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COLUMN

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「新市場開拓と日本式理容に従事する人材育成のためベトナムへ進出」 ‐有限会社銀座マツナガ‐


  • 2017-03-16
  • ベトナム
  • 海外拠点設立方法
  • 美容関連
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(有)銀座マツナガ

創業から銀座で半世紀弱の歴史を持つ理容店

理容店の銀座マツナガは、1968年7月、同社社長である松永 巳喜男氏が27歳の時に東京の銀座中央通りに開業したことに始まる。「お客様と感動を」を経営理念とし、理容サービスの内容は、一般的な理容店と同じくヘアカット、シャンプー、蒸しタオル、シェービング、マッサージとシンプルながらも、お客様目線での丁寧な施術で、現在、従業員数95名、店舗数では、銀座、八重洲、日本橋、新橋、浅草、新宿の他、海外の姉妹店含め約20店舗を展開する理容店へと成長している。
理容業は、元々個人経営の店が多い業界であるが、経営者の高齢化や後継者の減少、規制緩和による男性の美容室利用の増加、ヘアスタイルの多様化による若年層を中心とした理容店離れなどにより、1985年の14万4,939店舗をピークに店舗数を大きく減らしている。理容師の成り手も減少しており、文部科学省が毎年行っている学校基本調査によると、1986年には3,362名だった理容学校卒業生は、2016年には664名となっており、この30年の間に約5分の1にまで減っている。
同社はこうした中で、有限会社として法人化し、需要の旺盛な都心部を中心に店舗展開を図るとともに、これまで松永社長の下から独立した弟子たちの店も含めて毎年60名近くの新人理容師を採用・育成しながら営業している。

 

海外展開の狙いは新市場開拓と日本式理容に従事する人材の育成

松永社長が海外展開を目指した狙いは、国内市場の縮小を見越した新たな市場の開拓とともに、こうした理容人材を、人口が増加するASEAN地域で育成できないかと考えたことにあった。現在の法制度では、日本国内で理容業に従事するには、都道府県知事に指定された理容師養成施設に通い、そこで必要な知識と技能を修得した上で国家試験である理容師試験に合格する必要がある。海外で育成した人材を日本にそのまま連れてくることはできないものの、アジアの発展途上国の若者に日本式理容の高い技術やサービスを教えて、将来的に彼らがその国で自分の理容店を開けば、日本式理容が海外に拡がっていくことになる。それは、日本国内の理容師にとっても活躍の場が拡がることにつながり、理容師という職業の魅力を高めることにもなる。そしてそれが、理容師になりたいという若者の増加につながってくれれば良いと考えた。

 

進出先検討のため各国の投資環境を情報収集

海外展開の準備として、松永社長はまず、どこに進出するかを検討するため、各国の現地事情や国民性の違いなどの情報収集をすることから始めた。松永社長は現在も現役の理容師として店に出ており、お客様と施術中に交わす会話からも、多くの情報を得ることができた。その中で、ASEAN各国の人材を使って旅行代理店を経営している方がおり、その方が「ASEAN諸国の中でも、ベトナム人は非常に勤勉で、真面目で、親日的で、かなり優秀だ」という話をしていたことから、松永社長はベトナムに興味を持ち始めるようになった。
ちょうど時期を同じくして、日本貿易振興機構(JETRO)から、ベトナム現地視察ツアーの案内が届いた。これは、ベトナム進出を検討するサービス業を対象に現地視察を誘うもので、松永氏はこのツアーに、20年以上共に同社で働き、自身が絶対的に信頼を寄せる片腕的存在の副社長を参加させることにした。同ツアーは、往復の機内泊を含めて1週間程度の日程で、ベトナムのホーチミン市とハノイ市を訪問するものであった。視察から戻ってきた副社長は、松永社長が先に顧客から得ていた情報を証明するかのように、ベトナム人を非常に良く褒めた。報告を受けた松永社長は、今度は自社の人間だけでベトナム現地を視察することにした。

 

現地視察を通して差別化が図れることを確認

自社の視察ツアーの手配は、旅行業者に依頼したためスムーズであった。しかし、問題は社内に英語を話せる者がいないこと。もちろんベトナム語が分かる者もいない。そこで、店のお客様の一人で、ベトナム市場に詳しい経営コンサルタントの方に、現地で日本語学校を経営する日本語が堪能なベトナム人女性を、現地視察時の通訳兼案内役として紹介してもらった。
視察はベトナムのホーチミン市に絞り、正味3日ぐらいの期間で行った。実際に現地の色々なお店を回り、現地の空気を肌で感じることを意識した。理容師の資質としては手先が器用であることが重要であるが、刺繍や竹細工といったベトナムの伝統工芸品を見たり、ネイルサロンに入ってベトナム人の見事な技術を体験してみたりして、ベトナム人の手先の器用さを実感した。また、今回の目的として、何より現地の理髪店を見たいと思っていたが、たまに木陰や軒下で髪をカットしているような光景は見られたものの、銀座マツナガが行うようなレベルの理髪店はなかった。日本や他国からの外資系美容室は進出していたが、日本式理容のスタイルで営業しているところは見当たらず、差別化が図れると感じた。
通訳兼案内役として紹介された方は、日本語が非常に堪能で、言葉の面以外においても非常に協力的に動いてくれた。視察時に、その方の知り合いで、20代のこれまた日本語が堪能な女性を紹介してくれたのだが、この人は過去に浜松の日本語学校に留学をしていて、日本人が経営する美容室で一時期勉強していたこともある人物だった。話をすればするほどに意気投合し、ベトナムには理容の学校や免許制度がないから、銀座マツナガがベトナムに出てきて、現地で理容の知識や技術を教えてくれれば喜ぶ人も多く、進出の折には是非協力すると約束してくれた。

