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COLUMN

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リーマン機に東南アジアに活路、現地で委託生産し販売 - 檜工業株式会社 –


  • 2016-04-28
  • インドネシア
  • 海外拠点設立方法
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インドネシアの陽気なスタッフと社長(左から2番目)

檜工業は、産業用向けが主力の空調周辺機器メーカー。天井や壁面に設置する冷暖房の吹き出し口・吸い込み口や、空調の換気・気流調整・防火・防排煙用のダンパーなどを製造している。建設・設備会社を通じて、トヨタ自動車など自動車メーカーの塗装・組み立てラインや、製薬や食品、製鉄工場などに納品している。ダンパーは500度Cの環境下で使用可能な耐熱性を高めたものや、気密性に優れ、細かい気流コントロールができる製品を得意とする。
このほか、オフィスビルやホテル、ショッピングセンター、官公庁など工場以外にも納入しており、さまざまな業種で利用されている。また、吹き出し口は、鉄、アルミ、ステンレスに加えて、88年からは檜や杉、スプルース材を使った木製タイプの製造を開始した。東北地方の和風旅館で全部、木製で作りたいという話があり、その要望に応える形で始めた。神社や仏閣、旅館の和室向けに使われている。林泰博社長は「お客様の特殊な要望にあわせて、設計から材質選定、塗装の仕方、シャフトの太さなどを決めて、作りこんでいる」と話す。2015年8月期の売上高は約6億円。

 

 

 

親日的で日系メーカーも多いことが決め手

海外進出のきっかけになったのは、2008年のリーマンショックだ。同社の強みとする産業界が大打撃を受け、吹き出し口やダンパーの受注が減少。林泰博社長は「今後、日本経済がどうなるのかわからない中で、会社の特色を出す必要があった」と危機感を抱いた。そこで、海外進出や他分野への進出といった新機軸を打ち出すことにした。海外進出で本格的な検討を始めたのは今から5年ほど前だ。「設備投資をすると腰が重くなる。海外に工場は作らない」方針から、販売会社を設立し、販路拡大に活路を見いだす。社長自ら直接納品先の設備会社に同行し、中国の上海や広州、フィリピン、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアを回り、日系工場などを視察した。中国やタイは需要を見込めそうだったが、他社によって「市場の形や流れができている国に行っても仕方がない」と判断。インドネシアに決めた理由は、日系メーカーの進出多く、親日的だったためだ。「混とんとしている中で、我々にチャンスがありそう」と感じた。
同国の進出にあたり、静岡県が主催する静岡県経済ミッションに参加したり、中小企業基盤整備機構のF/S支援事業を活用したりして調査した。F/S支援事業は、海外生産拠点の設立や販路開拓を目指す中小企業を対象に、現地の市場調査や専門家の現地同行、翻訳費用の一部補助などを受けられる。同社はインドネシアに駐在していた元三菱商事の人物を紹介してもらい、「個人では行けない、大使館や領事館に行くことができた」という。訪問先の日系の工場で、「メンテナンスも仕事になるという話を聞けた」のも収穫だった。また、地元の静岡銀行にも住む場所などで世話になった。「最初はつてが少ないので助かりました」。そして、2014年5月、インドネシアのジャカルタに同社97%出資の現地法人「ネクサス HKJ インドネシア」を設立。当時、同国の法律で1社の100%出資はできなかったため、残り3%は林泰博社長が個人で出資した。

 

 

 

品質管理と納期管理は絶対必要

インドネシアでは、ただの販売会社にするつもりはなかった。日本から自社で製造した製品の輸出だけでなく、現地で自社製品の製造委託が可能なメーカーを探し、「現地生産、現地販売」を目指したのだ。生産委託先の選定には中小機構や静岡銀行の紹介を受ける一方で、自ら精密な板金加工ができる機械設備を保有する企業を探した。「ローカル企業を中心に30―40社を見て回り、品質、言語に問題がないか」を調べた。現在、日系と現地の加工会社を2社ずつ選定し、生産を委託。コスト重視の顧客には、現地生産により安価に製品を供給できるようにした。2014年度は日系メーカーを中心に納入し、売上高は約4000万円。このうち8割が現地生産品だ。現地では生産が難しい製品を日本から輸出している。今後は部品だけ日本からインドネシアへ送り、現地で組み立てて、コスト削減を図ることも検討している。この取り組みが順調に進めば、ミャンマーなど他国でも同じように展開できる。工場進出と異なり、初期投資を抑えることができるのがメリットだ。

