれる

自宅にある日本製品としては、ソニーのテレビがありますね。あとは、ターコイズブルーのグラデーションが美しい陶器や、桜模様が散りばめられた「富士山グラス」と呼ばれるロックグラスも。こちらは、日本の友人からの贈り物です。キッチンには、日本の蕎麦もありますよ。
日本のファンではありますが、物質的なものをそれほどたくさんコレクションしているわけではないんです。むしろ、日本の精神的な面や文化など、「目に見えないもの」に惹かれています。

買い物について

色々なお店を覗くのが好き

自宅にあるダイニングテーブルや敷物、インテリア系の小物は地元サメ-ダンの店で購入しましたが、いつも同じ店ばかりに行くわけではなく、移動先で新しい店を覗くのも好きです。洋服は、安くて良いものが揃うミラノで買うことが多いかな。家具はスイス国内で調達しています。
最近はインターネットで調べて価格などを比較することも増えましたが、やはり店舗に行って買う方がいいですね。オンラインショッピングは、積極的にはしていません。

高価かどうかよりも、テイストが大事

これまでの人生で一番高い買い物は、チューリッヒで買ったロレックスの時計ですね。若いときにはポルシェなど高価なものを手に入れたりもしましたが、いまは特に値段にこだわらず、「気に入ったら買う」というスタンスです。
高いからといって、必ずしもセンスが良いとは限らないというのがその理由です。日本のユニクロのように、安くても優れた製品もありますし。スウェーデンのイケアもリーズナブルなブランドですが、テイストが良ければOKです。

プレゼントには、珍しい品を

友人へのプレゼントは、その人が今まで見たことのないようなものや、スイスでは手に入らないものを選ぶようにしています。
例えば、イタリアでは、昔ながらのチョコレートショップで、様々な味のプラリネを包んでもらったり。同じくイタリア製品では、100年の歴史がある店のネクタイを日本の友人へ贈ったこともありますし、カプリ島特産のレモンを使った芳香剤(約3,000円)を購入したこともあります。
南アフリカ旅行では、「アンバー・ジン(Amber Gin)」という現地でしか買えないお酒をバーで味見して、お土産にしたりもしました。友人に渡すときに由来を説明できるように、ストーリー性のあるものを選びたいと思っています。ただ、20年前と比べると、世界中で同じものが手に入りやすくなっていて、珍しいものを探すのは難しくなってきていますね。

クリスマスには、本を贈ることも

クリスマスには、家族や友人とプレゼントを交換しています。友人には、大体1万円以内で品物を探すことが多いでしょうか。一昨年(2017年)のクリスマスには、英国製の古いガイドブック(約4,000円)を10人くらいの友人たちに配りました。約100年前の旅行ガイドを復刻して新しく印刷したもので、場所や広告などの情報は当時のままなんです。面白いでしょう?テレビで見たのをきっかけに、インターネットで探して見つけました。販売者がスイス国外でしたので、オンラインで購入して、自宅に配送してもらいました。

情報集め

世界の4大メディアのニュースをチェック

毎朝コーヒーを飲みながら、世界各地のニュースサイトをチェックしています。1日で合計3時間くらい費やしているかもしれません。まずはアメリカのCNN、それからイギリスのBBC、スイスのSRFと続きます。日本のNHKも見ますよ。1つに限らず色々見て、各媒体の伝え方を比較するんです。
以前はインテリア雑誌など、紙媒体のものも見ていましたが、最近はオンラインでのチェックがメインになりました。情報の量も膨大ですし、より新しいものが載っていますから。新聞も買わなくなりましたね。テレビは、ドキュメンタリー番組を中心に見ています。

SNSはインスタ、リンクトインを利用

SNSの利用は、以前より減ってきています。私はフェイスブックより、インスタグラム派。ツイッターは読む専門です。ビジネスでは、リンクトインを活用しています。
SNSの広まりと共に、世間には色々な意見があふれるようになりましたが、中にはそれほど重要ではない情報もあるのではないか…と感じたりすることもあります。私自身はちょっと日本人的で、自分の意見はあまり主張したくないタイプ。リンクトインにはそうした猥雑さがなく、「大人のフェイスブック」「プロフェッショナル用」というポジティブなイメージを持っています。

日本文化に対して

「わびさび」や「気配り」の文化に感動

日本にいたときは、軽井沢や箱根、長野、名古屋、関西地方や福岡にもよく行きました。買い物では「とらや」の和菓子や、モダンなデザインの家具がお気に入り。特に和菓子の包装は、風呂敷包みなど、季節に合わせて変える細やかな気配りに、いつも感動していました。
日本文化で好きなのは、「わびさび」「気配り」「建て前」です。自分が大事で、すべてを論理で打破しようとする、ダイレクトなヨーロッパ文化にはないもの。日本の金継ぎの技法に代表されるように、壊れたものを美しく修復して「不完全の美」を感じる心も素晴らしいと思います。
スイス人とは、真面目さや謙虚さ、静かなところが似ているでしょうか。時間に正確であることも同じかな。国民性が似ているからか、スイス製の商品もクオリティが高く、世界中の人たちから信頼されているものが多いですね。

