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COLUMN

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「“北海道の本物の味”を武器に弁当・惣菜でアジア市場に挑戦」 ‐株式会社アイチフーズ‐


  • 2017-03-02
  • シンガポール
  • 海外拠点設立方法
  • 食品関連
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アイチフーズ集合写真

 

こだわりの弁当・惣菜でチェーンを展開

持ち帰り弁当や定食屋レストランを運営するアイチフーズは、1981年に、現社長である森谷明弘氏が札幌市で設立した。当初は、全国チェーンのフランチャイジー(加盟店)として、寿司や弁当、おにぎりなどのテイクアウト店を運営していたが、チェーン本部が弱体化してきたため、約3年で脱退。その後は、蓄積したノウハウをもとに、自社ブランドの立ち上げや買収などで、持ち帰り・宅配弁当チェーン「ベントス」、和食レストラン「定食屋ジンベイ」や蕎麦処「はまなす」など次々と新たなブランドを展開し、事業を拡大。現在は北海道内を中心に直営とフランチャイズで約35店舗を展開・運営している。

弁当や惣菜などを外で買って自宅等に持ち帰って食べる中食(なかしょく)の需要は、女性の社会進出や単身世帯の増加を背景に飛躍的に伸びているが、一方、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、デパート、ファミリーレストランなども弁当や惣菜の品揃えを強化しており、競合先は非常に多い。そんな中で、価格競争に巻き込まれずに事業を成長させるには、他社では真似ができないような自社ならではの独自色を出していく必要がある。そこで同社は、栄養士の資格を持つ社員によるバランスの取れたメニュー開発に加え、食材はできるだけ国産品を用いて、その一部は札幌市内の自社農園で育てた野菜を使用するなどしており、自社での調理工程において添加物は一切使わないという食の安全性と健康志向を売りにしている。また、調理は札幌市内にセントラルキッチンを設け、そこで食材の一括仕入れと下ごしらえ等をすることで仕入れ価格の上昇を抑えるとともに材料の廃棄ロスを減らしているが、そこではあえて半加工状態にとどめて各店舗での調理工程を多くすることで、できたての状態を提供し、他社との差別化を図っている。

 

アジアでの食品展示会出展をきっかけに新たな海外進出に意欲

同社が初めて海外に進出したのは2005年、アメリカ・ロサンゼルスのスーパー内への出店だった。日系スーパーの経営者から出店要請を受け「U.S BENTOSS」の名前で、現地の日系人をターゲットに弁当の販売を開始した。その後アメリカの店舗は現地法人に売却してフランチャイズ化し、現在は現地のフランチャイジーがメニューの開発から食材の調達まで独自の展開を図りながら営業を継続している。

今回、新たに同社がアジア進出を考え始めるようになったのは、2014年8月に道内の支援機関からの誘いで出展した「香港フードエキスポ2014」がきっかけであった。これは香港貿易発展局が主催する飲食料品に関するアジア最大級の食品展示会で、例年、トレード・バイヤーは約2万人、一般来場者は約41万人が訪れると言われている。この展示会に出展することになった同社は、BENTOSSの惣菜・弁当商品の中から数種類を選んで、会場で展示・販売した。すると、思いがけず、大きな反響を得た。惣菜を作るために用意していた食材は途中で底を尽き、最終的には売る商品がなくなってしまうほどの盛況ぶりであった。

国内事業の業績が好調だったため、新たな海外展開は特に考えていなかった同社だが、この出展を通じて、自社の商品がアジアでも広く受け入れられることを認識した。それが自信にもなり、またアジアの購買力を目のあたりにして、将来的に予想される国内市場の縮小に早くから備える意味からも、人口増と経済成長が続くアジア市場への進出を本格的に考え始めることにした。

 

社内で議論を重ね、進出先をシンガポールに決定

進出に向けての検討は、同社で取締役社長室長を務める野澤 健氏、取締役飲食事業本部長を務める田岸 宏悦氏を中心に、森谷社長以下数名で担うことになった。

まず進出先であるが、「香港フードエキスポ2014」での出展が好感触であったことから、当初、進出先として香港を検討していた。実際に展示会の反響から、香港への出店の打診も複数あった。一方、同じ頃に、普段から親交のある北海道貿易物産振興会から、シンガポールの日系スーパーへの出店の誘いがあった。北海道貿易物産振興会は北海道の貿易振興と道産品の販路拡大を担う社団法人で、国内外で道産品の展示即売や観光PRをおこなっており、すでに当該スーパー内に「カムイン北海道」というアンテナショップを構えていた。その中に出店しないかということであった。収支予測などを立てて社内で議論を積み重ねた結果、最終的にシンガポールの案件のほうがより収益を確保できる見込みが高いと判断し、進出先をシンガポールに決定した。

 

あえて「ベントス」の味そのままで勝負することに

その後は、出張で現地に赴き、どのようなものが売れているか、塩分や油分など現地の人の味の嗜好はどうか、似たような業態の商品の価格帯はどうなっているかなど、市場調査を重ねた。その結果、シンガポールでは従来見られなかった持ち帰りタイプの総菜店が都心を中心に徐々に流行り出していることや、現地の人は日本と比較して塩味が抑え目で油分は若干多めの味付けを好むこと、現地での価格設定は日本のそれよりも若干高めに設定されていることが多いことなどが分かった。

一方、進出先として考えている日系スーパーは、シンガポールでも有数の繁華街であるMRTクラーク・キー駅の近くに位置し、多くの在留邦人が利用するほか、日本の食や文化が好きな地元の住民が、日本の食品を求めて買いに集まってくる場所であることも分かった。

