海外展開を図るにあたり、最初のフェイズとして、自社の海外ビジネスをどのようにするべきか考えるとともに、この段階で調べた方がよいことを紹介します。遠回りのようですが、海外出展の機会を有効活用するためにスキップすることのできないフェイズです。

海外ビジネスの検討を進める前に、「なぜ海外なのか?」を考えてみましょう。
売上(新規市場)の獲得、将来に向けた足場の構築、後継者の育成、ブランディングのためなど、さまざまな目的があると思います。

しかし、国内とは市場構造から異なる海外で、ゼロから事業を立ち上げるためには「創業」と同じくらいの労力がかかります。事業を進めていくにあたって、選択・決定することも多く、目的を明確にしておかなければ、迷走することになりかねません。

また、最初の海外展開をかたちにするためには、3~5年かかると言われます。たとえば展示会をベースに海外進出を考えた場合、一般的に年間200~500万円の投資が必要となります。
数年の間、自社はこの投資を継続できるのか。継続できない場合は、どのようなアプローチをとるのかを考える必要があります。

そのためにも、まずは「海外でなにを達成するのか」をきちんと検討し、どのくらいのタイムスパンでどこまでを目標とするのか、イメージを膨らませておくことが大切です。

海外でどのような価値をアピールできるのか客観的に把握する

まずは、国内市場やユーザーにあなたの会社の商品やサービスが受け入れられている理由をあらためて考えてみましょう。国内での実績、価格のみの優位性、日本独特の付加価値、流通条件による優位性などであれば、それらは海外で必ずしも武器になるとはかぎりません。

海外展開を進めるにあたっては、自社の商品やサービスの強みを客観的に把握し、それらが海外においても発揮できるものなのか、欠ける部分があれば補完が可能か見極めなければなりません。自社の商品・サービスを客観的に分析するためには、「SWOT分析」という手法がありますので、これを使って、とくに現状の強みを分析してみることをおすすめします。

海外進出する場合には、先行している同業他社がいる場合も多いので、自社はどのような優位性をもって参入し、どのような価値を顧客にアピールできるのか、海外の進出先市場で発揮できる強みを考えます。

目的にかなった国・エリアを選ぶ

進出先(国・エリア)の選定については、中小企業の場合は何らかの縁がある先ということが多いですが、進出目的に照らして最適か、客観的な評価も行ったうえで総合判断します。情報収集は、同業で多国籍展開している先輩企業にヒアリングするのがおすすめです。

残念ながら、横断的に集めて比較した情報を提供する機関はあまりないので、ジェトロなどが公開している国別の情報を自分で比較してみましょう。

まずはWEBで、価格や機能を調べる

自社の商品・サービスが海外市場で受け入れられる可能性があるのかを知るために、まず競合の商品やサービスを調べることは不可欠です。海外市場での競合商品・サービスの価格、機能などは、WEB やジェトロの公開資料である程度、調査できます。

流通構造や競合品への不満など、WEB上で見つけにくい情報は、現地でヒアリングをする必要があるでしょう。また、海外に競合する商品やサービスがない場合は、市場を形成することができるのか調べるために、現地での関係事業者や消費者からヒアリングします。ヒアリングの方法としては、企業訪問のほか、現地での展示会出展、イベント開催、アンケート実施、テスト販売などがあります。

しかし、あれもこれもと欲張ると事前の下調べ作業が膨大になります。突破力のある商品・サービスを尖兵として選び、まずは海外現地市場に風穴を開けることをおすすめします。

進出を断念せざるを得ないケースもある

どのように海外展開を行うかの検討と平行して、輸出入の規制を調べます。安全認証や輸入制限品目など、場合によっては進出を断念せざるを得ないこともあるので、中小機構やジェトロなどの支援を活用してしっかりと調査します。生産財の場合は、日本国内の規制として、軍事転用可能な技術の国外への輸出制限などの安全保障貿易管理が行われています。

輸入規制には一般的に、身体に入るもの(飲食品・医療機器・子供用玩具の安全認証制度など)と、国内産業保護に係るもの(食品・繊維製品の輸入制限など)があります。中古・リサイクル品(環境保護など)も留意が必要です。

安全認証制度の代表的なものとしては、FDA認証(米国・食品医薬品認証)、CEマーキング(EU・製品安全表示)、UL規格(米国・電化製品安全規格)、ANSI規格(米国・工業規格)、DIN(ドイツ・工業規格)、RoHS(EU・有害物質使用制限指令)、REACH規則(EU・化学物質)など、どこまで準拠する必要があるかは商品によりますが、準拠費用という投資が必要になるので十分に情報収集します。

海外市場を開拓するにあたり、現地子会社を設立して販売拠点とする方法もありますが、販路を新規に構築するには、現地のネットワークを持つ販売パートナーを活用する方法のほうが現実的です。

※中間マージンを乗せると価格が合わない場合、直営店あるいは、WEB販売による展開方法がありますが、展示会出展とは異なる手法のため詳述しません。
※ノウハウや顧客情報の社内蓄積については、後述「販売パートナーの選び方」の3参照。