ラジオで日本を語り、日本映画も視聴

日本に滞在した経験を生かし、スイスのラジオ局で月1回、日本事情について話しています。最近扱ったテーマは、「天皇」や「アンドロイド」など。日本の文化や精神性を説明できるようなトピックを取り上げることが多いですね。
例えば、アンドロイドの回では、「本音と建て前」を紹介しました。日本がロボット先進国である理由として、直接的ではないコミュニケーションをとることの多い国民性も関係しているのではないかと。こうした私なりの分析も入れながら、お話ししています。
日本語のブラッシュアップのために、映画もよく見ています。お気に入りの映画監督は黒澤明ですが、最近の日本映画もチェックしていますよ。先日は、itunesでダウンロードした「箱入り息子の恋(2013)」を見ました。この話も、日本ならではの恋愛事情がテーマになっていますね。

「メイド・イン・ジャパン」は、欧州では信頼の証

ヨーロッパにおける日本のイメージは良く、「メイド・イン・ジャパン」であることは「信頼の証」であるともいえるでしょう。また、こちらの人々は「ハイクオリティ」という言葉に弱い。「高品質」「ビオ(有機)」「ハンドメイド」など、そうしたものに市場(マーケット)があります。
建築や家具、ファッションなどに現れる日本のデザインや酒など、「メイド・イン・ジャパン」印で売れるものはたくさんあるはずです。スイスでも既に、日本酒やウィスキーが注目されています。日本食レストランも以前から流行っていましたが、最近では寿司よりも懐石の人気が高まっています。

成功者、富裕層の定義

成功者には才能と根気、富裕層は多種多様

成功者には、他の人が気づいていない事を思いつく才能と、あきらめない粘り強さがあると思います。富裕層には色々な人々がいるので、一概には言えませんが…。ただ、プライベートバンキングの仕事をしていて感じるのは、ある程度の金額を超えると、お金は現実から離れて、抽象的な存在になるということ。100億円を超えるような額は、想像することすら難しいですよね。
そうすると、人は金額ではなく、将来的に意味のあるプロジェクトや社会貢献にフォーカスするようになります。例えばビル・ゲイツがそう。新興富裕層である中国やロシアの人々が、キラキラしたものに目を奪われがちであるのと比べると、富裕層によっても違いがあることが分かるのではないでしょうか。

ピーター氏の御用達~レストラン&チョコレートショップ・ジャノッティズ(Gianottis)

店名:ジャノッティズ(Gianottis)
業種:小売業(製菓)、飲食業(カフェ・ワインバー・グリル)
所在地:Via Maistra 140, CH-7504, Pontresina
電話番号:+41 (0)81 842 7090
営業時間:菓子店:月~金7:30~12:00、14:00~18:30、土日7:30~12:00、14:00~17:00、レストラン:月~日9:00~1:00
定休日:月、火曜日(※4、6、11月のみ)
ウェブサイト:https://www.gianottis.ch(ドイツ語)
取材対応者:オーナー、ロマン・クリング(Roman Kling)氏
商品名(値札)等の言語:ドイツ語

インプレッション(印象)

スイスの山岳リゾートにある、高級チョコレートショップ

スイスを代表する観光列車「ベルニナ急行(Bernina Express)」が通る、ポントレジーナ(標高1,805m)。近隣のサンモリッツと比べると世界的な知名度はそれほど高くはありませんが、地元スイスでは、山岳リゾートとして根強い人気を誇っています。この村で、菓子店とレストランを長年営んでいるのが、「ジャノッティズ」です。
お昼どきには、山小屋風でありながらモダンなレストラン「ヴィルデライ(Wilderei)」で、様々なグループ客が、サラダやキッシュ、チーズやミートプレートなどを楽しむ姿が見られます。一方、菓子店の内装はダークでシック。ガラス玉のように色鮮やかに並ぶプラリネや、この地方の名産品であるナッツタルトを始め、チョコレートでできたハイヒールなども陳列。そのどれもが輝きを放っており、クオリティの高い店であることが伺えます。

お店の概要

創業125年以上、家族経営の菓子店

「ジャノッティズ」は、125年以上に渡り、地元の菓子職人ファミリーが代々引き継いできた店。創業は、なんと1880年まで遡ります。スイス人菓子職人のジュールス・カロンダー(Jules Calonder)氏が、海外修行後に母国に戻り、ポントレジーナで「ア・マ・カンパーニュ(A ma Campagne)」という菓子店を開いたのが始まりです。1917年には、クラウディオ・ジャノッティ(Claudio Gianotti)氏が婿養子に入ります。彼の息子が菓子職人となり、1955年、現在地に「コンディトライ・ジャノッティズ(Konditorei Gianottis)」をオープン。その後ティールームを併設するなどして事業を拡大し、2006年からは5代目のクリング兄弟が経営を担っています。

欧州各地から集められた、秘伝のレシピ本

創業者であるカロンダー氏は、「エンガディン地方の菓子職人(Engadiner Zuckerbäcker)」の1人。ポントレジーナのあるエンガディン地方では、15世紀から19世紀ごろまで、生活の困窮により多くの職人が国外へ脱出。スイス人菓子職人は、ヨーロッパ各地へ散らばっていったといわれています。
カロンダー氏は、フランス、ベルギー、オーストリアで様々なレシピを収集。今でも店には、当時の彼の直筆ノートが大切に保管されています。こうした伝統のレシピを元に、ジャノッティズの菓子は作られてきました。

