みなさんは「富裕層」と聞いて、どのような方が思い浮かぶでしょうか。
近年、「当社の製品を海外の富裕層に売りたい!」という中小企業の方々からのご相談が増えてきています。このレポートでは、中小企業の方々が富裕層に向けた海外展開を計画するうえで、そのターゲット像の具体化に資するべく、富裕層と呼ばれる方々のお気に入りのものやライフスタイル、お勧めのショップなどをインタビュー調査し、まとめたものです。みなさんの商品開発やマーケティングのお役に立てれば幸いです。
なお、このレポートは2018年に執筆されたものであり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。

プロフィール

氏名:シュテファン・ラインハート(Stephan Reinhardt)
年齢:50歳代
職業:弁護士
家族構成:パートナー(フィアンセ)あり
自宅エリア:チューリッヒ市内
職場エリア:チューリッヒ市内
住居の間取り:賃貸マンション、1LDK(自慢のバルコニーとストレージ有り)
車所有台数:1台、ボルボ(Volvo)
使用する言語:ドイツ語、英語、フランス語、スペイン語、オランダ語

世界中を転々とした幼少期

私はスイスのバーゼル生まれですが、父親の仕事の関係で、子ども時代のほとんどを外国で過ごしました。当時のスイス人としては、ちょっとユニークかもしれませんね。父が石油会社勤務だったので、オランダ、ブルネイ、ガボン、スペインを転々としました。10代で初めてスイスに来て、ツークにあるボーディングスクール(寄宿学校)に入学したんです。
それまではインターナショナルスクールで、英語がほぼ母国語のような感覚で育ったので、ボーディングスクールのスイスのお金持ちの生徒たちとはあまり馴染めませんでした。でも同じような友達と、クラッシュやスミスなどイギリスのロックバンドを聴いて過ごしていました。空手に出会ったのもこの頃。個人スポーツなのが、自分の性分に合っていたようです。

防衛・警察関係でキャリアを積む

その後、バーゼル大学の法学部を卒業し、弁護士資格を取得しました。就職先を探しているときに、スイス連邦防衛庁の面接担当の人柄に共感。語学力やアカデミックなバックグラウンドも生かせるということで、防衛分野に進むことにしました。NATOや国連の仕事で、ベルギーやアメリカにも滞在したことがありますよ。
キャリアは順調で、アールガウ州警察庁のトップも務めましたが、46歳で公務員を引退しました。まだ若いうちに、新たな挑戦をしたいと思ったんです。自分の原点である「弁護士」に立ち返り、個人事務所を設立しました。弁護士のなかでは異色なこれまでの経験を生かし、リスクマネジメント分野に強い国際弁護士として、チューリッヒを拠点に活動しています。

生活スタイル

週5日勤務、趣味はスポーツ

仕事内容としては、主に犯罪や交通、行政分野の法律に関わるケースを扱っていて、NGOや民間企業への法律アドバイスも行います。平日は、自分の事務所に車で出勤。事務所でのミーティングが多いですが、裁判所に出向いたり、スイス各地へ出張することもあります。
仕事を終えた夕方5時からは、ジョギングをします。45分くらいかな。運動するのが好きなんです。警察時代はジムでリフティングなどもしていましたが、今は生活スタイルが違うのでもうしていません。その代わり自転車に乗ったり、自宅で週1~2回TRX(サスペンショントレーニング)をしています。値段も手ごろで使いやすい器具だし、冬が寒いスイスでは室内の運動に重宝しています。フィアンセもよく使っていますよ。
睡眠は、大体7時間くらいでしょうか。仕事で座ることが多いので、パスタやポテトなどの炭水化物はなるべく控えています。あとは、ビオメッド(Biomed)というスイスの会社が出している、クロロフィルのサプリをとっています。

空手を35年、現在は指導員

空手は10代から続けていて、黒帯3段です。週2~3回、チューリッヒ市内の道場に通い、指導員として教えています。生徒は、教師やビジネスマンが多いですね。空手を通じて出会った人達も多く、日系2世の友人もいますよ。
私が通っている道場は、日本人の大島劼先生がアメリカで始めた「松濤館大島道場」のスイス・チューリッヒ支部にあたります。年会費は400フラン(約4万5千円)で、道場の場所代などにあてています。黒帯保持者は、さらに追加で170フラン(約2万円)支払い、ベルン本部での稽古や特別行事の費用をまかなっています。

