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COLUMN



「静岡県産の有機栽培茶をヨーロッパの人々に届けたい」 株式会社おさだ製茶(静岡県周智郡森町)

  • 2018-04-05
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静岡県が全国トップの生産量を誇る地場産業の茶。1948年創業の「おさだ製茶」は、上級茶の産地として名高い周智郡森町に本社を構え、契約農家から仕入れた荒茶(生茶葉をある程度乾燥させた半製品。市場での取引は生茶葉ではなく、荒茶の状態で行われている)を加工して、全国の小売に卸したり、自社ブランドの販売を行ったりする製茶問屋を営んでいる。
近年は、強みである有機栽培茶を柱とした海外輸出にも注力。すでにアジア諸国を中心に進出しているが、食の安全・安心に対する意識が高いヨーロッパでの販路拡大の可能性を探るべく、2016年度の中小機構の海外ビジネス戦略推進支援事業を活用してドイツを訪問、現地調査を行った。ドイツでの現地調査委を機に、海外展開に対する挑戦意欲はさらに高まり、新たな取り組みを進めているという。同社の3代目として入社し、現在は専務取締役を務める長田夏海さんに話を聞いた。
【インタビュー・執筆 青山まりこ(株式会社トランジット)】

 

企業DATA

01 所在地 静岡県周智郡森町森1146-1
代表者 代表取締役 長田辰美
業 種 茶製造、茶卸業 茶小売販売
資本金 1,000万円
従業員数 28名
URL http://www.osadaen.co.jp/
海外展開検討国 ドイツ
※平成30年3月現在

 

 

農薬も化学肥料も使わない有機栽培茶が看板商品


 

―――――長田さんは3代目ということですが、会社を創業したのはお祖父様ですか。

 

長田さん 正確にいうと、義祖父です。私は大学時代に知り合った妻と17年前に結婚して、おさだ製茶に入社しました。長田家は80年も男の子が生まれていなくて、実は私も2代目も婿なんです。

 

専務取締役 長田夏海さん

▲専務取締役 長田夏海さん

 

―――――商売の世界でよく言われる「婿の代に業績を伸ばす」を、2代に渡って体現しておられるのですね。

 

長田さん 私はまだまだですけれど、2代目の現社長は、農薬や化学肥料を使わない有機栽培の粉末緑茶を全国に先駆けて商品化したり、観光客の方も足を運びやすい幹線道路沿いに直営店を開いたりして、業績を伸ばしました。粉末緑茶は「どうしたら、有機栽培茶の魅力を引き出せるか」を考えて、1996年に発売した商品です。

 

―――――「煎茶まるごと物語。」ですね。

 

長田さん そうです。名前の通り、有機栽培された一番茶葉をすべて粉末加工したものです。カテキンなど、お茶の健康成分を手軽にまるごと摂取できるのが特徴で、折からの健康ブームにあやかり、大ヒットになりました。

 

▲水やお湯に溶かすだけの手軽さと、一番茶ならではの香り良さで人気の「煎茶まるごと物語。」

▲水やお湯に溶かすだけの手軽さと、一番茶ならではの香りの良さで人気の「煎茶まるごと物語。」

 

―――――茶葉は地元産のものを使っているんですか。

 

長田さん 30人の生産家が集まり、全量、有機茶づくりに取り組んでいる浜松市春野町の砂川共同製茶組合から供給していただいています。有機栽培茶は生産量が通常の茶葉と比べて手間がかかる上に、生産量は20%減、価格は20%増となるため、日本ではあまり普及していません。その意味で、砂川協同組合さんと連携し、原料の安定確保を実現していることは当社の強みになっています。

 

▲砂川協同組合の生産農家の皆さん

▲砂川協同組合の生産農家のみなさん

 

▲地元産の茶葉を使った自社オリジナルの緑茶関連商品が並ぶ直営店「おさだ苑」

▲地元産の茶葉を使った自社オリジナルの緑茶関連商品が並ぶ直営店「おさだ苑本店」

 

 

 

海外進出を想定した健康茶の開発


 

―――――おさだ製茶さんで海外進出をリードされたのは長田さんだと聞きました。

 

長田さん 人口減少、若い世代のリーフ茶離れなど、茶業を取り巻く環境は厳しさを増しています。国内市場の縮小が進む中、このままではいずれ会社経営が行き詰まってしまうという危機感から、10年ほど前に海外進出を決めました。農林水産省の有機JAS認証を受けていた当社の商品は、ステイタスのある日本茶の中でも品質が高いということで、ご縁のあった静岡県内の商社が窓口になってくださり、間接輸出で少しずつ販路を広げていったんです。そして海外ニーズに沿う形で、世界基準のオーガニック認定機関である「エコサート」の認証を取得したり、新製品の開発に取り組んだりするようになりました。

 