質の高い原材料を用いた、ハンドメイドの菓子

現在は、創業者の血をひく5代目のマルコ・クリング(Marco Kling)さんが菓子作りを担当。店の工房で、プラリネチョコレートやタルトを手作業で丁寧に作り上げています。
また、世界の産地から選び抜いた最高品質のカカオ豆だけを使用するなど、原材料のクオリティにもこだわっています。伝統のレシピを尊重しつつ、エキゾチックな素材とチョコレートを合わせるなど、新たな味のクリエーションにも積極的に取り組んでいます。

レストランも、国内外で高い評価

一方ロマン・クリングさんは、店舗経営を担当。レストランの「ヴィルデライ」という名前が狩猟関係の言葉であるように、実は彼自身もハンター。彼が仕留めた鹿肉などのジビエが、レストランで提供されることもあるのだとか。日々フレンドリーに接客する姿は地元でも人気で、彼の人柄に惹かれてこの店を訪れる常連も多いようです。
地元産の食材にこだわり、季節感を味わえる繊細な料理は、フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ(Gault&Millau)」(2018年版)で満点20点のうち13点を獲得し、美食家もうならせるほど。もはや「菓子店のおまけ」という位置づけではないレベルにまで達しています。

品揃え

ピリリとエッジをきかせた、板チョコ各種

別名「ピッツ・スース(Piz Süss、甘い山)」と呼ばれる菓子店の価格帯は、スイスの高級菓子店と同レベル。ちょっと贅沢したいとき、または大切な人への贈り物としてふさわしい高級スイーツです。

看板商品は、チョコレート各種。この店では、「グラン・クリュ(Grand Cru)」と呼ばれる最高品質のカカオ豆のみを使用。産地はベネズエラやアフリカ、マダガスカルやパプアニューギニアまで、多岐にわたります。
板チョコには、クランベリーや胡椒など、様々な味わいをプラス。中には、ハバネロチリを合わせたタンザニア産チョコレートも。こうした大人向けのテイスト以外にも、スイスではよく見かける「キンダーキャビア(Chinderkaviar、カラフルなシュガーミンツをトッピングしたチョコ)」もあり、子どものお土産にもぴったりです。

プラリネは約20種類、ウィスキー入りも

ガラスケースに整然と並んでいるプラリネチョコのフレーバーは、柚子やピスタチオ、ブルーベリーなど約20種類。好きなものを選んで詰めることができますが、バリエーションが豊富で、思わず目移りしてしまいそう。常に同じものがあるわけではなく、時折新商品も加わるといいます。また、お酒入りのチョコレートもあり、中にはシングルモルトウィスキーを詰めたものも。ワインバーも併設しているため、ワインとチョコレートのマリアージュについてもアドバイスが可能。ちょっと優雅な楽しみ方ができそうですね。

世界で話題のルビーチョコも、自社製造

また、この店では、世界でもまだ珍しい「ルビーチョコ」のクーベルチュールを扱っています。そうした菓子店は、スイスでも数少ないのだとか。
2018年に世界で初めて商品化されたこのピンク色のチョコレートは、スイスのチョコレートメーカー「バリー・カレボー(Barry Callebaut)」が開発したもの。フルーツを加味していないのに感じる甘酸っぱさが特徴的で、話題になっています。「ジャノッティズ」ではもちろん、店の工房で手作りした商品を購入することができます。

売れ筋商品は、この地方名産のナッツタルト

エンガディン地方の代表的な名産品として知られる、キャラメルとクルミを生地で包んだタルト「エンガディナー・ヌストルテ(Engadiner Nusstorte)」(250g、17フラン、約1,800円)も、キャラメルから手作り。
そのクリーミーで濃厚な味わいは、一般のスーパー「ミグロ(Migros)」で売られている品(500g、7フラン、約800円)とは比べ物にならないほど。常温保存でよく持つため、お土産に最適な商品としてよく購入されています。

知られざるスイスの名菓、「洋梨のパン」

もう1つの売れ筋商品は、グラウビュンデン州の名産品「ビルンブロート(Birnbrot)」。洋梨とイチジクを乾燥させたものを、ナッツと合わせて餡子のように生地で包んだパンです。日本ではあまり知られていませんが、スイスでは人気のある伝統菓子の1つであり、シャープな味のチーズと一緒に食べるとよく合うのだそう。
こちらも、家族代々受け継がれてきたレシピで作られており、ずっしりとした味わい。どちらの菓子も、本場ならではのおいしさです。

他の歴史ある高級菓子店とも提携

2017年には、近隣の村の有名ベーカリーや菓子店とも販売協力協定を結び、互いの商品を置くようになりました。
120年以上の歴史を誇るポントレジーナのベーカリー「コッヘンデルファー(Kochendörfer)」からは、パン各種やナッツタルトなど。また、創業1892年のサンモリッツの菓子店「ホイザー(Hauser)」からは、ケーキやクロワッサンなどが提供されています。
他にも、チューリッヒの老舗食材店「シュヴァルツェンバッハ(Schwarzenbach)」からセレクトした、オレンジピールや生姜のチョコレートがけも販売しています。