休暇は、スイス国内でゆっくり

週末は、夏なら自宅周辺で運動したり、友人とディナーをしたりすることが多いですね。友人は、性格やライフスタイルが自分とは異なり、世界各地に散らばっています。弁護士や銀行員、起業家が多いでしょうか。ちなみに、兄も海外在住なんですよ。アメリカのシアトルで、料理と翻訳の仕事をしています。
人生で一番大切なのは、フィアンセです。彼女はドイツ出身。看護師なのでお互い多忙ですが、アパートもすぐ近くにあり、休暇も一緒に過ごしています。車で2時間くらいの山の中に別荘があるので、冬の週末は大体そこでスキーや散歩をすることが多いですね。
外国に旅行することはあまりなく、年に1、2回電車でミラノに出かけるくらい。チューリッヒの自宅と、山の別荘の自然豊かな環境が気に入っているんです。

住居の印象

空手の免状がお出迎え

自宅は、チューリッヒの中心部から北西の方へ、少し離れた地域にあります。緑もある落ち着いた住宅エリアで、街へ出るにも便利です。車だと、10分くらいでしょうか。私のアパートの部屋は最上階にあり、キッチン、バスルーム、ベッドルーム、リビング、バルコニーといった間取りです。
玄関を入ってすぐの場所に、私の空手の免状コーナーがあります。大島先生直筆の免状は、もう手に入らないこともあって貴重であり、大事にしています。カタカナの名前入りの帯もありますよ。空手で使う型の名前や簡単な数字は知っていますが、日本語の文章を読むのは難しいですね。

大好きなカルチャー系の品々

リビングの壁には、オアシスやラモーンズなど、好きなバンドのポスターを飾っています。大切なレコードは、棚の引き出しの中に。音楽は人生の一部として欠かせない存在で、若い頃はウォークマンを肌身離さず持っていました。アメリカの空軍ラジオから、新しいバンドを知ったり。大学時代には、レコードショップやクラブの裏方として働いたこともあるんですよ。残念ながら、楽器は演奏できないんですけどね。
テーブルの上には、個人的に集めている雑貨やナイフ、雑誌を並べています。このナイフは、友人が手作りしたものなんです。革の袋も合わせて、凝っているでしょう?これらを見てだんだん分かってきたと思いますが、好きなものはコレクションしたいタイプなんです。

テレビや醤油、カエデなど日本のものも

日本製品でいうと、テレビはソニー製です。あと、フィアンセと一緒に買い物に行くとき、時々お寿司やお刺身を買ってきて、食べたりもします。そうしたときに、ワサビや醤油を使うこともありますよ。
バルコニーには、カエデの鉢をいくつか置いています。ここは私の自慢の場所です。カエデはスイスでは「日本のメープル(Japanischer Ahorn)」と呼ばれ、ガーデニングでは人気。一般住宅の庭にも、よく植えられています。
あとは、個人的に日本のファッションが好きで、ジーンズや雑誌もいくつか持っています。

持ち物を拝見

日本製ジーンズがお気に入り

ファッションが大好きで、ベッドルームはコレクションで一杯です。特にお見せしたいのが、日本製のジーンズ。チューリッヒにある行きつけの店、「ディーシー・スタイル(DeeCee style)」で買ったもの。
店のオーナーのマルクスとは、バーゼル大学時代からの付き合いです。彼は80年代に、スイスで初めて、アメリカン・カジュアルやアーミー・スタイルの店を出したパイオニアなんですよ。私は海外育ちで、レッド・ウィングやVANSの靴、リーバイスのジーンズなどが好きで、よく店を覗いていました。チューリッヒへと場所が変わった今でも、週1回は通っています。
これは、日本の島根県のブランド「マスタークラフト・ユニオン(MasterCraft Union)」のジーンズです。ウォッシュの感じや、ゆるく履けるスタイルが気に入って、何本か持っています。和紙が35%入った、特別な生地のものもありますよ。決して安くはありませんが、モノがいいので長持ちします。ドライクリーニングするなど、丁寧に手入れして、大事に履いています。

雑誌「クラッチ」や日本文学を愛読

このお店からは、日本の雑誌も購入しています。持っているのは「クラッチ・マガジン(CLUTCH Magazine)」「ザ・レッド・データ・ヴィンテージ(The Red Data Vintage)」といったファッション雑誌や、「サイクル・ヘッズ・マガジン(Cycle Headz Magazine)」「フライウィール(Fly Wheels)」「スポーツスター(Sportster)」などの車やバイク関連の雑誌。マルクスからもらうこともあります。本文の内容は残念ながら分かりませんが、写真を見て楽しみ、ファッションスタイルのヒントをもらっています。
若い頃は、日本の文学作品も、英語で読みましたね。リビングの本棚には、学生時代から読んできた様々な本が入っているのですが、三島由紀夫や村上春樹の作品もあります。特に三島作品は、戦後日本の歴史や侍に興味があった学生時代に読み、勉強になりました。
読書は好きで、集中すると2~3日で1冊読み終えます。最近は、インターネットをする時間が増え、本を読む時間が少なくなってしまい、残念に思っています。

