インドネシア 現地レポート

国際化支援レポート「海外展開の視点」(インドネシア)

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私が駐在しているインドネシアにおける事業展開について、法務の側面から説明をさせていただきます。
海外への事業展開は、インドネシアに限らず、進出前の準備段階、拠点の設立段階、拠点設立後の事業運営段階に大きく分けることができます。そこで、以下ではそれぞれの局面において、インドネシアの法制上どのような点に留意が必要となるかについて主要なものを中心に見ていきたいと思います。

1 進出前の準備段階‐法令調査について

(1) 法令調査の必要性

進出前の準備においては、市場調査等、進出後の事業の実現可能性の検討も必要ですが、法律面での事前調査も重要となってきます。拠点を設立し、事業を行うためには様々な許認可を取得する必要があるのが通常ですので、進出を正式に決定する前に、これから行う事業について、インドネシアの法令上何かしらの規制はされていないか、どのような許認可を取得しなければならないか、といった点を綿密に検討しておくことが必要となります。

(2) インドネシアにおける法制度の特色

インドネシアでは、憲法を頂点とし、法律、政令、大統領令などの様々な成文法令が存在しています。
そして、インドネシアにおいては長らくオランダの植民地支配を受けていた影響が残っており、基本的な法令、例えば、民法、刑法、民事訴訟法令などについては未だにオランダ植民地時代のものが正文とされ、現在も適用されています。
また、成文法のみではなく、地方における土地取引などにおいてはアダットと呼ばれる慣習法への留意も必要となります。さらに、国民の大多数がイスラム教徒であることから、イスラム法への配慮も必要となります。イスラム法自体は一般の事業との関連性は薄いかもしれませんが、インドネシアにおける事業展開に密接に関連する労働法(2003年法律第13号)においてイスラム教に限らず各宗教への配慮が求められている点に留意する必要があります。

(3) 法令検討の際の主な留意点

事業展開を検討する際には、法律のみではなく、管轄官庁の大臣が制定する大臣令や大臣決定についても参照が必要となる場合があります。また、法令の解釈に関し、行政機関における回覧状などが重要な意味を持つ場面もあります。
一方で、法令などの規定内容が不十分な場合が多々あります。このようなときには管轄官庁の担当職員からの回答が手掛かりとなりますが、回答が一貫していない場合があるなど、全幅の信頼を置くことができないというのもまた現状です。
また、法令の改正が頻繁に行われる点にも留意が必要です。例えば、昨年(2015年)、労働移住大臣規程における外国人労働者の就労許可(IMTAと呼ばれるものです。)に関する規定の改正が行われ、インドネシア法人の取締役などは、インドネシアに居住しない者についても就労許可取得が義務付けられたことがありました。しかし、この規定は後に再度改訂され、非居住役員の就労許可取得義務が削除されるに至りました。

拠点の設立段階

続いて、インドネシアに拠点を設ける際の留意点についてご説明します。
(一部1と重複しますが、拠点設立に関するものをここでまとめてご説明します。)

(1) 設立する拠点の形式について

インドネシアにおいても、株式会社以外に、協同組合や財団といった様々な事業体が認められています。しかし、インドネシア投資法(2007年法律第25号)上、外国投資家がインドネシアで現地拠点を設立するには、原則として株式会社(Perseroan Terbatas)の形式で行う必要があります。なお、いくつかの種類の駐在員事務所の設立も認められていますが、駐在員事務所については行うことのできる活動が限られている点などに注意が必要です。

(2) 外資規制について

インドネシア投資法を受けて制定された大統領令が、投資を禁止あるいは制限する事業分野について定めています。大統領令には禁止事業及び制限事業がリストアップされており、これに該当するものが規制を受けるということから、一般に「ネガティブリスト」と呼ばれています。なお、直近では2014年のものが最新でしたが、本稿執筆時点において改正が予定されています。
現地法人の設立を検討する際には、まずこのネガティブリストを確認し、展開予定の事業が規制されていないか、規制されている場合はどのような対処をする必要があるかを確かめておく必要があります。

(3) 現地法人設立の際の基本的な留意点

現地法人を設立する際には様々な点に留意する必要がありますが、本稿では紙幅の都合上、そのうちの基本的なものについてご説明いたします。

ア 株主の数
外資規制が行われていない事業分野については外資100パーセントでの法人設立ができるということになりますが、インドネシア会社法(2007年法律第40号)上株主は2名(個人に限らず、法人でも構いません。)必要とされていることから、例えば日本本社のみが出資を行い、株主となるといったことは認められていません。そこで、外資100パーセントで法人設立が可能な場合においては、日本本社に加え、日本本社の代表者が株主となるといった方法が採られることがよくあります。

イ 投資額及び資本金の規制
外国投資(インドネシアにおいては1パーセントでも外国人あるいは外国法人が出資している場合は外国投資として扱われます。)について、2015年投資調整庁長官規程が最低の投資額を、土地・建物を除いて100億ルピア超と定めています。
また、会社設立時の引受・払込資本金額(設立時に発行しなければならない株式の総額)については、25億ルピア超と定めています。さらに、1株主当たり1000万ルピア出資しなければならないとも定めています。