檜工業、本社・工場
だが、この現地生産が苦労の始まりでもあった。「現地法人を立ち上げてから、試行錯誤して動いている」と吐露する。「言葉の問題もあって、ローカルメーカーを使いきれていないところもあるが、品質管理と納期管理は絶対必要」だという。ローカルメーカーには直接、社員を派遣して指導しているが、頻繁に行き過ぎては経費がかかり、現地生産の意味が薄れる。このため、電子メールや、写真やメッセージを送れるアプリのラインなどを活用した。「ラインで写真を撮って、溶接の品質チェックをしたことも」あった。それでも、定期的な訪問は欠かせないため、機械加工に詳しい現地在住の日本人を見つけ、管理を委託し、チェックできる体性を整えている。社長自身もインドネシア出張が多くなった。このため、社長不在時にも各部門の責任者の持つ裁量範囲を拡大させた。従来は、どうしても最終決定を社長に仰いできていたが、社員の意識が変わっていった。月1回の定例会議で会社の方向性を決定した後は、「それぞれが動き出すようになった」と良い面も。
物流でも一苦労あった。日本から輸出した製品がジャカルタの税関で滞留することがあった。製品の申告額と本当の価値が違うから、関税を多く支払え、というのだ。つまり、賄賂である。「税関の担当官によって対応が違うのが当たり前と、みんな言っている」と進出企業の苦労を語る。こうなると、納期や関税を含めた物流コストがはっきりしなくなってしまう。この問題は日本の物流業者が日本からシンガポールへ輸送し、そこからインドネシアの物流業者がジャカルタまで輸送することで解決した。現地の業者はこのような事例に精通しており、関税でストップすることはなくなった。

 

 

 

法律にどう対応すべきか

「法律が変わりすぎる」点も悩みの種だ。同社は2014年4月10日に政府から会社設立の承認を受けたが、同20日前後には法律が変更。外資系販売会社の出資比率が制限され、現地企業と共同出資を義務付けられた。承認が遅れていたら、進出計画は大きく変わってきた。また、昨年は、前年の法律に従って、「税金を払い過ぎそうになった」という。現地スタッフが間違えに気付き、過払いは避けられたが、「法律が毎年のように変わるため、勉強が必要」という。昨年7月からは外資系企業を含めて、インドネシア国内の決済はルピア通貨の義務化が始まった。「日系同士や欧米系企業との取引はアメリカドル決済だったが、ルピアに切り替えた。日本人スタッフの給与もルピア」という。さらに今年の1月には、日本本社から現地法人へ資金融通する場合、ルピアベースで一定金額を銀行に預金しなければならなくなったという。
法律によっては施行後も罰則がなく、黙認されているケースもある。数年前、就労ビザの取得要件に学歴が加わり、取得が厳しくなりそうな法改正があった。だが、大学を卒業していない60、70代の技術系の日本人が現地企業に技術指導していることがあり、「そういうのも駄目なの?と大騒ぎになった」。結局、高卒や高専卒でも就労ビザの取得はできるようになり、同社も事なきを得たのだが、インドネシアの法律をただしく理解するには大変だ。
現地スタッフの採用も大事だ。特に会計は重要で「先に進出した会社から、信頼できる人を置かないと大変なことになると言われた。騙されるという話をよく聞く」という。中小企業の場合、派遣する人員が限られるため、「日本人が1人、2人で営業や工場管理に手いっぱいで、経理まで見ていられなくなる」という。同社では経理事務員1人の枠に対して、50人以上の採用面接を行い、税金の払い過ぎに気付ける人材を雇用できた。優秀な人材には「日本にも連れてくるとか、家族付き合いも必要」という。ただ、「景気が良くなると、給料の高いところにあっさり転職してしまう人も・・・」と悩みは尽きない。
一方、同社の国内工場ではインドネシア人の技能研修生を雇用している。今年の4月で6人が働くことになる。ここで技術を学んだ研修生のうち、数人を現地法人で社員として雇用し、メンテナンスや受注時の現地打ち合わせ、ローカルメーカーなどの品質管理を担当させたい考えだ。現在現地法人で働いているスタッフも日本に呼んで研修させることも考えている。