買い物について

食材は専門店で新鮮なものを

普段の買い物でいうと、自宅からはちょっと離れていますが、気に入っている肉屋さんがあって、週1~2回通っています。「キュンツリ精肉店(Metzgerei Künzli)」といいます。フィアンセと近くを散歩していてたまたま見つけた店なんですが、ここもクオリティが高いんですよ。
私は、「安い肉を毎日買うよりは、品質のいいものを選んで味わいたい」派です。スイスには、こうした考えの人たちが多く、ビオ(有機)の食材が好まれています。この店では、いつも200フラン(約2万3千円)くらい買いますね。ここのローストビーフが大好きなんですよ。肉製品以外にも品揃えが充実しているので、友人を招くときの食材も、ここで調達することが多いです。

値段ではなく、長持ちするいいものを

何を買うにしても、重視しているのは「質」です。昔、祖母がよく言っていたのが、「うちは貧しいから、安物は買えない」ということ。裏を返せば、「安物はすぐ壊れるから、結局コストがかかる」ということなんですね。その教えを受け継いでいるのかな、と思います。
自分のスタイルに合うかどうかも大事です。子どもの頃、冬休みはスイスに帰ってスキーをしていたんですが、その当時はみんな「アルパイン(Alpine)」というミグロ(Migros:スイスの一般的なスーパーマーケット)のブランドだったんです。いつか大きくなったら別のブランドに、と思い続けて、初めて買ったのはドイツのスキーブランド「フォルクル(Völkl)」でした。嬉しかったですね。今でも2本持っています。
自分の人生で一番高い買い物は、6年前に購入したロレックスの時計です。

プレゼントは人や場所に合わせて

友人や家族へのプレゼントには、チューリッヒにある高級デパート「イェルモリ(Jelmoli)」で選ぶことが多いですね。誕生日には、フィアンセには洋服など、母へは本やショール、ハンドバックなど贈ったことがあります。今年のクリスマスプレゼント用には、「ディーシー・スタイル(DeeCee style)」でいくつか洋服を見ているところです。
友人には、ステーキナイフやオペラのチケットなどをプレゼントしたことがあります。価格帯は、様々ですね。スイスではホームパーティーをすることがよくありますが、招待されたときには、大体ワインを持って行きます。日本製のウィスキーボトルも人気があり、喜ばれています。

情報集め

毎朝のニュースチェックは欠かさずに

情報収集は、毎朝カフェで行うのが日課です。「NZZ(Neuen Zürcher Zeitung)」や「ターゲスアンツァイガー(Tagesanzeiger)」など、スイスの地元日刊新聞をオンラインで読んでいます。
購読しているのは、スイスの週刊誌「ヴェルト・ヴォッヘ(Die Weltwoche)」です。政治や経済面など、主要紙とは違った目線で報道されるので、興味深く読んでいます。
こちらの編集部からは、私自身の警察でのバックグラウンドと法律の知識を買われて、時々紙面にアドバイスを求められることもあります。最近では、交通法に関わる事例に対し、弁護士として意見を述べたものが記事になりました。

イギリスのテレビ番組を視聴

テレビは基本的にほとんど見ませんが、BBCなどのイギリスの番組は時々見ています。コンセプトが素晴らしく、オープンマインドだと感じます。
中でも、イギリスの有名なコメディ女優が、日本を北から南まで旅したドキュメンタリー番組「ジョアンナ・ラムレイズ・ジャパン(Joanna Lumley’s Japan)」シリーズは面白かったですよ。日本の建築や武術、陶器や花見など、様々なテーマを扱っていて、とくに花見は本当に素敵で感動しました。私はまだ日本に行ったことはありませんが、この番組を見て、いつか行ってみたいと思いました。
一方で、スイスのテレビ番組はあまり見ていません。全体的に内向き、保守的だと感じるので。あまり面白いと思わないんですよね。

SNSも幅広く活用

警察に勤務していた頃は、プライベートを一切公開していませんでしたが、弁護士として活動するようになってからは、個人のウェブサイトも作り、SNSも活用しています。
仕事ではリンクトイン、ワッツアップ、プライベートではフェイスブックやインスタグラムを利用しています。趣味のスキーの写真などは、インスタグラムにアップすることが多いです。
とはいえ、私は若者のように「デジタル・ネイティブ世代」ではないので、まだまだ活用しきれていない部分もあるとは思います。