顧客

おもな客層は、スイスの個人客

観光地ではあるものの、近隣にあるサンモリッツとは異なり、外国人よりもスイス人の顧客が多いといいます。団体客が押し寄せることもなく、個人で訪れる客が多いため、店の雰囲気はゆったりと落ち着いています。「混みすぎないので、個々のお客様に合わせた接客ができるのがいいところ」とロマンさん。
以前はイギリスやドイツからの客も多かったそうですが、現在は政治や通貨などの影響もあり、変わってきているのだとか。国境が近いイタリアからは、一年を通じて多くの客が訪れます。日本人やアジアからの観光客も、それほど多くはないですがやってくるといいます。

クオリティの高さで、リピーター続出

毎年夏と冬にポントレジーナで1~2週間ほど過ごし、その度に寄ってくれる顧客もいます。スイスでは、別荘があるという理由などから、毎年同じ場所で休暇を過ごす人々も多いのです。
地元の常連の1人が、近隣のサメ-ダンに住む金融コンサルタント、ピーター・コンラッド氏。店の長い歴史や、クオリティの高いチョコレート、そして「おもてなし精神」にあふれたオーナーに魅せられているそうです。レストランの方にもよく足を運ぶそうで、おすすめは「グリルで焼いた肉」なのだとか。ディナーで支払う平均価格は、1人あたり1万円くらいだそうです。

宣伝方法

ウェブサイトやSNSを活用、口コミがメイン

自ら広告は出していませんが、口コミで客が訪れるといいます。ウェブサイトでは、店の歴史や菓子商品を紹介しており、レストランのメニューとワインリストも公開されています。
SNSも利用しており、フェイスブックでは新商品やイベントの告知を行うことも。インスタグラムでは、目にも美しいチョコレート商品の写真の数々が投稿されています。トリップアドバイザーでも220を超えるレビューが寄せられ、星5つの内4.5と高評価を受けています。

スイスのテレビや出版社から取材も

そのクオリティの高さから、スイス公共放送SRFを始め、数々の取材を受けてきた「ジャノッティズ」。
書籍では、2016年にエンガディン地方のこだわりの店を特集した本(「Leben,Wohnen & Geniessen: Engadin und Umgebung」)に紹介されたり、2017年版「グラウビュンデンでお出かけ!(Graubünden geht aus!)」というガイドブックにおすすめのレストランとして取り上げられたりしています。

日本産の品物

現在は、柚子を使ったプラリネのみ

日本関係の品物は、「柚子を使ったプラリネ」が挙げられます。ロマンさんによれば、「どの世代のお客様にも喜ばれていますが、特に女性に人気が高い」とのこと。
同じプラリネは、レストランのデザートとしても活用されています。チョコスフレとヘーゼルナッツアイスの横に、柚子のプラリネを載せたデザートは、一皿15フラン(約1,600円)。柚子の黄色が、華を添えています。

日本文化や特記すべき自国・外国文化へのコメント

チョコレートと合うような日本食材を歓迎

小さい山村にあり、日本人客も少ないことから、特に日本企業からの売り込みもなかったと話すロマンさん。彼によれば、最近流行りのスーパーフードであるゴジベリー(クコの実)など酸っぱいものでも、チョコと合わせると風味が変わるため、日本産のドライフルーツや桜などの花にも興味があり、その場合は「砂糖漬けにするなど、長持ちする工夫をしたほうがよいですね」とのことでした。

ピーター氏の御用達~レストラン&バー・デビルズ・プレイス(Devil’s Place)

店名:デビルズ・プレイス(Devil’s Place)
業種:外食業(バー)
所在地:Via Dim Lej 6, CH-7500, St.Moritz
電話番号:+41 (0)81 836 6000
営業時間:毎日0:30まで
定休日:なし
ウェブサイト:http://www.waldhaus-am-see.ch/en-us/Whisky-Wine/Whisky-Bar(英語、ドイツ語)
取材対応者:バーテンダー、ジャンニ・アンメ(Gianni Amme)さん
商品名(値札)等の言語:ドイツ語、英語

インプレッション(印象)

サンモリッツ湖の絶景が楽しめる、高級ホテル内のバー

スイスのみならず、世界的に有名な保養地サンモリッツ。冬に凍結するサンモリッツ湖を舞台に繰り広げられる「ホワイトターフ(雪上競馬大会)」は、110年以上の歴史があるイベントで、世界各地の富裕層が観戦に訪れます。そんな湖を眼下に眺める高台に、3つ星ホテル「ヴァルトハウス・アム・ゼー(Waldhaus am See)」が建っています。
ホテルのレセプションを通り過ぎると、レストランの手前にバーがあります。ウイスキーに関しては別に部屋が設けられており、ガラスケースの中には、世界各地から集められたボトルが並んでいます。スコットランド産のシングルモルトウイスキーを始め、スウェーデンや台湾といった珍しい国のものもあり、まるで博物館のよう。軽井沢ウイスキーなどの日本産のボトルが入口付近にディスプレイされています。