これらの調査結果を踏まえ、同社は他社と差別化を図るためには、現地の味に合わせるよりも、日本の北海道で広く受け入れられている「ベントス」の味そのままで勝負したほうが良いと考えた。そこで、基本コンセプトを「北海道の本物の味」とし、日本国内と同じレシピ・味で展開していくことを決めた。

 

出店に向けて現地法人を設立し、準備を進める

市場調査を3カ月ほど実施し、本格的な出店準備に入るため、2015年6月、100%出資の現地法人「アイチフーズ・シンガポール」を設立した。支店ではなく現地法人にしたのは、シンガポールではそのほうが比較的簡単に設立できるのと、税制上のメリットを考えてのことであった。支店の場合、意思決定や債権債務に関する責任は、最終的には日本の本社にあり、本支店間の資金移動も自由にできるというメリットがある。一方、税務上の損益は本社の損益に含められて課税されるため、赤字の場合には本社の利益と相殺して本社で節税することができるが、そうでない場合はせっかく利益を上げても日本の税率が課せられ、シンガポールの低税率の恩恵を受けることができない。現地法人の場合は、親会社から法的に独立した存在であり、シンガポールの法律に基づいて自らが法的行為を行う必要があるが、決算においても現地の税制が適用されるため、シンガポールの事業で利益が見込める場合は低税率の恩恵を受けることができる。同社は現地で利益を見込めると判断し、税制上有利な現地法人の設立を選択した。

出店先は日系スーパー内のフードコートの一角に決まった。店舗の設備については前テナントのものを買い取り利用させてもらえることになった。それ以外に必要な厨房機器は、スーパーの担当者から日系の大手厨房機器メーカーのシンガポール法人を紹介してもらって調達した。

人材については、日本で店長経験がある人物を1名、現地の店長として日本から派遣した。その他のスタッフは現地の企業に依頼し、飲食店での従事経験者を中心に5名ほど紹介してもらい採用した。

提供するメニューは、蕎麦や丼物など約20種類を扱うこととし、食材は、現地に日本の食材や北海道産の食材を扱う日系の卸会社があるので、多くはそこから調達することにした。一部の食材や食器類、什器などは日本から送らなければならないものもあったが、道内にシンガポールへの物流を行っている企業があったので、委託した。

価格については現地の同業態の飲食店の価格帯を参考にしたが、食材にこだわった結果やや高めの水準となった。

出店までの準備で、特に大変だったことの一つは日本から派遣する店長の住居探しであった。シンガポールは家賃が非常に高く、なかなか適当な物件が見つからなかった。金額を抑えようとすると築50年ぐらいのボロボロの住居しかない。結局、札幌の物価の感覚では非常に高いと感じる物件に決めたが、派遣される社員の安全面やモチベーション等を考えると仕方がないと判断した。

開店の1カ月ほど前には、札幌市が事務局を務める外食産業海外展開実行委員会主催の外食企業進出支援を利用した。これは、道内の関係機関や自治体等が連携して、道内企業の海外進出の取り組みを後押しするもので、シンガポール最大規模のショッピングセンターである「ジュロン・ポイント」内の「和テンション・プラザ」に屋台ブースを出展し、実演販売でシンガポール市民に商品を提供して、食味や価格、素材、量などが現地に受け入れられるかを検証するものであった。進出先のクラーク・キーとは地理的に離れており、客層が異なるため、テストマーケティングとしては期待していたものと違ったが、正式な出店前に食材の仕入ルートをあらかじめ確認できたのは収穫だった。

このような準備を経て、2015年10月、同社のアジア1号店がシンガポールにオープンした。

 

日本本社が現地法人の店舗運営を支援

オープンしてから約1年、売り上げは順調に伸びている。当初、客層は在留邦人が中心になるだろうと予想していたが、「北海道の本物の味」は現地の人にも受け入れられ、今では約8割が現地の人だと言う。

一方、現地スタッフの教育、マネジメントには苦労している。現地のスタッフは、突然辞める、休むといったことが日常茶飯事で、急に人が抜けた場合は、いる人で何とか対処している状況である。また、英語のマニュアルが未整備で、今は店長が日本語の写真付きマニュアルを使って身振り手振りでなんとか教えているが、大きな負担となっており、早急に対応していく必要があると感じている。

現地スタッフが少ないこともあり、店舗運営に関しては、現地のアイチフーズ・シンガポールと日本本社がフランチャイズ契約を結び、様々な面でバックアップできる体制をとっている。商品開発や販促企画、販促ツールの制作などを飲食事業本部が、会計業務は管理部が担うことで、国内で培ってきたノウハウを提供するとともに、現地法人側は店舗運営に集中できるような体制になっている。

 

 2号店のオープンと今後の展望

1号店の業績が好調なことから、2016年9月には、2号店として同じスーパー内に持ち帰り専用の弁当や総菜を販売するデリカショップをオープンさせた。こちらも出足は好調である。

シンガポールに出店してから、2か月に1回ほどの割合で本社社員が現地に応援に行くようになり、これまでに10人以上の社員がシンガポールに足を運んだ。その結果、少しずつ同社の海外事業に目を向ける社員が増えてきたと感じている。

同社のアジアでの事業は始まったばかりだが、今後はシンガポールでの事業を順調に伸ばし、それをベースに、将来的にはベトナム、フィリピンなど周辺の東南アジア各国へと事業を拡大していきたいと考えている。

 

 

 

 

Profile プロフィール

アイチフーズ野澤社長

株式会社アイチフーズ 取締役社長室長野澤 健 氏

所在地  北海道札幌市豊平区平岸1条2丁目4‐7
創業    1981年
資本金   3,500万円
従業員数  52名
事業内容   持ち帰り・宅配弁当チェーンの運営、食材の卸売販売
電話番号     011‐816‐6211
URL    http://bentoss.co.jp/


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