日本文化に対して

日本は信頼できる国

日本は、伝統を重んじる誇り高い国でありながら、新しいテクノロジーの面でも進んでいますよね。「確かな技術で、質の高いものを生み出す国」という印象があります。
また、日本人は、スイス人と似ている部分も多いのではないかと感じています。これは、私が空手を通じて出会った日系人の友人から得たイメージなので、純粋な日本人とはまた違うのかもしれませんが、日本と同様、スイスの交通機関は時間に正確ですし、スイス人は仕事をきちんとこなそうとします。
日本に行くとしたら、桜の時期に京都の寺や神社を訪れたいですね。北海道でスキーをしたり、東京では大都市の風景を実際に見てみたいです。ファッションもチェックして、ジーンズなどの洋服も買いに行ければと思っています。

成功者、富裕層の定義

金持ちでなくても、成功者にはなれる

私は、たくさんお金を生み出さなくても、自分のしている事で幸せに、豊かに暮らしているのなら「成功者」だと思います。その一方で、膨大な金額を稼いでいても、満たされない人たちもいますし…。結局のところ、富を持っていて幸せになれるかどうかは、「自制心(discipline)」と「節度(moderation)」によるのではないでしょうか。

シュテファン氏の御用達~アパレルセレクトショップ・ディーシースタイル(DeeCee style)

店名:ディーシースタイル(DeeCee style)
業種:アパレルショップ
所在地:Talacker 21, CH-8001, Zürich
電話番号:+41 (0)43 497 3585
営業時間:月~水・金10:00~19:00、木10:00~20:00、土10:00~17:00
定休日:日曜日
ウェブサイト:https://www.deeceestyle.ch/(英語、ドイツ語)
取材対応者:オーナー、マルクス・カドルヴィ(Markus Cadruvi)さん
商品名(値札)等の言語:ドイツ語

インプレッション(印象)

銀行街にたたずむ、メンズファッションのセレクトショップ

チューリッヒ中心部の広場、パラーデプラッツ。ここはトラム(路面電車)の様々な路線が交差し、UBSやクレディ・スイスといったスイスの銀行の本店が建つ金融街です。ハリー・ウィンストンなどの高級ブティックや老舗の高級菓子店シュプルングリ(Sprüngli)の本店もあり、海外からの観光客もショッピングに訪れます。
この広場から歩いて1分かからない場所に、「ディーシースタイル」があります。外観でまず目を引くのは、店の看板。なんとカタカナで書かれています。「日本人のお店?」と思うも、店内にはカントリー・ミュージックが流れ、革ジャンやジーンズ類も並び、アメリカンな雰囲気。所々に「岡山」「超極」などという日本語も見えます。客層は、男性メインといったところ。店員は客1人ひとりに対し、丁寧にアドバイスしています。

お店の概要

アメカジ一筋30年以上、目利きのオーナー

この店の創業は2009年ですが、オーナーであるスイス人のマルクスさんは、1980年代からチューリッヒでアパレルショップを手掛ける実業家。若い頃からアメリカの文化やファッションに憧れ、地元バーゼルのショップに勤めるうち、「ゆくゆくは自分の店を持ちたい」と思うようになったのだとか。
1986年、満を持してチューリッヒの旧市街に、ウエスタンスタイルのアパレルショップ「VMC」をオープン。ジーンズファンのニッチな需要に応え、カルト的な人気を誇ったといわれています。2000年には、環境に配慮したショッパーを作る会社「C-bag-trade AG」も立ち上げました。

富裕層をターゲットに、新たな店をオープン

2005年にVMCを譲渡し、2009年には現在地に「ディーシースタイル」をオープン。店名のDは「デニム(Denim)」、Cは「カジュアル(Casual)」の頭文字なのだそう。土地柄、富裕層の顧客が多いことから、より高価格でコンテンポラリーなスタイルへとシフトしました。「モノ」と「サービス」のクオリティが高いため、客は引きも切らず、2014年には事業を始めて以来の成功を収めました。
それでもマルクスさんは、8人の従業員と共に日々店頭に立ち、接客を欠かしません。毎年4月には、「ハナミ・パーティー」と銘打ったイベントも開催。取り扱っているブランドや出版社を招待し、同じファッションスタイルを愛する人々の交流の場も創り出しています。

品揃え

歴史あるブランドから最新ファッションまで幅広く

店内には、世界中から選び抜かれたハイエンドなファッションアイテムがずらり。正統派の英国革靴や日本製のジーンズ、1940~70年代のヴィンテージの革ジャンなどのほかに、マルクスさんの趣味でもあるバイクのヘルメットやグッズも並びます。帽子やベルト、スカーフやアクセサリーなどの小物類も充実。ファッションやバイクをテーマにした雑誌も取扱っています。
ブランドは、アメリカや日本を始め、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ベルギー、ノルウェー、オーストラリアなど多岐にわたります。「チャーチ(Church’s)」などの19世紀から続く由緒ある欧米ブランドだけでなく、「ノルウィージャンレイン(Norwegian Rain)」のように2000年代に出てきた新進気鋭のブランドの姿も。