お店の概要

前ホテルオーナーは、こだわりのコレクター

このウイスキーバーの創業は、1994年。前ホテルオーナーのクラウディオ・ベルナスコーニ(Claudio Bernasconi)氏が、個人的に集めたウイスキーコレクションを元にオープンしました。「デビルズ・プレイス」という名前は、中世において、ウイスキーが「悪魔の飲み物(devil’s drink)」と呼ばれていたことに由来。
クラウディオさんは、ウイスキー以外にも、ワインやLPも収集するコレクター。ワインはホテルで提供しているリストにあるだけでも1,300本以上。地下のワインセラーには、なんと2万5千本ものワインが眠っているのだとか。そのコレクションのクオリティの高さは、たびたび表彰されているほどです。

インドでウイスキーに目覚め、収集を開始

クラウディオさんは、ホテル学校を卒業した後、世界旅行に出発。旅の途上のインドにて、衛生上の観点から「歯磨きの際は、水ではなくウイスキーで口をすすぐと良い」と教わったのだそう。そのうちに、ウイスキー自体の味わいに目覚めていったのだといいます。
ホテル「ヴァルトハウス・アム・ゼー」を開業した後も、顧客を通じて、個人的にウイスキーを集めていました。あるとき、8,000本以上のウイスキーを所有するというイタリア在住の収集家の話を耳にし、「自分は世界一のコレクターにはなれないかもしれないが、世界一の規模のウイスキーバーなら実現できるかもしれない」と思ったのだそうです。

ギネス記録を持つ、世界一のウイスキーバーに

そして1994年、クラウディオさん自身が所有する500本のボトルをもとに、念願のウイスキーバーをオープン。現在の本数は、なんと2,500本。世界で最も多くのウイスキーコレクションを持つバーとして、ギネスブックにも掲載。様々な国から、ウイスキー愛好家が訪れるメッカとなっています。
現在は、オンラインショップでもウイスキーを販売するほか、レストランやバーテンダー向けのトレーニングも行うなど、事業の幅も広がっています。

品揃え

売れ筋はスコッチ、日本産やスイス産も人気

バーでは、スコットランドのシングルモルトウイスキーを中心に、ブレンデッドウイスキー、アイルランドのウイスキーやバーボンなど、世界中から集めたボトルが用意されています。また、特に貴重なものに関しては、別の場所に保管してあり、客の要望に応じて提供します。
売れ筋は、やはりスコッチ。アイルランドや日本のものも、とても人気があります。また、海外からやってくる客の中には、「スイス産のウイスキーを試してみたい」という人も多いそう。

ホテルの客向けに、価格帯は幅広く

1グラス(2センチリットル)の価格帯は、リーズナブルなものだと5.50フラン(約600円)から、高いものだと660フラン(約7万2千円)ほど。ウイスキー初心者から、こだわりのファンまで、どちらにも対応できる幅広い価格設定となっています。
試飲コースとしては、ウイスキー4種45フラン(約5,000円)、5種65フラン(約7,000円)、6種90フラン(約1万円)が用意されています。また、「世界のウイスキー」と題して、アメリカ、スコットランド、アイルランド、日本の4カ国のウイスキーを楽しめるコース(50フラン、約5,500円)や、スイス産ウイスキー3種のコース(35フラン、約3,800円)もあります。

日本のウイスキーは、現在ブーム

日本のウイスキーリストは、現在33本。ジャンニさんによれば、「いま流行っている」のだそう。「サントリーの『山崎18年』が国際的な品評会で受賞した後、こちらでも、日本産ウイスキーの人気が高まりました。以前はそれほどストックがなかったのですが、今は真剣に集めていますよ」とのこと。
その人気ぶりを反映してか、日本のウイスキーの価格は高騰。中には、スコッチより高いものもあります。
例えば、軽井沢シングルモルトウイスキー(1984年製造)の1グラスの価格は、なんと350フラン(約4万円)。1本の価値は、100万円を超えるとか。また、シングルカスク宮城峡(1989年製造、シェリー樽)も、1グラスで220フラン(約2万4千円)と高価であるにも関わらず、よく飲まれているといいます。

クオリティの高い、限定ボトルを求めて

買い付けの流れとしては、まず時間をかけて、インターネットでリサーチすることから始まります。オンラインで購入することもありますが、スコットランドなどの産地を実際に訪れたり、展示会に足を運んだりと、新商品のチェックも怠りません。
また、コレクターとのつながりも大事にしています。日本産ウイスキーに関しては、ジャンニさんの友人が膨大なコレクションを持っていることから、彼を通じて手に入れることもあるそうです。
選定基準としては、「まずオリジナルであること、それからエイジステートメント(年数表記)があること。カスクストレングス(樽から加水せずに瓶詰めされたもの)であれば、さらにいいですね。1,000本以下の限定ものであれば、パーフェクトです」。