 

コンセプトは日本と同じレベルのサービスを提供すること

こうして現地での視察を終えて、その可能性を直に実感した松永社長は、進出先をベトナムのホーチミン市に決めた。出店に向けた準備には、副社長を中心に据え、松永社長との二人三脚で、店舗の内装工事、理容関連資材の調達、人材の確保といったことの調整に当たった。
店舗の設計や内装工事については、細部にまでこだわってお願いしたかったこともあり、ベトナムに進出している日本資本の設計・施工会社に依頼した。日本の企業のほうが、日本語で細かい注文ができるし、責任を持ってやってくれると思っての判断であった。
店舗で使用する設備や消耗品などの理容関連資材はすべて日本から持っていくことにした。パーマ液やカラー薬等の消耗品については、現地に似たようなものがあっても、メーカーによって微妙に違いがあり、また施術で使うタオルも、現地のものは微妙にサイズや厚みが異なる。今回の出店に際して、松永社長は、「ベトナムでも日本とまったく同じレベルのサービスを提供する」ということをコンセプトに掲げようと考えていたため、そうしたちょっとした違いにも妥協したくなかった。そこで、お客様相手に使うものはすべて、開店に間に合うように船便で日本から送った。
人材については、開店の1か月くらい前に、店長1名とスタッフ1名を日本から派遣し、アシスタントには現地のベトナム人を4人雇った。国内から派遣する店長とスタッフは、技術的に優秀でかつ、真面目さ、誠実さなどの人柄・性格の良い人を選んだ。現地のスタッフは、未経験者を雇って育成する方針にした。ベトナムには優秀な若者が溢れており、採用で苦労することはなかった。また、これとは別に、既述の日本に留学経験のある日本語堪能なベトナム人女性にも通訳を兼ねて来てもらうことになった。
価格設定は、その女性に相談して決めた。当初は日本での価格設定よりも少し低めの4,000円程度にしようと考えていたが、女性から「とんでもない、そんな高い価格ではベトナムでは誰も来ない」と言われ、その意見を参考に最終的には2,500円に決めた。実はベトナムには国営の散髪屋があるが、その価格がだいたい400円前後だという。それを考えると、ベトナム人の感覚では2,500円でも十分に高価格である。そこで出店当初の顧客ターゲットは、在留邦人に照準を絞ることにした。
現地駐在の日本人に開店を知らせるため、現地の広告雑誌「スケッチ」に広告を載せることにした。この雑誌は、日本企業の情報が多く掲載されており、病院から幼稚園まで、在留邦人が現地で生活していく上で必要な情報が充実しているという。
こうして、多くの日本人に同社の出店を知らせることができ、2014年7月、ついにベトナムのホーチミン市内に同社のベトナム1号店を開店した。

 

開店後は順調に推移し多店舗展開へ

開店後は、当初こそやや苦戦したものの、徐々に日本と同じきめ細かなサービスが受け入れられ、業績は順調に推移した。好調な1号店の業績を受けて、その後、同じホーチミン市のインターコンチネンタルホテル内に2号店、ベトナムの高級ホテルであるカラベルホテル内に3号店と店舗を拡大している。
店舗拡大の中で苦労したのは、ベトナム人従業員の管理である。ベトナム人スタッフは真面目で勤勉ではあるが、契約にない残業等はしないし、決められた労働時間以上に働くことはしない。そのため、契約時にしっかりと話し合い、契約の範囲を考えて管理していくことが必要である。また、給与やボーナスの支払いについても現地のやり方を尊重しないといけない。定期的に昇給させたり、旧正月の前や盆暮れの時期など年4回程度、わずかながらボーナスを支給している。
ベトナム人スタッフとのコミュニケーションについては、基本は英語と片言の日本語を通じて行っているが、今のところ大きな問題は発生していない。しかし今後は、在留邦人以外のベトナム人や他の外国人にも顧客ターゲットを拡げていきたいと考えているため、日本人スタッフもベトナム人スタッフも双方が、英語力をさらに磨いていく必要があると感じている。

 

今後はベトナム全土や周辺のアジア諸国への拡大を検討

同社は進出にあたり、現地パートナーとの合弁による現地法人を設立した。合弁にしたことで、何か問題が発生した時に日本資本だけの法人よりも、様々な交渉がスムーズに進むと期待した。実際に、これまで大きなトラブルもなく想像以上に順調に事業が進んでいるのは、この合弁パートナーが様々な点で力になってくれているからだと感じている。また、現地に進出してから、現地の日本人同士のネットワークにも情報収集の面などで、大いに助けられている。
ベトナムに進出したことで、日本国内のスタッフにも良い影響が出ていると感じる。スタッフは理容の技術を磨けば海外でも活躍できるかもしれないという夢を抱けるようになった。松永社長は、今後ベトナム全土や周辺のアジア諸国へさらに店舗を拡大していく計画であり、そのため国内の従業員にもこれから本格的に英語教育を始めようと考えている。
これから海外進出を考えている方々へのメッセージとして、松永社長は「私どもも向こうに行って、違う業種の人たちとも付き合っているけれど、思っていたよりもスムーズにいっているケースは多い。挑戦する価値は十分にあると思う」と話してくれた。

 

 

 

 

Profile プロフィール

(有)銀座マツナガ 松永社長

有限会社銀座マツナガ 代表取締役社長松永 巳喜男 氏

所在地  東京都中央区銀座2‐6‐5     藤屋ビル地下1階
創業    1968年
資本金   1,500万円
従業員数  95人
事業内容   理容業
電話番号      03‐3567‐6870
URL       http://www.ginzamatsunaga.com/


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