売れ筋商品は日本のジーンズ

「看板に日本語を載せたのは、日本のブランドを多く扱っているから」とマルクスさんが語る通り、この店の日本製品の多さには目を見張るものがあります。売れ筋商品の1つ、ジーンズの多くは日本製。世界的に有名な「エドウィン」、大阪発の「サムライジーンズ」、岡山発の「桃太郎ジーンズ」を始め、「シュガーケーン(Sugar Cane)」「マスタークラフトユニオン(MasterCraft Union)」「45rpm」などを取り扱っています。
サムライジーンズ1本の価格は、なんと379フラン(約4万2千円)。物価が高いといわれるスイスでも、通常100フラン台で男性用ジーンズが買えることを考えると、かなり高い方だといえるでしょう。

他では見かけないユニークなシャツ

ジーンズ以外では、「秋冬はジャケット、夏はTシャツがよく売れる」(マルクスさん)とのこと。「ネイバーフッド(Neighborhood)」の黒シャツは159フラン(約1万7千円)、「スタイルアイズ(Style Eyes)」の50~60年代風レトロ柄シャツは298フラン(約3万3千円)。どちらも日本のブランドです。
マルクスさんおすすめの東京発ブランド「ファンダメンタル(FDMTL)」のパッチワーク風シャツ(298フラン)は、エスニックな雰囲気がありつつ、藍色で和も感じるという点が受けているようです。「ジュンヤ・ワタナベ コム・デ・ギャルソン(JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS)」のジャケットも、今季一押し商品です。

ハイクオリティの手仕事を高く評価

この店に置かれているブランドは、すべてオーナー自身が選んだもの。マルクスさんは、イタリアや日本、パリやニューヨークなど、世界各地の展示会を訪問。品物を実際に手に取り、ブランドに関わる人たちと話をすることを大切にしています。前述のブランドとも、こうした場所での出会いがきっかけになったのだとか。
また、腕利きの職人による手仕事を高く評価しており、「産地も非常に重要」と話します。30年以上、最高品質のジーンズを探し求めてきたマルクスさん曰く、「ジーンズはアメリカのものだと思われがちですが、クオリティの高さでいうと日本が世界一。日本製のデニム生地は厚く、強靭で、長持ちします。アメリカも最近伸びてきましたが、まだまだ日本がトップですね」とのこと。

顧客

客層は、チューリッヒの富裕層ビジネスマン

世界有数の金融都市・チューリッヒで働くビジネスマン達が、おもな顧客層です。スイス人に限らず、イギリス人やアメリカ人など、顔ぶれは国際的。年代は10代~70代と幅広く、この店が提供するスタイルが好きな人が集まってくるのだそう。
スイス人のファッションについて、マルクスさんは、「東京の若者のような、エッジィ(前衛的)な着こなしはしませんね。流行はありますが、基本的に皆保守的です。しかし、良質のものを長く着たいという傾向があるので、いいものにはお金を払うという感覚の人が多いですよ」と分析しています。

「高くても質のいい服を買いたい」という顧客

そんな常連の1人が、シュテファン・ラインハート氏。職場からもそれほど遠くない場所にあるこの店を、週1回くらいのペースで訪れているのだとか。愛用している「マスタークラフトユニオン」のジーンズもここで購入。日本の雑誌も何冊か持っています。
彼にとってこの店の魅力とは、「ベルリンやロンドンのハイエンドなショップにも引けを取らないクオリティでありながら、品揃えがより豊富であること」。洋服のスタイルにも幅があるので、コーディネートを考えるのが楽しいのだとか。男性用だけでなく女性用もあるため、パートナーへの洋服を選ぶこともあるそうです。

仕事の休み時間や土曜日に来店

ビジネスエリアにあるため、ランチタイムや就業後の夕方が一番混雑する時間帯です。土曜日も終日、客足が途切れないといいます。

宣伝方法

ファッション雑誌への広告、SNSも有効活用

日頃付き合いがあり、店でも販売しているイギリスの雑誌「メンズ・ファイル(Men’s File)」と日本の雑誌「クラッチ・マガジン(CLUTCH Magazine)」に広告を出しています。2017年版「チューリッヒでお買い物!」(Zürich Kauft Ein!)という本に、ショッピングにおすすめのお店として掲載されたこともあり、新聞や雑誌からの取材も多数受けています。
店のウェブサイトには、取り扱っているブランドの説明や商品の写真をふんだんに掲載。フェイスブック、インスタグラムのアカウントもあり、新商品やスタイリングの提案、イベント情報が随時投稿されています。顧客とのパーソナルなやりとりを大切にしているため、オンラインでの販売はしていません。