顧客

ビギナーから専門家まで、幅広い客層

ホテル併設のバーということもあり、様々な顧客が訪れます。「カウボーイハットをかぶったアメリカ人や、へビーメタル愛好家が来るかと思えば、『ウイスキーを飲むのは初めて』というファミリーもやってくる」。夕食後の時間帯が、一番混み合います。
日本人の年配の男性グループ客が訪れた際、「彼らが軽井沢ウイスキーを初めて見たときの、目の輝きが忘れられません。とても楽しい時間を過ごしました」とジャンニさん。
地元の常連も多くおり、近隣のサメ-ダンに住む金融コンサルタントのピーター・コンラッド氏も、その1人。ホテルのレストランで食事をする際に、このウイスキーバーに立ち寄ることもあるといいます。世界一のコレクションであるということと、ジャンニさんを始めとするホテル関係者のプロフェッショナルな姿勢に感銘を受けているそうです。

アジアの新興富裕層もやってくる

現在は、新興富裕層である中国人やインド人の観光客も多く訪れる同店。2017年には、アジア圏からやってきた、ある若い富裕層の男性の行動が、世界の注目を集めました。
彼は、このバーで1878年製造の未開封のマッカランをオーダー。2センチリットルに、なんと9,999フラン(約110万円)を支払ったのです。しかしその後、ボトルのラベルが偽物であったことが判明したため、オーナーが彼の出身国を訪問し、全額を返金したという後日談も報道されました。
現在でもこのバーでは、戒めのために、このボトルと新聞記事がディスプレイされています。

宣伝方法

口コミ、オンラインショップでも販売

広告は出しておらず、宣伝のメインは口コミ。ホテルのウェブサイト(ドイツ語、英語)内にウイスキーバーのページがあり、概要を紹介しています。
また、オンラインショップ「ワールド・オブ・ウイスキー(World of Whisky)」では、世界中から選りすぐったウイスキーボトルを販売中。フェイスブックのアカウントもあります。
「あとは、ホテル内で発行している情報誌くらいでしょうか。ウイスキー愛好家の輪は狭いので、お互いによく知っていますよ」(ジャンニさん)

日本産の品物

バーでは33本、1グラス650円~4万円

前述したように、日本のウイスキーは33本用意しています。その半数以上が、宮城峡や余市など、ニッカウヰスキー関連ですが、サントリーの山崎や白州もあります。
また、江井ヶ嶋酒造のシングルモルトウイスキー「あかし」、秩父のベンチャーウイスキーによる「イチローズモルト」、中国醸造の「戸河内」など、大手ブランド以外の品物もラインナップに含まれています。
最も安いのは、ニッカのブレンデッドウイスキーで、1グラス6フラン(約650円)。次に安価なのは、同社のオールモルトウィスキーで6.50フラン(約700円)。最も高いのは、前述の軽井沢シングルモルトウイスキーで1グラス約4万円となっており、プレミア価格です。

オンラインでは21本、貴重な軽井沢能シリーズも

オンラインショップでも、日本のウイスキー21本を販売中。銘柄は、山崎、ニッカ、軽井沢、戸河内、倉吉、ホワイトオークなどです。
価格帯は最も安いもので1本43フラン(約4,700円、ニッカオールモルト)、最も高いものでなんと1本8,555フラン(約94万円、軽井沢能1976年製造)。こちらは、世界のコレクター垂涎の品物といえるでしょう。

日本文化や特記すべき自国・外国文化へのコメント

日本とスイスは、仕事に対する真剣さが同じ

これまでに、日本企業から直接の売り込みはなかったと語るジャンニさん。しかし、ウイスキーを通して、日本についてはポジティブなイメージを持っているようです。
「日本人はとても真面目で、勤勉というイメージがあります。どんなときでも、仕事を完璧に仕上げようとする。ウイスキーからも、仕事に対する情熱を感じます」(ジャンニさん)。
そうした面はスイス人の国民性とも共通しており、ほかにも「尊敬を持って人と接する」「伝統を重んじる」といった点が似ているのではないか、と話していました。

1970~80年代のシングルカスクに興味あり

ジャンニさんは、2021年に日本の蒸留所などを訪問する予定で、1970~80年代のヴィンテージ、シングルカスクのウイスキーを探すのが、主な目的です。
日本産ウイスキーは品薄で、入手困難なことが多い。「特にこの年代のウイスキーは素晴らしい味わいであり、値段も高騰しているので、どうしても手に入れたい」と意気込んでいます。
日本のウイスキー醸造所に対しては、「エイジステートメントのあるシングルモルトウイスキーを、もっと生産してもらいたい。シングルカスクも、もっとスイスで紹介していきたいですね。いつも素晴らしい仕事をありがとうございます」とメッセージを送っていました。

ピーター氏の御用達~メガネショップ・ジェーディーケー・オプティック(JDK Optic)

店名:ジェーディーケー・オプティック(JDK Optic)
業種:小売業(眼鏡販売)
所在地:Via Maistra 14, CH-7500, St.Moritz
電話番号:+41 (0)81 833 1747
営業時間:月~金9:30~12:30、14:30~18:30、土9:30~12:30、13:30~17:30 ※季節により変動
定休日:日曜日
ウェブサイト:http://jdk-optic.ch/(ドイツ語)
取材対応者:オーナー、ジャン・ダニエル・カマ-マン(Jean Daniel Kammermann)さん
商品名(値札)等の言語:ドイツ語