―――――ここで有機発酵茶の「山吹撫子(やまぶきなでしこ)」が誕生するわけですね。

 

長田さん ええ。きっかけは、酒造技術の研究者で「静岡酵母の父」と呼ばれる河村傳兵衛さん(故人)が、微生物による新しいお茶の発酵技術を開発したという新聞記事を目にしたことでした。「これだ!」と思い、すぐに河村先生にご相談して、その技術を使った有機発酵茶の開発に着手したんです。

 

―――――「山吹撫子」の特徴について教えてください。

 

長田さん 発酵茶は、不発酵茶と比べて脂肪の吸収を防ぐ成分が豊富で、ダイエット効果も期待できます。そのため、当初から健康志向の高い欧米での展開を想定していました。

 

▲「煎茶まるごと物語」と並ぶおさだ製茶の看板商品となった「山吹撫子」

▲「煎茶まるごと物語。」と並ぶおさだ製茶の看板商品となった「山吹撫子」

 

 

―――――開発はスムーズに進みましたか。

 

長田さん いや、それが初めは全然うまくいかなくて。「山吹撫子」は、専用の自社工房で特定の麹菌1種類だけを有機茶に付けて発酵させるのですが、菌がなかなか繁殖してくれなかったんです。やはり生き物なんですよね。特に室内の温度管理や水分調整が難しく、夜中に湯たんぽ代わりのお湯入りペットボトルを工房に運んだこともありました。そうした試行錯誤の末、2009年に商品化が叶いました。

 

▲「山吹撫子」は衛生管理を徹底した専用の工房で製造されている

▲「山吹撫子」は衛生管理を徹底した専用の工房で製造されている

 

 

―――――そして、長田さん入魂の「山吹撫子」を携え、いざ欧米へ、となったのでしょうか。

 

長田さん ところがそれもまた、簡単にはいかず・・・。「山吹撫子」に限らず、商社を通しての欧米輸出は難しいところがあります。

 

―――――どういうところが難しいのですか。

 

長田さん もっとも大きいのはコミュニケーションでしょうか。海外進出においては、現地市場独自の好みや需要を取り入れたローカライズ商品を投入していく取り組みが欠かせません。アジアではローカライズの軸が価格であることが多く、比較的わかりやすいのですが、欧米では緑茶はスーパーフードという位置付けなので、品質が重視されます。しかし、当社がお世話になっている商社さんは製茶専門ではないこともあって、現地の顧客からお茶の味わいや香りに対するリクエストをいただいても、私たちがそれらのお声に的確に応えられないという事情がありました。

 

―――――微妙なニュアンスが双方に伝わらない。

 

長田さん そうなんです。たとえば「もう少し浅めに煎ったお茶がほしい」と言われても、「もう少し」が具体的にどのくらいなのかがわからない。当然のことながら、欧米の販路はなかなか拡がることも、深まることもなく、次第に「現地ニーズを自ら把握して商品提供ができる直接輸出を手がけたい」との思いが募っていきました。2年ほど前に、地元ベンチャー企業「プロダクトリング株式会社」の代表で海外輸出コンサルタントの山本洋士さんという方と出会い、その方のお力添えで、香港や台湾などへの直接輸出はスタートさせることができたのですが、対欧米となると、やはりハードルが高い。そんななか、中小機構さんが海外ビジネス戦略推進支援事業の公募を行っていることを知り、渡りに船と応募したんです。

 

 

 

支援事業を活用して、ドイツ現地調査を実施


 

―――――海外ビジネス戦略推進支援事業で実際に取り組んだことについて、お聞かせください。

 

長田さん 2016年8月に採択された後、中小機構のアドバイザーの方と何度も打ち合わせを行い、アドバイスをいただきました。そのときに知ったのは、特にEUにおいては、パートナーであるディストリビューター(販売代理店)の活用が重要だということ。そして、良きディストリビューターと出会うために、自社の特性や強みを見極め、相手にどんなメリットが提供できるのかを端的に伝えるプレゼンテーション力も必須だと学びました。 その上で、ターゲット国をヨーロッパ最大のオーガニック市場であるドイツに決めるとともに、訪問目的を
1.既存の卸先との関係強化
2.ディストリビューター候補との面談
3.市場調査
としました。

 

―――――自社の強いポイントに気づくのは、案外難しいと言います。長田さんは婿という立場で、外から入ってきたからわかることもあるんじゃないですか。

 

長田さん それはそうかもしれないですね。会社の歴史的背景を見て、他社と比べてどうなのかということを徹底的に考えると、やはり品質へのこだわりに行き着くんです。製茶は香味を引き出す火入れ工程が重要で、会社によってやり方が異なるのですが、当社では原料となる荒茶を葉・茎などの部位ごとに3種類に選別し、それぞれ火入れの温度や時間を変える「選別式の後火仕上げ」という方法を採用しています。この方法はいくら機械化が進んでも、熟練した職人による微調整が欠かせません。