日本関連の品物

取り扱う日本ブランドの数は20近く

日本のファッションアイテムが店の看板商品といっても過言ではない、このショップ。前述のブランドの他にも、「キャピタル(Kapital)」「ts(s)」「ナナミカ(Nanamica)」「バズリクソンズ(Buzz Rickson’s)」「ブラック・サイン(Black Sign)」「ブルー・ブルー・ジャパン(Blue Blue Japan)」の商品が店頭に並びます。「ヴィンテージ・ワークス(Vintage Works)」や「天神ワークス(Tenjin Works)」の革製品、「マスターピース(Master-piece)」のカバン、「チュプ(Chup)」の靴下も扱っており、雑誌まで加えると、日本ブランドの数は約20にものぼります。

日本産の素材を使った欧米ブランドも

取り扱う欧米ブランドの中にも、日本関連商品があります。例えば、「オンカイハッツ(Onkaihats)」はスイスの帽子ブランドですが、日本の「わびさび」にインスピレーションを受けた作品を作っており、装飾部分に日本の布を使用。また、「ネイキッド&フェイマス(Naked & Famous)」(カナダ)はデニム生地、「ノルウィージャンレイン」はハイテクリサイクル素材が日本製です。

出会いは、世界各地の展示会

マルクスさんによれば、日本のブランドとは、展示会などで顔を合わせ、その後コンタクトをとっていくなかで仕入れにつながっているといいます。例えば「ファンダメンタル」の場合、イタリアの展示会「ピッティ・ウォモ(Pitti Uomo)」で度々見かけており、デザイナーが店に来たこともあるそう。2017年春に仕入れを決めたのは、「店の雰囲気とブランドの方向性が合致した」というのが主な理由。「タイミングも重要だ」と話します。
日本の展示会では、「クラッチ・マガジン」主催の「CC Show」(横浜)に行くのだとか。「日本製のものは、生地、縫製、デザインのどの点においても質が高い」というイメージを持っているようです。

日本文化や特記すべき自国・外国文化へのコメント

プライベートでも親日家

個人的に初めて日本を訪れたのは15年前というマルクスさん。これまでブランドや展示会の訪問で3回の渡航経験があり、中でも「京都の寺や神社が印象に残っている」と話します。妻は陶芸家で、日本の陶器をお土産に購入したのだとか。日本食では刺身が好物で、チューリッヒでも日本食レストランによく足を運ぶそうです。

現地の人々の体格に合わせた商品作りを

ヨーロッパ進出を考えている日本のアパレル企業に対しては、「服のサイズに注目すべき」とアドバイス。日本人と体格が異なるので、日本のものをそのまま持ってくると、腕の丈が短すぎたりするのだそう。「こちらのサイズに合わせた服を作れば、取り扱いやすくなるのではないか」と話していました。
2019年にも再び日本を展示会で訪れる予定だというマルクスさん。「ブランドとの付き合いは、人との付き合いと同じ」と語る通り、今後もじっくり信頼関係を作り上げていくのでしょう。

シュテファン氏の御用達~デリカショップ・キュンツリ精肉店(Metzgerei Künzli)

店名:キュンツリ精肉店(Metzgerei Künzli)
業種:精肉業
所在地:Letzigraben 149, CH-8047, Zürich
電話番号:+41 (0)44 492 1656
営業時間:月~金7:00~19:00、土7:00~17:00
定休日:日曜日
ウェブサイト:http://metzgereikuenzli.ch/(ドイツ語)
取材対応者:店員、マリナ・シュテヴァノヴィッチ(Marina Stevanovic)さん
商品名(値札)等の言語:ドイツ語

インプレッション(印象)

清潔で明るい、「デリカテッセン」的肉屋

「キュンツリ精肉店」は、チューリッヒの中心部から少し離れた庶民的な住宅地域・アルビスリーデンにあります。比較的新しい建物の1階部分に入っており、目印は「Künzli」と文字が入った大きなソーセージのレプリカ。隣には、ベーカリーがあります。パンとソーセージが軽食の定番であるスイスの人々にとって、ここは「必需品が揃う場所」といえるかもしれません。実際に、どちらの店にも寄っていく客が多いようです。
お昼どきには、近隣で働いているビジネスマンや工事現場の労働者、親子連れ、カップルなど、年齢も職業も様々な客が訪れ、ランチをテイクアウトしています。店内は清潔で明るく、パスタやチーズ、ワイン等も並び、「肉肉しさ」を感じさせません。日本でいうところの「肉屋」のイメージよりも、はるかにモダンで洗練された印象です。