インプレッション(印象)

世界的な高級リゾートにある、おしゃれな眼鏡店

世界中のセレブリティがこぞって冬の休暇を過ごしにやってくる、スイスの山岳リゾート地サンモリッツ。町の目抜き通りであるセルラス通りには、グッチやブルガリなどの高級ブティックが並んでいます。そんなショッピングのメッカにほど近い場所にあるのが、「JDKオプティック」です。
店は、半円のアーチが続く建物の1階に入っており、壁の装飾はいかにもヨーロッパ的。店頭に飾ってある水色のベスパ(Vespa)のスクーターは、オーナーであるジャンさんの趣味なのだそう。
店内は白を基調としており、明るく清潔。「レイバン(Ray-Ban)」など有名ブランドのサングラスや眼鏡が、整然と並べられています。スペースはそれほど広くはありませんが、こだわりの品が並べられている「町の眼鏡屋さん」という印象です。

お店の概要

知識・経験が豊富な、スイス人眼鏡マイスター

創業は2004年、オーナーであるジャンさんが開業した眼鏡店です。彼は、ベルン州出身のオプティカーマイスター(Optikermeister)。インターラーケンでアウゲンオプティカー(Augenoptiker、国家公認眼鏡士)の資格を取得し、ベルンやツェルマットなど、国内や海外の眼鏡店で勤務。さらに、眼鏡の分野では評判の高い隣国ドイツ・カールスルーエのマイスター学校(Meisterschule)に進み、研鑽を積んできました。
その後、オプティカーマイスターとして、スイスイタリア語圏ロカルノの眼科に勤務。レーザー治療など、医療的な分野においても、知識を深めました。

サンモリッツで15年、オーナー自らが接客

スイスの山岳リゾートで自分の店を出したいと思い、ツェルマットやサース・フェーなど様々な土地を探していたところ、運よくサンモリッツで発見。以来15年間、この土地で「ブレることなく」、世界中からやってくる顧客のニーズに合う眼鏡を、オーダーメイドで作り続けてきました。
店は、サンモリッツにあるこの1店舗のみ。繁忙期には臨時で従業員を雇うこともありますが、基本的にはジャンさんが1人で接客しています。
多言語を操るスイス人らしく、英語、ドイツ語、イタリア語で応対が可能。希望すれば、日時を指定して予約の上、じっくりと相談を受けることもできます。

検眼から眼鏡の製作、アフターサービスまで一貫

この店の特色は、何といってもオーナーのジャンさんが、はじめの相談から視力検査、眼鏡の製作、その後の修理まで、一貫して行う点にあります。
日本に限らずスイスにおいても、眼鏡屋でのトラブルはあります。特に混雑するチェーン店では、相談や検査を行う時間が十分に取れず、結果として眼鏡がぴったり合わなかったりすることもありうるのです。
しかしこの店はそうした不安とは無縁。最新の機器を用いながら、ジャンさんが手作業でしっかりと目の状態をチェック。個々の客のニーズに合わせ、眼鏡のレンズからフレーム、各パーツに至るまで、最適なものをチョイス。眼鏡の製作からフィッティング、修理まで、彼自身が店の工房で行っているため、やりとりもスムーズです。

確かな技術に加え、モードへの眼差しも

眼鏡マイスターとしての豊富な知識や正確な技術に加え、最新のトレンドにも詳しいジャンさん。長身の彼の佇まいも、モデル並みにスマートです。世界から訪れるファッショナブルな顧客のために、毎年ヨーロッパ各地の展示会に出向き、シーズンごとの流行りや新商品をチェックしており、「バートン・ぺレイラ(Barton Perreira)」や「エリー・サーブ(Elie Saab)」など、世界のセレブ御用達のラグジュアリーブランドの商品も取扱っています。

顧客の性質に合わせた、きめ細やかなサービス

眼鏡の洗浄やフィッティング、鼻パッドの交換などは、無料のサービスとして行い、購入した商品に満足がいかない場合、3か月までは無料で他の商品と交換できます。保証期間は、3年間です。
特筆すべきは、旅行中のサービス。EU域内を旅行中に、購入した眼鏡が破損・紛失したり、盗難にあったりした場合、電話一本で、48時間以内に「遠視用眼鏡と近視用眼鏡」が入ったセットを顧客の滞在先に届けてくれるのだそう(保証期間内のみ)。もちろん、それぞれの目の状態に合わせたレンズ付きです。旅の多い顧客にとって、これは嬉しいサービスですね。

品揃え

売れ筋は、アメリカの3大ブランド

店のラインナップとしては、前述のハイエンドブランドのほかに、顧客の要望が多いレイバン、アディダス、オークリー(Oakley)といったスポーツ系の商品も揃えています。ジャンさんによれば、特によく売れているのは、「オリバー・ピープルズ(Oliver Peoples)」、「トム・フォード(Tom Ford)」、「バートン・ぺレイラ」の3大ブランドであるとのこと。
オリバー・ピープルズは、ヴィンテージの雰囲気を醸し出したシンプルなスタイルが人気。トム・フォードは「Tマーク」が目印のスタイリッシュなデザインが特徴的です。バートン・ぺレイラは、2007年にオリバー・ピープルズから独立した、より高級路線なブランド。ブラッド・ピットをはじめ、世界中のセレブに愛されています。

