「海外をちょっとのぞき見コラム」は海外現地の最新状況やホットなトピックスをお伝えするコラム記事です。第9回目は、日本企業の台湾進出サポートを行う御堂アドバイザーに台湾の現地事情をお聞きしました。
※なお、このレポートは2021年11月22日時点の情報であり、現在の状況と異なる可能性があることをご了承ください。
台湾は日本との人的往来が盛んな地域の一つです。コロナ禍以前は台湾から年間480万人もの旅行者が日本を訪れていました。一方台湾を訪問する日本人も年間210万人に及び、ハワイへの訪問人数150万人をもはるかに超える数となっています。(いずれも2019年外務省資料等による)
経済的な結びつきも強く、日本は台湾の輸入相手国としては2位、輸出相手国として4位(いずれも2020年の台湾財務部統計処のデータによる)です。
現在、台湾の工商会(台北市日本工商会)に登録する進出企業は501社、それ以外に近年は特に台湾の消費市場に参入するさまざまなサービス業(小売、飲食関連等)が増加しています。今回はコロナ対策に非常に成功したと評価されている台湾のコロナ対策と消費市場のトピックをご紹介します。
台湾のコロナ感染と対策
2020年コロナ感染の発生以来、世界全体が深刻な危機に見舞われました。
台湾では2020年1月20日に中央流行疫情指揮センター(以下CECCと略す)を設立し、「COVID-19」(新型コロナウィルス、以下コロナ感染またはコロナと記す)の流行の拡大を防ぐために、様々な予防対策を速やかに準備しました。
台湾では、陳時中指揮官が率いるCECCが、毎日午後2時に記者会見を開催し、感染状況と今後の方針・計画について報告し、国民がコロナ感染への対応を十分に理解できるよう記者からの質問がなくなるまで説明したので、国民から厚い信頼を得ることができました。
感染の拡大防止に功奏していた台湾でしたが、2021年5月コロナ感染者が206人となり、感染が発生して以来最も深刻な流行危機となりました。CECCは19日、コロナ感染の警戒レベル(第1級が最も緩く、第4級が最も厳格)を全国で第3級に引き上げました。第3級では全国の飲食業は一律テイクアウトのみとなり、室内5人以上、屋外10人以上の集まりが禁止される等、学校などの施設の閉鎖、分散勤務、テレワーク、時差通勤など、企業の運営を継続するためのさまざまな対応措置を講じることとなりました。
台湾は厳格な感染対策システムを実施しており、国民全員がマナーを遵守し、学校は休校となりオンライン授業に切り替わり、企業もほぼテレワークに切り替わりました。そのため、学校のグラウンド開放は中止となり、スポーツセンターも閉鎖されたためステイホームで太った人が増加。健康やダイエットを気に掛ける人が増加し、ネットショップでは在宅健康器具やトレーニンググッズの売り上げが増えました。また、キャンプブームに伴い、アウトドア用品の売上が好調になりました。
飲食店では店内飲食が禁止され、テイクアウトのみの営業となったことで、フードデリバリーが大幅に成長、foodpanda、UberEatsを使う人が増加した反面、テイクアウトだけでは商売にならず、閉店した飲食店が急増しました。また売上減少の打撃が大きかったのは百貨店。開店してはいるものの、外出自粛により客足が大幅に激減したことが原因です。
台湾では当初から現在に至るまで入国隔離に関する厳しい規制があり、帰国者は14日間の完全隔離、入国者は14日隔離の為の指定ホテルでの滞在を義務付けられ、ホテルの廊下に出るだけでも20万元~100万元の罰金を科されます。
外出時のマスク着用などもルール化されており、ルール違反をすると、罰金3000元以上15000元以下など厳しく罰せられます。そのため、規制が第2級に引き下げられた本年10月5日からも引き続き原則外出時のマスク着用、実名登録制(次に説明します)、ソーシャルディスタンスの遵守、室内80人、室外300人までの集会活動に制限されています。
感染状況が落ち着いている台湾ですが、最近の話題は2022年旧正月の帰省についてです。海外在住の台湾国民は70万人以上いると言われていますが、旧正月の帰省に向けて、航空券のチケットは手配できたものの、隔離のための指定ホテルが満室で見つからないという事態が既に起きています。台湾が入国規制を緩和するにはワクチン接種率が6割を超えることが最低条件と言われており(10月末現在38%)、もう少し時間が掛かることが予想され、今後の推移とCECCの判断が待たれます。
台湾ならではのコロナ感染防止対策=「実聯制」実名登録制