お店の概要

伝統のレシピと高品質を売りに成長

創業は1959年。同じ地域にあったリメ精肉店(Metzgerei Rimé)を、現在のオーナーであるハインツ・キュンツリ(Heinz Künzli)氏の両親が引き継いだのが始まりです。出身地ザンクトガレン州で作っていた特製レシピによるソーセージはまたたく間に評判を呼び、小売店や飲食店からの注文も増加。1970~80年代には、店舗を拡張しました。
増え続ける需要に応えるため、2000年にはチューリッヒ州スタリコンに精肉工場を新たに設置。店員のマリナさんによれば、この店で売っている肉製品の約9割は、自社工場で加工されているのだとか。ビオ(有機)など質の高い肉を選んでおり、顧客からの信頼も厚いそうです。

肉製品以外にも幅広い品揃え

店舗は、ほかに工場の直売所と、グラウビュンデン州クールに配送センターがあります。社員は約60人で、アルビスリーデン店の従業員は13人。ケータリングやパーティサービスも行っています。
「創業者のレシピ」という伝統を大事にしながらも、顧客の要望に応じて肉以外の商品も置くなど、品揃えに関してオープンな姿勢が特徴的です。2018年からは、野菜や果物も置き始めたのだそう。肉屋という括りにおさまらない柔軟な姿勢も、顧客をひきつけている要因の1つかもしれません。

品揃え

入り口には、華やかな贈答品コーナー

入口を入るとすぐ、贈答品のコーナーがお出迎え。看板商品である「ユートリベルク(Uetliberg:自社工場近くにあるチューリッヒの低山)」の名前を冠したドライソーセージの詰め合わせが並びます。肉を花びらに見立てるなどデコレーションも凝っており、価格は1個89.90フラン(約1万円)ほど。スイス人が贈るプレゼントの価格帯としては、比較的高級品の部類に入ります。
「ユートリベルク」印の商品はバラでも売られており、一番の売れ筋商品なのだそう。価格の一例は、「ビュンデナー・フライシュ(Bündnerfleisch))が118gで11.70フラン(約1,300円)となっています。

ランチのテイクアウトは手頃な価格

テイクアウトコーナーでは、毎日11時半から日替わりメニューを用意。こちらの価格は12.50フラン(約1,400円)。スイスで外食すると、安くても1皿15~20フランはかかるため、リーズナブルな方です。店の新鮮な肉をグリルでローストしたものが、メインディッシュになることが多いようです。
ある日のランチは、ローストビーフに付け合わせはゆで野菜と「シュペッツレ(Spätzle)」と呼ばれる柔らかいパスタでした。精肉店ならではの肉のおいしさは、折り紙付きです。

プレゼントにふさわしい高級調味料やワインも

反対側の棚には、本場イタリア産の高級パスタやソース、酢やオリーブオイル類、スイス産のチョコレートなどが陳列されています。イタリアの赤ワインやフランスのシャンパンを始めとして、地元スイスのワインも揃えています。
スイスでは、イタリア産の高級調味料やパスタ等の詰め合わせを、家族や友人の誕生日祝いとして贈ることがよくあります。また、ディナーに呼ばれた際の手土産としてワインを持って行くのも一般的。そうした目的で、このような商品が置かれているのでしょう。
価格の一例を挙げると、イタリア産バルサミコ酢は250mlで17.50フラン(約2,000円)。一般のスーパーマーケットで同量のバルサミコ酢が5~6フランほどで買えるのに比べると、約3倍の値段です。一般には日常使いよりも「プレゼント用」の価格帯に近いです。

アペロに適した食材の種類も豊富

メインとなるガラスケースには、野菜や果物のほか、シャリキュトリと呼ばれるハムやソーセージ、テリーヌ、そしてチーズやオリーブといったアンティパスト類も並びます。サラダドレッシングも自家製なのだとか。スイスでは定番の「アペロ(夕食前の白ワイン&おつまみ時間)」用の買い物にはぴったりといえそうです。
スイスの定番ソーセージであり、冷たいままでも食べられる「セルベラ(Cervelat)」は240gで4.20フラン(約470円)。店おすすめの「ユートリベルクの農家風ロースト用ソーセージ」は、1本3.50フラン(約400円)となっています。どの商品も、「スーパーで買うよりも少し高めで、質のいいもの」という印象です。

店自慢のスイス産肉、そして和牛

店の一番奥には、自慢の新鮮な肉類が並びます。牛や豚、鶏肉のほかに鹿肉もあり、様々な部位を揃えています。産地の多くは、スイスにこだわっているのだとか。スイス人の国産肉に対する信頼は厚く、地元産のものを選ぶ顧客が多いそうです。
国産の蒸し煮ステーキ用牛肉(Rindssaftpläzli)は100gで5.60フラン(約630円)と、一般のスーパーで買うよりも1フランほど高め。また、スイス産和牛を使ったハンバーグも販売されており、100gで7フラン(約780円)。焼くと小さくなるため、1個あたりの分量に対しての価格はかなり高いと感じますが、実際に食べてみると味が段違いであると分かります。顧客からの評判も上々で、「何度も買いに来る人たちもいますよ」とのこと。