サングラスが最もよく売れる

商品のタイプでいうと、夏冬ともに、リゾート地で活躍するサングラスが最もよく売れており、次に眼鏡、コンタクトレンズの順なのだそう。エンガディン地方はスイスの中でも天候に恵まれており、1年のうち約320日が晴天ともいわれるエリア。サングラスが必須なのも納得です。
「多くのお客様は短期滞在ですので、オーダーしてから時間のかかるコンタクトレンズは売れにくいですね。また、このエリアは冬に空気が乾燥するため、コンタクトレンズの使用はあまりおすすめできないという面もあります」(ジャンさん)
商品の価格帯は、中級~高級といったところ。サングラスは、大体200~550フラン(約2万2千円~6万円)です。

ミラノやパリで買い付けた、ハイエンド商品も

今季(2019年)一押し商品は、パリで買い付けた「エリー・サーブ」というレバノンの有名デザイナーのサングラス。価格は、なんと900フラン(約10万円)以上。店頭にはディスプレイされておらず、客の要望があれば出すという形をとっています。
フレームに宝石が散りばめられていたり、色や形が凝っていたりと、非常にファッション性が高い。「スイスではまだそれほど売られていない、希少価値のある品物なんです」(ジャンさん)
商品の買い付けは、毎年3月末のミラノ、9月末~10月のパリの展示会で行い、常に新しいものに注目している。商品を選ぶ際のプライオリティは、「トレンドセッターであること」だそう。

顧客

国際色豊かな客層

冬のシーズン(12月中旬~4月中旬)や、夏のシーズン(7、8月)には、世界各地から観光客が訪れます。出身国はおもにイタリア、ドイツ、ロシア、アメリカ、イスラエルなど。中には、遠くカリブ海のバハマから来る客もいて、10年前に比べると、日本人観光客も増えています。
顧客の年代は、30~50代が一番多く、混雑するのは大体金曜日。毎年、休暇でサンモリッツに戻ってくるたびに店を訪れ、視力を新たに測り直し、眼鏡を新調していく常連も多いという。ジャンさんの腕前が信頼されている証です。

地元富裕層の常連も

もちろん地元の常連もおり、その中の1人が、近隣のサメ-ダンに住む金融コンサルタントのピーター・コンラッド氏。ジャンさんとは長い付き合いで、「もはや友人関係」だといいます。
日本に5年間滞在したピーターさんに、まだ日本に行ったことのないジャンさんが、日本事情について質問することもあるそう。ピーターさんはこの店の品揃えを大変気に入っており、購入する眼鏡の価格が20万円を超えることもあるのだとか。こだわりのある富裕層ならではのショッピングといえそうです。

宣伝方法

口コミが一番、インスタに興味あり

広告は出しておらず、「口コミが一番」と断言するジャンさん。ウェブサイトでは、店の概要が紹介されています。フェイスブックのアカウントでは、新商品の紹介や、店の臨時休業などをアナウンス。
インスタグラムにも取り組みたいが、「何しろ1人で切り盛りしているので、なかなかそこまで手が回らないのが実情」という。しかし、「昨今の人気ぶりを見ていると、取り組まなければならないという気持ちにはなります」と話していました。
また、サンモリッツを含むエンガディン地方のこだわりの商店を特集した本(「Leben, Wohnen & Geniessen: Engadin und Umgebung」)に、情熱を持って仕事に取り組むジャンニさんの姿が紹介されています。

日本産の品物

日本産の眼鏡フレームは質が高い

日本の眼鏡ブランドは特に取り扱っていませんが、「バートン・ぺレイラ」のチタンフレームは日本製。こちらのブランドの眼鏡は、フレームだけでなくパーツにおいても、すべて日本で生産されており、ハンドメイドならではの丁寧な仕事ぶりが評価されています。
ジャンさんも、「チタンフレームの分野では、日本製が最もクオリティが高い」と太鼓判。実際に、客からの評判も上々なのだとか。
プラスチックのフレームでは、イタリア製品がベストとのこと。「お客様がプラスチックフレームを好む理由は、タイムレスであるからではないでしょうか」と話していました。

日本文化や特記すべき自国・外国文化へのコメント

日本は眼鏡の聖地、売り込みも歓迎

ジャンさん自身は、これまで日本とそれほど接点がなかったものの、日本に対しては「生活のスピードが速い」というイメージを持っているのだそう。「日本人と比べると、スイス人は全体的にもっとスローテンポで暮らしているのではないでしょうか」とジャンさん。
また、日本人とスイス人の類似点としては、「仕事が正確である」「クオリティに厳しい」「ディテールにこだわる」といった面を挙げていました。
店には常に新しいものを取り入れていきたいので、日本の眼鏡ブランドにも興味はあるのだそう。「日本が世界的な眼鏡の産地であるのは、よく知っています」と語るジャンさん。今後は、日本企業からの売り込みも歓迎していきたいと話していました。

公開日:2019年 11月 5日

タグ:富裕層

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