 

 

 

オールジャパンを呼びかけ

今後、同社では更なる販売会社としての機能向上を進めている。自社製品以外の空調機器の販売、メンテナスサービスだ。「ここ1年ほど、お客様のところに営業しながら、工場で必要とされているものを調査した」結果、自社製品だけではカバーできない製品に需要があることがわかった。日本の空調機器関連メーカーと団結して、「同じ吹き出し口でも弊社で作っていない製品など比較的近い製品も、積極的に営業をかけてく」考えだ。これらの製品をインドネシアに輸入して、現地工場で簡単なカスタマイズが求められた際には、同社と契約しているローカルメーカーの生産工場を生かして、対応できるようにする。「2020年の東京オリンピックで国内需要は一時的に増えるだろうが、長いスパンで見ると、国内需要は減っていくのは避けられない。海外で中国や韓国に対抗するには、オールジャパンで行くしかない」と話す。現在、7、8社に参加を呼び掛けている。これも実現すれば、「自社はインドネシア担当として他社製品を含めた営業活動に取り組み、ベトナムなど他の国は他社に販売を委託してもらう方法もある」と構想は膨らむ。

日本政府への要望としては「日本企業が進出しやすくすることと、海外の受注を取れるような後押しをしてほしい」と話す。「インドネシアの高速鉄道は中国がとった。そうなると駅周辺も中国系で固められるだろう。影響は大きいと思う。(今、中国の受注で問題が起きているが)日系が取れれば、日系に流れるものも多い。鉄道以外も日本政府の後押しで、受注が取れるようなら、我々中小企業にも恩恵があると思う」と政治力を期待している。

 

 

 

【メッセージ】 OKYの精神で

「O(お前が)K(ここにきて)Y(やってみろ)」の精神を忘れないことが大事という。「初めて海外に進出する中小企業は、社長みずから何度も現地に行って、見て、感じてくるのが良いと思う。1回や2回行ったくらいではわからない」と話す。現地にいると、賄賂や治安などさまざまな問題が起きる。「日本人を一人で行かせて、まかせっきりにして困っている会社をよく見る」という。
「現地の従業員もどうしたらいいかわからず、決断ができない。会社との行き来以外、家に閉じこもって人付き合いしなくなる人もいる。社員のサポートは大事。マメに連絡をとること。顔が見えると違う。スカイプ(ビデオ通話ができる無料ソフト)で顔を見ながら、繋がりを感じてもらう」メンタルケアが大事だという。現地の飲食店では大手企業の工場長などと偶然、顔を合わせる機会も多いといい、家に引きこもってビジネスチャンスを逃すのは会社にとっても不幸だ。
インドネシアの現地法人の立ち上げに当たり、夫人を総務や経理を担当として、常駐で派遣させた。社長夫人は「最初は嫌がっていたが、今は楽しんでいる」という。社長自身も昨年だけで10回出張した。「自分たちでまず経験して、苦しんでみて、最初の入り口を作る」ためで、「2年間経験して、状況がわかってから、社員に任せる」。

 

 

 

Profile プロフィール

檜工業、林泰博社長jpg

檜工業株式会社 代表取締役林 泰博 氏

所在地   静岡県御殿場市神場2273-1
創業    1968年
資本金   3750万円
従業員数  60人
電話  044-588-0464
FAX   044-599-4701
URL http://www.hinokikk.co.jp/


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