ここでは、代表的な販売パートナーとして、展示会でもバイヤーとして来場するディストリビューターと代理店を中心に、その役割や選び方を考えます。

両者は確定的に違うわけではなく、扱う商品によってはディストリビューターが代理店の役割で販売することや、代理店に当たる者が「私はディストリビューターをしています」と言ってくることもあります。また、自社が期待する役割のすべてをカバーするかどうかもさまざまです。選定にあたっては、相手がどちらなのかを見分けるよりも、後述するように、どのような役割を担う者であるのか見極めていくことが重要です。

ディストリビューターや代理店の販売活動としては、契約により、さまざまな内容を含むことがあります。

販売関係:販売戦略策定、展示会出展、営業、顧客管理、メンテナンス、返品・苦情対応
○流通関係:流通網構築、商品保全、出荷管理
○輸入関係:輸入業務手配
○代金回収関係:顧客信用調査、代金回収、売掛金管理

典型的なディストリビューター(distributor 日本語では「販売店」と訳される)


販売店契約を結んだ特定のメーカーなどから自己のリスクで商品を仕入れ、小売業者(retailer)や法人顧客(user)に販売します。販売先への価格決定権を持ち、販売価格と仕入価格の差を粗利益とします。在庫リスク及び債権回収リスクを負担。企業形態であることが多いです。

典型的な代理店(agent, sales agent, rep, sales rep, manufacturer’s representative)


売り手の代理として営業を行い、売買を仲介します。個人営業(フリーランス)の場合も多くあります。
販売量に基づく仲介手数料(「売上げの○%」などのコミッション)を得ます。生産財分野では技術営業を請負う者のイメージ。専門分野に関する知見やバイヤーとの結びつきが武器で、とくに欧米ではrepと呼ばれる一匹狼的なプロフェッショナルが多く見られます。

販売パートナーは、海外の展示会で探すことができるほか、事前に調べて選定することも可能です。ディストリビューターは、小売業者開拓のため展示会に出展していたり、仕入先を探しに展示会の出展者を回ることも多くあります。代理店は、出展はしませんが、クライアントを探したり業界動向を把握するために展示会に来場します。

事前に調べる方法としては、信頼できる人からの紹介のほか、業界団体を通じて探す方法があります。販売パートナーの取引先(仕入先、販売先、クライアント)で、(分野違いなど)自社と競合がない企業があれば、聞くと紹介してくれるかもしれません。WEBやジェトロの海外ミニ調査サービス(有料)を使って調べる方法もあります。

候補者があらわれたら、役割を確認し、能力をはかります。

1 相手の役割を確認する

・輸入業務も行うのか否か
・販売の形態(販売相手となるのか、仲介か。また、自社と買い手との間に他に誰が入るのか)
・扱っている競合商品
・関連商品(自社商品だけを扱うのか、「品揃え」としての採用か)

2 相手の能力をはかる

・現地市場の理解度と販売チャネル(顧客と実績)
・販売プロモーション方法と計画・実行力

有力な販売パートナー候補については、さらに詳しく確認します。独占権については確認というよりも交渉となります。

3 より詳しく確認する

・販売、流通、代金回収のどの業務をどこまで行うのか
・販売プロモーションの費用分担
・規制官庁との関係、許認可申請の支援ができるか(飲食品、医療機器など規制対象商品の場合)
・販売地域(テリトリー)など希望する独占権の範囲
・最低取引額・取引量
・販売先情報の報告事項、報告方法とタイミング ※
・構築したネットワークの共有(引継ぎ)方法 ※

※販売パートナー活用のデメリットを最小化するための方策だが、将来的にも現地子会社への直接販売移行を考えない場合、構築したネットワークの共有にはこだわらなくてもよい。

ディストリビューターや代理店に与える販売権の種類(独占権)


初期段階は、相手の能力を見極めるためにも、非排他的な(=独占権を与えない)契約がおすすめです。ただし、相手は独占権を欲しがるので、販売地域や最低取引額・取引量などを含めて交渉することになります。

販売パートナーは1市場に1社とは限らず、得意先の業界によって複数社に販売権を与えたり、販売地域別で複数社にそれぞれ独占権を与えたり、それらを組み合わせることもあります。

買い手側のリスクが制限できる委託販売のオファーを受けることも多いですが、おすすめしません。
売り手側のリスク(返品リスク)が高いため、慣れないうちは選択肢から外した方がよいでしょう。

社内で対応できるのか、外部に依頼するのか

直接貿易で発生する海外とのやりとりについて、自社内で対応できるのか、できる場合は誰が担当するのかを検討します。社内で対応できない部分は社外の助けを借りることになります。本格的に海外展開が進むと、新たに会社を立ち上げるのと同じくらいの業務が発生します。長期的な体制構築も意識しながら、勝算がはっきり見えるまでは、最低限の体制で柔軟に対応することをおすすめします。まずは海外での成功事例をひとつつくり、その方法を足がかりとして事業を拡大させていくと、応用が利くので効率的です。

海外事業は、会社全体を巻き込むプロジェクト

海外ビジネスについて当面の取組みが明確になったら、経営陣や展示会出展の担当者だけでなく関係部門間で情報を共有し、社内でのプライオリティーを確認します。たとえば米国のように「当たると大きい」市場を開拓する場合は、生産や調達への影響も検討しておかなくてはなりません。「社長(あるいは一部の人達)が海外で何をしているのかよくわからない」と社内に不安や不満が生じては、全社一丸となって取り組むことができません。