ウ 現地法人の役員
インドネシア会社法においては、取締役のほか、コミサリスという役員も設置することが必要とされています。このコミサリスとは、日本で言う「監査役」に相当する役員ですが、取締役の職務一時停止に関する権限があるなど、日本の監査役よりも強い立場にあるという点に注意が必要です。
取締役及びコミサリスはそれぞれ最低1名設置しなければなりません。いずれも国籍や居住地の制限はありませんが、実際に業務を担当する取締役については居住者を充てる必要があるものと考えられます。

拠点設立後の事業運営段階

拠点を設立した後の事業展開においては現地従業員を雇用したり、現地の企業と契約を締結して取引を行ったりすることになります。そこで、それぞれに関わる労働法、契約法を中心にご説明します。

(1) 労働法関係

インドネシア労働法は日本の労働法と比べたとき、いくつかの特殊な点を有しています。

ア 外国人労働者による人事業務担当の禁止
インドネシア労働法は外国人労働者が人事業務を担当する役職に就くことを禁止しています。そのため、人事業務担当のインドネシア人労働者を雇用することが必要となります。

イ 有期雇用の制限
現地で労働者を雇用する場合、雇用契約に期間の定めを置きたいと考える企業が多いのではないかと思います。
しかし、インドネシア労働法は、有期雇用を、まず対象業務の面で制限し、さらに期間の面でも制限しています。すなわち、有期雇用とできるのは、1回限りや臨時の業務、3年以内で完了する業務、季節的な業務、新製品などに関する業務に限られています。そして、期間は最長2年で、1回に限り1年以内での延長が認められます(このほか、猶予期間を置いての更新も定められています。)。

ウ 雇用契約終了について
解雇を行う場合、まず労使間での協議を行い、それでも合意できない場合は労使関係紛争解決機関の決定(労働関係裁判所における判決など)を得なければ解雇を行うことができません。
このような手続的な規制に加え、解雇を行うことのできる事由も労働法上限定的に定められていることから、就業規則などにおける懲戒事由の定めが非常に重要となってきます。ただし、就業規則違反を理由とする解雇についても労働法所定の警告のプロセスを経ることが求められていることから、警告のプロセスに関する規定もきちんと定めておくことが必要となります。
さらに、労働法には雇用契約の終了事由ごとに退職金が定められており、就業規則などに違反し、警告のプロセスを経た後に解雇されるような場合においても退職金の支払いが必要とされています。
これらの点は、現地法人において就業規則を作成する際に留意する必要があります。

(2) 契約法関係

インドネシアに拠点を設けて事業を展開するようになると、インドネシアの現地企業との取引を行うことも出てくるものと思います。また、インドネシアに拠点を設けない場合においても、日本の会社がインドネシアの現地企業と契約を締結するというケースもあります。そのため、インドネシアの契約法についての理解も必要になるものと思います。

ア 契約の準拠法、紛争解決条項
とりわけ契約の当事者が異なる国の法人であるような場合では、契約の準拠法(その契約の解釈や効力などを判断する際、どこの法律を拠り所とするかといった問題)や紛争解決(その契約に関し紛争が生じた場合、どこのどのような手続を利用して解決を目指すかといった問題)に関する条項が重要となります。
このうち準拠法については、インドネシア法上も契約において当事者が合意することは可能とされております。
次に、紛争解決に関しては、若干留意が必要となります。例えば、日本の会社がインドネシアの現地企業と契約を締結する場合に日本の裁判所での紛争解決を選択し、そして判決まで得たとしても、その判決を基にインドネシアで執行手続を行うことはできません。インドネシアでの執行のためにはインドネシアでの裁判手続を経て判決を得るなどする必要が出てきます。これはインドネシアの民事訴訟法令において外国判決に基づく執行の制度が整備されていないことによります。
そこで、通常は、仲裁手続を選択することとなります。仲裁手続とは、当事者が第三者(仲裁人)による紛争解決に従うことに合意し、この合意に基づいて行われる手続のことをいいます。仲裁手続を選択する際には、どこのどの機関で行うかも合わせて選択することとなります。そして、インドネシア国外で行われる仲裁手続の結果(仲裁判断)については、裁判所の判決と異なり、インドネシアでの執行手続に利用することが認められています。このような理由から、契約書に紛争解決条項を入れる際には、仲裁手続を利用することをお勧めしております。なお、仲裁手続の場所については、実務上シンガポールが選択されることが多いです。

イ 契約書の言語
インドネシアの現地企業と契約を締結する際留意する必要がある点として、契約書の言語の問題があります。
これは2009年に制定された法律に、インドネシア企業が締結する契約にインドネシア語を記載しなければならない、という条文があることによるものです。この法律自体には違反した場合の効果は明記されていなかったのですが、同法違反を理由とする契約を無効とする地方裁判所の判断を昨年インドネシア最高裁判所も認めたことから、同法に準拠した契約の締結、つまり契約書におけるインドネシア語の利用ということが以前にも増して強く意識されるようになりました。

結び

インドネシアへの進出の検討段階から、拠点設立段階、さらに事業運営段階で問題となることの多い点を中心にご説明いたしました。本稿がインドネシアにおける皆さんの事業展開のお力になれたら幸いです。

 

プロフィール

国際化支援アドバイザー松田 昭司
国際化支援アドバイザー松田 昭司

千代田中央法律事務所所属(弁護士、現在はインドネシア・ジャカルタにおいて勤務)。京都大学法学部、同大学法科大学院卒。2015年4月より、国際化支援アドバイザーを務める。