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海外展開を成功へ導く心構えと失敗しない越境ECの4つのポイント

海外展開を成功へ導く心構えと失敗しない越境ECの4つのポイント

これから海外展開や越境ECに挑戦したい中小企業の経営者・担当者必見!失敗しないための秘訣をアドバイザーが伝授します。今回は、越境ECでつまずかないための考え方と、成果を出すための戦略選びのヒントを詳しくご紹介します。

はじめに

中小企業アドバイザーとして多くの企業と面談し、セミナー講師を務める中で、テーマは異なっても共通する“本質”があると感じています。一見すると課題はさまざまですが、深掘りしていくと、行き着く先は「経営をより良くしたい」という思いです。

海外展開の相談でも、マーケットや販路の悩みを伺ううちに、根底には「経営改善のヒントを得たい」という思いがあることに気づきます。そんなとき私がよくお話しするのが、困ったときや迷ったときに立ち返る“考え方の軸”を持つことが、持続的な成果につながるということです。

近年、とくに相談が増えているのが越境ECに関するものです。国内市場の縮小を背景に、「自社も海外販売に挑戦したい」と考える企業が増えています。しかし、越境ECには独自の難しさや誤解も多く、準備不足のまま着手してつまずくケースも少なくありません。

そこで本稿では、海外展開を検討する企業が最初に押さえるべき、「越境ECの心構え」と、その成功に向けたポイントについてお伝えします。

失敗しない越境ECの4つのポイント

■ポイント1:「負けない戦い」をする――まずは自社の強みを活かす
→国内小売、ECの経験を活かす

越境ECで成果を出すための最初のポイントは、「勝てる場所で勝負する」ことです。自社の強みを生かし、あえて不利な戦いに飛び込まない姿勢が重要です。

国内市場で実績を持つ企業には、すでに顧客基盤や知名度、販売ノウハウがあります。しかし海外展開となると、「海外だから」とまったく新しいことに挑戦するケースが少なくありません。たとえば、取り扱い商材を変えたり、卸売中心の企業がいきなりBtoCのEC販売に参入したりする例です。新しい取り組み自体は否定しませんが、競争が激しい海外市場で自社の強みを発揮できるのか、慎重に見極める必要があります。社内にECの知見がないのに「いきなり越境ECに参入する」のは、リスクが高いと言えるでしょう。 また、国内市場が縮小する中で「越境ECなら売れるらしい」と軽い気持ちで検討を始めるケースもあります。しかし、よく考えると、「思っていたほど簡単な話ではない」「そもそも国内でまだやるべきことがある」と気づく企業も少なくありません。まずは自社の状況を正しく認識し、適切な戦略を選択できることが成功の入り口です。

■ポイント2:「目的は何か」に立ち返る――手段の目的化に注意
→越境ECの立ち上げはスタート地点。マーケティングが重要

越境ECでは、「海外向けECサイトを整備すること」自体が目的化してしまうことがよくあります。しかし、越境ECは海外顧客を獲得し、売上を伸ばすための “手段”にすぎません。海外ECモールへの出店や自社サイトの開設などはゴールではなく、スタート地点です。

社長の号令でプロジェクトが始まり、海外向けECサイトの開設と同時に「ミッション完了」となってしまう例も見られます。しかし本当に重要なのは、サイトを公開したその日から始まるマーケティング活動や顧客との関係構築です。ここをおろそかにしては成果につながりません。

私自身も支援の際は、「目的がぶれていないか」をつねに確認しています。越境ECは運用を通じて成果を積み上げるプロセスであり、継続的な取り組みが求められます。

■ポイント3 相手の立場に立って考える
→「わざわざ日本から買う理由」を想像する

海外展開では、「日本企業は評価されている」「日本のものづくりは優れているから歓迎される」という思い込みから商談の際に自社の歴史や思いを一方的に語ってしまい、まったく相手に響かないケースが少なくありません。

商談相手が時間を割く理由はただ一つ、「この会社と取引することで利益につながるかもしれない」と期待しているからです。まずは新規顧客の獲得や新市場参入の機会など、相手へのメリットを具体的に示し、その上で自社の歴史や実績を補足するのが効果的です。

顧客が一般消費者の場合も同じです。越境ECで、なぜ送料や時間をかけてまで日本から購入するのか、理由を想像してみてください。「日本にしかない商品が欲しい」「日本文化に興味がある」「楽しかった旅行の思い出をもう一度」といった動機に応える情報提供が鍵になります。

■ポイント4:「思い込み」を排する――日本の立ち位置を正しく認識する
→日本は必ずしもEC先進国ではない。各国は独自の進化を遂げている

越境ECに取り組む際に見落としがちなポイントが、「日本のほうが進んでいる」という思い込みです。しかし、アジア各国のインターネット・EC分野は、日本を上回るスピードで進化しています。

とくに世界最大のEC市場である中国は、マーケティングのレベルも非常に高い状況です。周辺国もその流れに乗っており、パソコンではなくスマートフォンを中心に越境ECが発展している点に特徴があります。「日本で成功しているから海外でも通用する」と安易に考えるのは危険です。現地の実態を正しく理解し、柔軟に対応する姿勢が求められます。

YES/NOチャートで自社に適した越境ECを見つける

越境ECの相談では、「海外モールに出店したい」「自社ECを海外向けに展開したい」「ライブコマース*に挑戦したい」といったさまざまな要望が寄せられます。しかし、やりたいことと、今の自社ができることは、必ずしも一致しません。

「国内でどのような販売体制を整えているのか」「直営店を運営しているのか、卸売のみなのか」などの基本を確認することで、自社に合った越境ECの手法が見えてきます。以下のYES/NOチャートを活用し、自社の強みを把握したうえで、取り組みやすい方法から検討してください。

*ライブコマース:ライブ配信で商品をリアルタイムに紹介・販売するEC(電子商取引)手法

自社の強みを把握する「YES/NOチャート」

まとめ

越境ECは単なる販路拡大ではなく、経営改善の視点から取り組むべき挑戦です。自社の強みを活かし、目的を見失わず、顧客の立場を理解し、日本の位置づけを正しく認識することが成功の鍵となります。

中小機構のアドバイザーは、目の前の課題解決だけでなく、経営の方向性や改善につながる相談相手として寄り添う存在です。医療に例えるなら、「まずは応急処置を施しつつ、根本原因を検査して探り、改善につなげる」といった役割です。対話を重ねながら、経営者が自ら気づき、納得して意思決定できるよう伴走していますので、ぜひ気軽にご相談ください。

筆者紹介

平内 優 中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)

AVメーカーに22年間勤務し、海外マーケティング、販売会社経営、セカンドブランド責任者等を担当しました。その後、海外スポーツメーカー(二社)日本法人マネージメント、日本発SPAのオンラインストア責任者を務めた後、2013年よりマネージメントコンサルタントに従事しています。2016年より、中小機構の国際化支援アドバイザーとして、中小企業の海外ビジネス展開を支援しています。


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