 

―――――常に新しいことにチャレンジしている会社という印象もあります。

 

長田さん そうですね。オリジナル商品の開発も、有機栽培茶の魅力を引き出す新しい方法はないかという取り組みの中で生まれました。海外ビジネス戦略推進支援事業は、そうした自社の強みを見つめ直す機会にもなったと思います。プレゼン資料の準備には苦戦しましたが、アドバイザーさんに相談しながら何度も作り直して、何とか渡航に間に合わせることができました。

 

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―――――現地アポイントはどのように取ったのですか。

 

長田さん まず、当社が調べたい項目や、訪問したい企業の要望を出し、アドバイザー経由で、各社に面談の申し入れを行いました。大手ディストリビューターとのアポイントも、中小機構さんの海外ネットワークによって実現し、1週間の滞在中に20社以上を訪問することができました。

 

▲ドイツでの企業訪問の様子。現地調査には輸出事業パートナーの山本さんも同行した

▲ドイツでの企業訪問の様子。現地調査には輸出事業パートナーの山本さんも同行した

 

 

―――――ドイツ現地調査を終えた率直な感想や手応えについてお聞かせください。

 

長田さん どの訪問先でも、非常に充実したディスカッションや情報収集を行うことができました。とてもハードなスケジュールでしたが、その分、収穫も多かったと感じています。たとえば、ヨーロッパでは煎茶にジンジャーやフルーツで風味を付けたフレーバーグリーンティーの需要が高いことや、日本茶が創作料理にも広く使われていることなどを知り、商品開発上の大きなヒントを得ることができました。ただ、驚いたのは、現地のオーガニック専門店などで安価な中国産の有機緑茶が想像以上に出回っていたことです。

 

―――――日本産の有機緑茶があまり流通していないということですか。

 

長田さん ええ。それを見て、改めてヨーロッパに十分な商機を感じるとともに、当社のこだわりの商品をもっと多くの方に知ってもらいたいという気持ちが強くなりました。

 

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お金儲けありきでは、海外進出はうまくいかない


 

―――――海外ビジネス戦略推進支援事業が終わってからは、どのようなことに取り組んでいるのですか。

 

長田さん 当社がこの商機を生かすには、ビジネスゴールを見据えたマーケティング戦略を立て、実践することが必要だと考えました。具体的には、まず「Osada tea」という名の海外専用ブランドを立ち上げ、オリジナルパッケージも作りました。

 

▲パッケージデザインにもこだわった海外専用ブランド「Osada tea」

▲パッケージデザインにもこだわった海外専用ブランド「Osada tea」

 

 

―――――和柄をあしらったモダンですてきなパッケージデザインですね。

 

長田さん ありがとうございます。ヨーロッパでは、棚に陳列しやすくて見栄えのいい自立式のパッケージが好まれるというのも、現地調査でわかったことです。今後は戦略商品の開発や、ドイツのオーガニック展示会「BIOFACH(ビオファ)」をはじめとする海外展示会への出展も計画しています。

 

▲抹茶は缶パッケージで展開。「抹茶の世界的なブームを追い風にしたい」と長田さんは話す

▲抹茶は缶パッケージで展開。「抹茶の世界的なブームを追い風にしたい」と長田さんは話す

 

 

―――――最後におさだ製茶さんの将来的な展望をお聞かせください。

 

長田さん ヨーロッパ輸出を本格化させ、現在は4.8%にとどまっている海外売上高比率を20%に持っていくのが将来的な目標です。そのために、「FSSC22000」の認証取得をめざしています。

 

―――――「FSSC22000」というのはどんな認証ですか。

 

長田さん オランダの食品安全認証財団が開発したという食品安全マネジメントシステムで、食品安全対策(フードテロ、原材料やアレルギー物質の管理など)について具体的に定めているのが特徴です。日本の食品業界でも比較的普及しているHACCPを進化させた規格といえば、わかりやすいかもしれません。国際取引において事実上の標準となっているので、ヨーロッパへの輸出を増やそうと思えば、FSSC22000の認証取得は不可欠なわけです。そこで、FSSC22000の認証基準を満たす新工場の設立を決意しました。当社にとっては大きな挑戦になりますが、「今やらなければ未来はない」という強い意志を持ち、2019年春の稼働をめざして準備を進めています。

 

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―――――それは、自社だけがお金儲けをしようと思うとできないことですよね。

 

長田さん まったくその通りです。製茶問屋は生産農家と共存共栄の関係なので、私たちが現状を打開し、販路を広げる努力をすることは生産農家を守ることにつながる。そして、静岡の茶産業と日本の緑茶文化を少しでもよい形で次世代に受け継ぐ一助になりたいと考えています。

 

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