台湾では2020年5月19日にコロナ感染拡大を防ぐための「実聯制=実名登録制」の導入がルール化されました。
公共交通機関や店舗等ほとんどの場所で、利用者には名前と電話番号などの連絡手段を残すことが義務付けられています。
わずか5秒、3ステップで行動履歴の通知手続きを完了できるシステムで、「簡訊実聯制(実名登録制)」と呼ばれています。台湾のIT化を推進する唐鳳(オードリー・タン)政務委員と中華電信等企業との開発チームが開発を主導、お店のQRコードを読み取り、
無料防疫ホットライン「1922」にショートメッセージを送れば、実名登録の手続きが完成します。もちろんショートメッセージの送信料はすべて無料です!会員登録、アプリをダウンロードする必要はなく、メッセージは28日後に削除される仕組みとなっているので、個人情報が店舗等に残る心配もありません。
消費の刺激策「振興券」とは
台湾政府はコロナ禍で落ち込んだ消費を刺激する様々な支援策を決定しましたが、その中で最も特徴的な振興券についてご紹介します。この2年間、台湾ではコロナ感染状況に伴い、日本と同じように店舗やイベント業界の業績が低下する一方でネットショップの売上は伸長しました。このため街角消費を刺激するため、政府はコロナの打撃を受けた産業の支援を目的とした振興券を2020年と2021年の2回発行しました。2020年の振興券は1000元で3000元分の商品が買うことができるというもので、国民1人当たり1,000元(約4,000円)を自己負担することで、その3倍となる3,000元(約12,000円)の消費ができるので「振興3倍券」と呼ばれました。これにより1000億元≒4000億円もの経済効果を生み出しました。
さらに2021年の振興券は、健康保険カードを提示することで、一人一回に限り無料で5000元分の振興券が受け取れるといったもので「振興5倍券」と呼ばれます。これは実店舗、飲食店、夜市、伝統市場などを始め、芸能・文化イベント、宿泊施設、台湾高速鉄道、台湾鉄道などで使用可能です。ただし、ネットショッピングと株式投資、公益事業、罰金、健康保険料、税金などの公共料金支払い、プリペイドチャージなどに使用することはできません。
振興券は消費刺激策として産業復興の一助となると見込まれています。消費者のほぼ半数が本来の日用品購入に充てると回答していますし、多くの消費者は特定の振興5倍券を利用したセールやキャンペーンを利用して商品購入を予定しています。現在は感染が収まりつつあるため、外出の頻度も増えており、リアル店舗での消費促進に繋がるものと期待されています。
消費市場の話題
新型コロナウィルスの影響により、日本に行かれないことの反動で、台湾の人々は日本の観光に対する強い関心から日系スーパーやデパートでの日本食品の売上は好調のようです。日本物産展での食品や日本ブランドの衣料品などはむしろ業績が大幅に上昇しました。
太平洋SOGOデパート忠孝館で3/23〜4/6に開催された「日本和風節」では1日あたりの売り上げ目標が当日午後3時に達成できるほどの盛況でした。
新光三越百貨店では「mr.kanso」だしまき缶詰が人気で、今回の日本物産会でも売れ筋商品となり、3日間で完売しました。
長崎福砂屋のカステラは発売から4日間で1000本を販売。航空便で急遽追加発注することとなり、2日間でさらに450本販売しました。新光三越5店舗合計での総売り上げは9000本にも達しました。
以上のようにコロナ禍が過ぎさり、また以前のように日本を自由に訪問できる日が来るまでは台湾の消費者の日本ロス=日本品の購買熱はしばらく続くのではないかと予想されます。
筆者紹介
御堂 裕実子 中小機構 中小企業アドバイザー
広告代理店勤務を経て、2006年9月より台湾国立政治大学へ留学。帰国後2008年に日本企業の台湾進出サポートを行う合同会社を設立、台湾にも事務所を設置、今年で13年目を迎えている。日本企業と台湾企業とのマッチング、現地百貨店・スーパーマーケットでの販売プロモーション企画運営や輸出入物流サポート 、各種消費財を中心に台湾市場でのマーケットリサーチなどの事業を行っている。 地方自治体、食品、不動産、教育など様々な業界・企業の台湾進出を支援し、支援企業は200社をゆうに越えている。中小企業基盤整備機構の中小企業アドバイザー、商工会議所国際化アドバイザーとしても活躍中。
中小機構について
中小機構の「海外展開ハンズオン支援」では、国内外あわせて300名以上のアドバイザー体制で、海外ビジネスに関するご相談を受け付けております。
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