選定基準は、何よりも「クオリティの高さ」

店で揃えている商品に関して、マリナさんは「品質はどれもナンバーワン」と太鼓判を押します。アペロからメインの食事までの食材が用意され、ディナーに呼ばれる際の手土産まで販売。食のシーン全体を見据えた商品展開は、肉屋としてはとてもユニークです。取扱う商品を選ぶ際は、クオリティを何よりも重視しているそうです。

顧客

ローカルにも、遠来の顧客にも愛される店

この店には、10代~80代まで、幅広い年代のお客がさん訪れるといいます。中には、毎日ランチを買いに来る年配の男性もいるのだとか。近隣住民や労働者など、ローカルがメインの顧客層ですが、近くにホテルがあるため、時々観光客も訪れるのだそう。
常連も数多く、シュテファン・ラインハート氏もその1人です。散歩の途中でこの店に立ち寄ったのがきっかけで、普段の買い物や来客用の食材調達に週1~2回のペースで訪れているのだとか。お気に入りは、ローストビーフなのだそう。また、クリスマスの時期に用意されるフィンランドのハム(Finnen Schinken)はとても人気で、これを目当てに毎年、チューリッヒのみならず、スイス各地から注文が入るというから驚きです。

ランチは行列、金・土も混雑

1日で店が最も混雑するのは、ランチタイムです。マリナさんによれば、「並ぶのは必至」なのだとか。また、金曜日と土曜日は常に混んでおり、週末にまとめてショッピングをしたり、ゲストのために手の込んだ料理を作ったりするスイス人のライフスタイルを反映しているようです。

宣伝方法

各媒体に掲載される有名店

自ら広告を出しているわけではありませんが、地元の各種メディア(新聞、地元テレビ局、フリーマガジンなど)に、頻繁に掲載されています。2017年版「チューリッヒでお買い物!」(Zürich Kauft Ein!)という、チューリッヒでショッピングにおすすめのお店リストに取り上げられたり、2018年には日刊紙ターゲスアンツァイガー(Tagesanzeiger)で、「チューリッヒにある、数少ない伝統の精肉店」の1つとして名前が挙げられています。

一番の宣伝は口コミ、SNSも活用

マリナさんによれば、一番の宣伝は「顧客による口コミ」であるとのこと。店のウェブサイトは、2017年5月にリニューアル。店の紹介のほか、きれいな写真を豊富に掲載しています。フェイスブックのアカウントもあり、新商品や週替わりのテイクアウトメニュー、工場直売店での割引情報などを随時更新しています。

日本関連の品物

テリヤキソースや和牛も陳列

肉のコーナーには、日本産ではありませんが、キッコーマンの「テリヤキソース」の姿もあります。顧客からの要望で置いたものの、「実際のところ、残念ながらそれほど売れているわけではないんです」とマリナさん。ただ近年、スイスでのテリヤキソースの知名度は上がってきており、寿司の具として「照り焼きチキン」がよく使われているのは確かです。
一方で、和牛は顧客に愛されている人気商品なのだとか。肉部門担当の男性は、「最高級の肉といえば神戸牛でしょう」と断言。神戸牛は店には置いていないものの、日本発ブランドである「和牛」に対する評価は総じて高いことが伺えます。

早くから和牛に目をつけ販売を開始

肉の品質にこだわるキュンツリ精肉店は、スイスで和牛を取り扱い始めたパイオニア的存在。スイスの和牛飼育場と提携し、2015年から販売を開始しています。
スイスの和牛も100%自然に飼育されており、餌はトウモロコシ、牧草、オオムギとミネラルのみ。人工的なホルモンや成長促進剤、抗生物質などは一切与えていません。スイスは世界的にみても動物保護の基準が高いことで有名であり、和牛の飼育もそれに沿ったものになっています。

日本商品のスイスでの可能性について

肉に合う和風調味料、ウィスキーも視野に

生鮮食品を扱う店の性質上、スイスやイタリアなどヨーロッパ産の商品が多く、顧客からもそうしたものを欲する声が多いとマリナさんは言います。そのため、彼女自身も日本とほとんど接点がなく、これまでに日本企業からの売り込みもなかったのだとか。
しかし、顧客は新しい味にもオープンな人が多いことから、肉料理の味付けに使うワサビや柚子胡椒などの調味料や、料理に合わせるお酒、特にウイスキーに関しては取扱いの可能性があるかもしれないとのこと。日本企業から売り込みがあった場合にも、「まずは試してみてから考えたい」と好意的に受け止めるスタンス。質の高い日本の商品であれば将来、この店の棚に並ぶ可能性がありそうです。

公開日:2019年 11月 1日

タグ:富裕層

ページコンテンツ